君のいない場所

ヤン

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第3章

第8話 本当の気持ち

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「何でおまえが最低なのか、わかんねえけど。とりあえず、このプリンアラモード、食べてもいいか? すげえうまそうなんだけど」
「いいよ。食べてよ」

 さいが許可すると、三原みはらは席へ戻り、

「じゃ、いただきます」

 嬉しそうな三原の顔。それを見る才は、さらに憂鬱になった。

「ミハラくん。耳だけ貸してよね。オレは、コンクールに出ようとしちゃったんだよ。ピアノのコンクール。それに出て、一位になると、オケと共演出来るんだって。そういうコンクール。音楽やってる人は、挑戦してみようと思うものなんだ。ま、人によるかもしれないけど。オレは少なくとも、挑戦しようと思っちゃったんだ」

 三原の顔をそっと見たが、プリンアラモードに集中しているように見えた。才は、思わず溜息を吐いた。

「ミハラくん。聞いてくれてる?」

 才の問いかけに、三原が食べるのをやめて、顔を上げた。その表情には笑みは見られず、真剣なものだった。

「ああ。ちゃんと聞いてる」
「そうか。よかった」

 才は、手を伸ばして三原の右手にそっと触れた。三原は、その才の手を見つめる。

「ミハラくん。オレ、その話をされた時ね。その映像みたいなのが見えたんだ。一位になって、オケと指揮者とソリストのオレがステージにいる、そんな映像。でも、気が付いた。オレ、おかしかった」
「おかしくは、ない」

 三原は、低く言った。才を見つめるその瞳は、少し潤んでいるように見えた。才は、三原に触れている手に、力を込めた。

「オレは、バンドで生きて行こう、と思って。その為には、ミハラくんを切るしかないって思ったから、そうしたのに。それなのに、オレは、そんなこと考えちゃって。それって、メンバーを裏切ったってことだし、君を裏切ったってことだし。ほら。オレ、最低だろう」
「最低じゃないだろ」
「え?」
「いいか、サイ。おまえにとって、ピアノは命と同じようなものだ。なくちゃならないものなんだ。わかるか? それなのに、もう弾かないとか、そんなのおかしいだろ。おまえの人生、ピアノが基本だ。そうだろ」

 答えられず、才は三原から手を離した。が、今度は三原の手が伸びて来て、才の手を捕らえた。

「逃げないでくれ。いろんなことから。現実から」
「現実って。だって……」
「現実を見つめるのってさ、怖いかもしれないけど、大事なことだってオレは思う。だから、逃げないで立ち向かってほしい。わかるか?」

 才は、首を振った。頬を涙が伝っていた。

「サイ。オレも、もう逃げないから。本当の気持ちを、今から言うから」
「本当の……気持ち?」
「そうだ。本当の気持ちだ」

 三原のその真剣な目つきから、顔を背けることは出来なかった。
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