【完結】癒しの村

Yuri1980

文字の大きさ
上 下
28 / 34

27.怪しい団体

しおりを挟む
 私はアキヲから渡された記事を、慌てながら、貪るように読んだ。

「大学生、謎の怪しい団体「癒しの会」に巻きこまれたか?!

 9月に東京都在住の大学生が2名、行方不明になっている。警察は、事件と事故の両面から捜査していたが、聞き込みをしているとある怪しい団体が浮上してきた。その団体は、「癒しの会」と名乗る、黒衣を纏った4.5人程のグループだ。男女のどちらかはわかっていない。「癒しの会」と名乗る団体は、最近、都内の新宿や渋谷など繁華街に出没しているのを目撃されている。彼ら彼女らの目的はまだわかっていないが、少年少女たちの手を引いているところや、病院の近くでうろついているのを見たという、住人の目撃証言がある。また、インターネットの自殺サイトを利用して、何らかの犯罪に関わっている可能性がある。警察は、この「癒しの会」と行方不明になった大学生が自殺サイトを通じて関わりがあったのではないかと考え、怪しい団体の正体を追っているとのことで....(続)」

  私は、記事の概要を読み終え、吐き気がしてくるのを感じる。

「どういうことなの?私もアキヲも、自分の意思でこの村に来たのよね?なんで、癒しの会が、私たちに犯罪を犯したことになっているの?」

 私の手が、わなわなと震えてきているのがわかる。これは、怒りなのか、動揺なのか、何の感情なのかわからなかった。

「だけど、俺たちは、自分の意思できたと思っているけど、実はそう仕向けられたのかもしれない。俺たちの弱味につけこんで、この村の犯罪に加担させようとしている可能性が高い」

 アキヲは、私を説得するように、私の目を見て、私の肩を揺すり、力強い声で言った。

 アキヲは、癒しの村が犯罪組織であると確信してしまっていた。私が何を言っても、揺るがないように思えた。

「でも、ねえ、アキヲ、私たち、麻薬なんて何も見ていないわ!ただ、あのプレハブが怪しいっていうだけで、見たわけでも、紗羅さんから直接聞いたわけでもない」

 しかし私は、アキヲに冷静になるように、説得するしかなった。

「何言ってるんだ!記事も読んだだろ?子どもたちも、孤児でなくて、普通の家庭の子を誘拐してきてるのかもしれない!あのプレハブからは、怪しい匂いしか感じられない!」

 アキヲは、私が目を覚ますように、私の過ちを正そうとしていた。

 それは、下界の人たちが、例えば私の母や父が、いつも私に言い聞かすようにするのと同じように聞こえた。

(「リサちゃん、あなたは病気だと思い込んでるのよ。青春や若いときは、傷ついたり、裏切られたり、色々な人と関わって自分を見つめていくしかないの。現実に目を向けてちょうだい」)

 母は私がリストカットをすると、悲しそうに、いつも、そう言っていた。

 私の病気を、決して現実として、受け入れなかった。

「アキヲ、聞いて。縄が、蛇に見えることがあるっていう話、覚えてる?」

 私は、アキヲもまた、母のように現実から逃げているように感じられた。何か、社会の闇や隙間を理由にして、自分がこの村に自主的に来たことから、逃げている。

「インドの思想だろ?今は、そんなことを言っている場合じゃない!蛇をただの縄に見ているのは、リサのほうだ!」

 アキヲは、苛立だしそうに、声を荒げて言った。

 彼の口調の強さから、今はアキヲに、何を言っても駄目だと思った。

 同時に、私が間違っているのだろうかという、一点の疑問も生じる。

 もしかしたら、記事に書かれたことが真実で、癒やし村は、犯罪組織なのかもしれない。

 私は、何が正しくて、何が間違っているのかわからなくなった。

「とにかく、俺はこの村の犯罪をつきとめる!きっとあのプレハブに何かあるはずだ!」

 アキヲはそう言って、部屋から飛び出して行ってしまう。

 私の脳裏に、紗羅さんの顔が浮かぶ。

 紗羅さんに、聞いてみよう。

 私もアキヲと同じように、部屋から飛び出して、無我夢中で紗羅さんの元へ走った。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...