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 メアリーが王子と再開したのは、ハラリドウッド王国が繁栄して滅亡後、時代を遥か超えた、現代の日本だった。

 メアリーは、日本の都心、平凡な家庭の次女として、生まれ変わった。名前は、愛亜《メア》と名付けられ、サラリーマンの父親と専業主婦の母、面倒見の良い姉に愛され、すくすくと育っていった。

 愛亜には生まれたときから、しっかりと前世の記憶が残っていた。雪の女王は、雪の精の頃に持っていた力を残して生まれ変わらせた。

 愛亜の持っている力は、透視能力と気温を絶対零度に下げる力であった。

 雪の精であった頃と同じように、どんなに遠くのものでも見ることができる。
 
 たとえそれが、壁や塀などに囲われていようと、元々は元素や原子でできているため、透けて見ることができるのだ。

 幼い頃には力を隠していたが、高校に進学をし、16歳になった年をきっかけに、王子を探すために力を解放することにした。

 愛亜は、16年間我慢してきた自分をまず褒めた。

「ああ!どんなにこのときを待っていただろう!ある程度の年齢になるまで、王子は私を女として見てくれないかもしれないし、、それに、人間の生活に慣れるのがけっこう大変だったわ!」

 雪の精であった時のように、呟く癖も健在であった。

 愛亜は、雪の精であったとき、人間は罵り合い、喧嘩をしてばりだと思っていた。人間として生活をするようになってから、父や母や姉のまっすぐで深い愛を受けるに従って、人間も悪いものではないと、考え方は変わっていた。

「でも、やっぱり、学校では力を使えばきっと変な目で見られるし!わからないものには、シビアにいじめるからね。気は許せないわ」

 彼女なりに、自分なりの人間の見方を、この16年間で培ってきたのであった。

 
 16歳になった日、愛亜はウィリアム王子を探すべき、透視の力を使った。

「あ!意外と近くにいらっしゃるのね!」

 ウィリアム王子は、愛亜と同じ、都心に住んでいた。場所は、世田谷区で三軒茶屋の方角だった。

 愛亜の住む場所は、葛飾区であり、下町だったので、浅草周辺を遊び場にしていた。世田谷区は上品なイメージであった。

「やっぱり、ウィリアム王子様、時代が変わっても、住む場所は一等地ね」

 愛亜は、にんまりと笑って、世田谷区へと向かう準備をした。

「あれ?王子は、移動し始めたわ!渋谷のほうね。よし、追っていかないと」

 愛亜はぶつぶつと呟きながら、渋谷駅まで電車に乗り、駅から王子の気配がある念を頼りにずんずんと歩いていた。

 現在、日本は8月の上旬。季節は夏の真っ盛りで、気温は30℃を超えている。街行く人は、汗をかいて時にはミニ扇風機を吹きかけながら歩いていた。

「日本の夏は、毎年暑くなっていくわ。暑くてたまらない。いっそ力を使ってしまおうかしら」

 愛亜は、冷風を呼び起こそうか迷ったが、周りの人がきっと驚くと予想すると、王子を探すことを邪魔されるかもしれない。

 愛亜はそう考えて、暑くても我慢をして、ずんずんと早足で進んでいく。

 王子がいたのは、駅から10分ほど歩いた繁華街にある、パチンコ店だった。

 愛亜はパチンコ店に入るのは初めてだった。ガンガンとうるさい喧騒の中をくぐり抜け、やっと王子が打つ台に到着した。

「王子!私です!覚えてますか?」

 ウィリアム王子は、黒髪に黒色の目をした、野生的な男子になっていた。金髪と青い目ではないが、やはり美男子であった。

「?!」

 いきなり王子と呼ばれ、抱きつかれたウィリアム王子は、びっくりして目を点にした。
ウィリアム王子には、前世の記憶はなく、あったとしても愛亜は雪の精であり、王子には雪としか映っていないのだ。

 どこをどうフォローしても、王子の記憶の片隅にもあるはずがなかった。

「君、頭大丈夫?」

 ウィリアム王子は、流石王子であっただけに、すぐに冷静になり、抱きつく愛亜を払いのけ、そそくさとパチンコ店から出て行く。

「待ってください!私のこと覚えてませんか?」

 愛亜は必死に王子の手に縋って聞いた。

「いや、俺は王子じゃないから。それに、君みたいにデブでブスを見たら、一生忘れないと思う。だから、今まで会ったこともない」

 王子の言う通り、愛亜は身長150センチで体重65キロ、容姿も恵まれず、一重に薄い唇、鼻は埋もれていた。

「待ってください!」

 愛亜は、今までで一番の焦りを感じていた。どうにか王子を食い止めようと、必死であったが、その形相がまた鬼のように怖く、王子が逃げるばかりだった。

(こうなったら、力を使うしかない!)

 愛亜は、王子の行く手に冷気を吹きかけた。

 すると、みるみると王子の足の周囲が凍っていく。王子の足は氷で固まり、逃げることができなくなってしまった。

 チャンスと考えた愛亜は、にっこりと笑って、氷を溶かすかわりに、お茶をする約束をとりつけた。

 王子がよくわからず、混乱をしている隙に、愛亜は王子の手を引いて、近くのカフェに連れて行った。

 王子を手に入れるため、戦闘開始モードのスイッチが入ったのだ。




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