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本編

17.勇者の仲間たち(1)

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 ルーチェはあのあと、しばらく一人で頭を冷やしてから、昼食を持って浄化の間に戻った。
 幸いレオがまたからかってくることはなく、たまにレオの思わぬ行動や発言にドキドキしながらも、あの話は蒸し返されなくて済んだ。


 一日を終えて、ルーチェは自室でほっと息をつく。

 自分も、あんなことを言ってしまうなんて……。
 レオの新しい一面に、どぎまぎしていたのがあるのだろう。
 冷静になれば、あの浄化をするかと自分から言うなんて、どうかしている。
 いや、レオを早く解呪してあげたい気持ちは本当だけれど……。

 ルーチェは色々と思い出して顔を赤くしたあと、はあ、とため息をついた。

――でもほんと、レオがあそこに閉じ込められたままなのは、どうにかしてあげたいわよね……。

 暇つぶしも、本を読むかルーチェが話し相手になるか、二人でトランプで遊ぶとか、その程度しかないのだ。
 ルーチェもレオの浄化をするか休憩している毎日なので、話題も少ないし、あまり刺激的な話はできない。

――せめて、誰かあの部屋に呼んだり……。

 とはいえ、神官長や知らない神官が来たところで、レオも困るだろう。
 他に、誰か浄化の間に入れても良い人……つまり、レオのことを絶対に他言しない人物がいないかと考えて……。

「あっ、レオの仲間のみんなとか……?」

 レオと、封印の旅に出た人たちだ。
 彼らならきっと、レオのことを軽々しく外で言うことはないだろう。
 ルーチェが出立式で渡した浄化石もまだあるだろうし、彼らほど頼もしい人たちはいない。

――今日はもう遅いし、明日神官長に話してみようかな。

 これは、結構良いアイデアではないだろうか。
 ルーチェは心の内で自画自賛しながら、眠りについた。



 ルーチェは次の日、朝一で神官長と話して許可を貰った。
 それから、食事を乗せたワゴンとともに浄化の間に行く。

 中に入ると、レオは椅子に座って本を読んでいた。

「おはよう! おまたせ~」

 ワゴンをテーブルの近くまで寄せると、レオが本を閉じて顔を上げた。

「おはよう。今日は遅かったな。何かあったのか?」
「ふふ、良い報せを持ってきたわよ。あのね、もしよかったら、ここに旅の仲間のみんなを招待しない?」
「……あいつらを?」

 レオが目を見開く。
 まさか、そんなことを言われるとは思っていなかった、というような様子だ。
 ルーチェは笑いながら続けた。

「ええ。ほら、気分転換っていうか……外に出ることはできないけど、ここに人を呼ぶことはできるなって。あの人たちなら、レオのことを外に漏らしたりしないでしょ?」
「ああ、それは間違いないな……ああいや、デメトリオ……も、流石にそういうのは平気か……」
「どうかな? 神官長の許可はもう貰ってて、あとは、レオが良かったら鳥を飛ばそうと思ってるんだけど……」

 レオは少し考える素振りを見せたが、頷いた。

「ああ。できるのなら、頼む」
「分かったわ。じゃあ、ご飯を食べたら手紙を出さなきゃね」

 ルーチェは言いながら、食事をテーブルに並べていった。

「ありがとう、ルーチェ。……気を使わせたな。すまなかった」
「そこは、ありがとうだけで良いのよ。わたしも、あの人たちとちゃんとお話ししたかったし」
「……ありがとう」

 ほっとしたような、涙を堪えているようなくしゃりとした笑顔に、ルーチェも泣いてしまいそうになった。

 謎の呪いをかけられて、望まないことをさせられて、こんなところに閉じ込められて。
 どれだけ心細かっただろう。
 みんなと会って、少しでもレオの気持ちが軽くなれば良いな、と思う。

「手紙出したあとにお昼まで時間があったら、浄化で良い?」
「ああ、頼む」

 良かった。今日のレオは、調子が良いようだ。

 王都にいるフェルディナンドと聖教会の近くに住んでいるデメトリオはともかく、世界中を回っているコスタンツォが今どこにいるのか分からないので、集まるのがいつになるのかは分からない。
 できれば、その日は元気な状態で会えれば良いと思う。





 ちょうどコスタンツォも聖教会からそう遠くないところに滞在していたらしく、ルーチェが手紙を送ってから一週間後には、みな聖教会に集まっていた。

 それまでに二日ほどレオが不調の日があったので心配だったのだが、会う日には元気だったのでルーチェはほっとした。

「久しぶりだな、レオ!」
「まだ瘴気はありますが、まあ、元気そうでなによりです」
「ほんと、動いてるだけで泣いちゃいそうだよ~!」

 上から、公爵家三男のフェルディナンド、魔術師のデメトリオ、治癒師のコスタンツォだ。

 フェルディナンドはレオくらい体格が良く、オレンジがかった金髪に、緑の目をしている。
 睫毛が長くて、なんだかキラキラとした印象の美形だった。

 デメトリオは以前街中で会った人だ。
 ここにいる中で一番背が高く、銀髪に銀色の切れ長の目の、冷たい雰囲気の男性だ。

 コスタンツォは男性、というよりも、少年と形容しても許されそうな可愛らしい人だった。
 小柄で、くるくると癖のある茶色い髪に、緑色の目をしている。
 頬にはそばかすがあって、それがより幼い印象を与えていた。

「コスタンツォ、さすがに大袈裟じゃないか?」

 レオが笑って、みんなに椅子を勧めた。
 今日は、全員でテーブルを囲めるように更に三脚の椅子を持ってきておいたのだ。

 四人が思い出話に花を咲かせているのを眺めながら、ルーチェはお茶とお菓子を楽しんだ。
 レオが楽しそうに話しているのも、ルーチェが知らなかった旅のエピソードを聞けるのも、それだけで嬉しい。

「それにしても、あんなに濃かった瘴気がここまで薄くなるなんて……聖女様はすごいですね!」

 会話に入れないルーチェを気にしてくれたのか、コスタンツォがにこにことした笑顔で言った。

「そうですね。意識が戻ったとは聞いていましたが、瘴気がこんなに薄くなっているとは想像していませんでした」
「いえ、そんな……もう、三ヶ月ほど経ちますし……きっと、こんなものですよ」

 デメトリオまで言うので、ルーチェは羞恥からうつむいて言った。
 だって浄化のスピードが早かったのは、彼らが思っているような普通の浄化――ではない方法を用いていたからだ。

 もちろん、呪いの浄化が普通どの程度かかるのか、彼らも知らないだろう。
 ただ褒めてくれているだけで、疑っているわけではないだろうが……それでも、居心地が悪い。

 そわそわする心を落ち着けようと、ティーカップに口をつけた時だった。

「ふむ。あれだな、愛の力というやつかな!」

 フェルディナンドがハハハ、と笑いながら言ったので、ルーチェとレオは紅茶を吹き出してしまった。
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