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第2章
第2話 告白
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翌日の昼休みだった。いつものように、創と二人で弁当を食べた後、バンドの話をしていると、クラスメートの男子に、
「津久見。呼んでるよ」
教室の入り口を指差す。才は、椅子から立ち上がりそちらへ向かった。入り口近くのその男子生徒に、「ありがとう」と笑顔で言ってから、そこに立つ人を見た。
その女生徒は、才とは面識がなく、一体何の用事で呼び出されたのか、全く見当がつかない。才は彼女に、
「えっと、何でしょうか」
丁寧に話しかけてみた。彼女は才を見つめながら、
「ちょっと、こっちに来て。話したいことがあるの」
腕をつかんで引っ張られた。才は、「離してくれよ」と冷たい声で言った。女生徒は、振り向き、はっとしたような表情をしたが、
「だって、ここじゃ話せないから」
「オレ、ピアノ弾くんだ。腕に傷を付けられたら、すごく困る。だから、その手を離せ」
尚もつかんだ腕を離さない彼女に、つい強く言ってしまった。彼女は、俯いて手を離した。
「それで? 話って、何?」
「え? だから、ここじゃ話せないって……」
「ここで話せないようなことを、どこかに連れて行かれて聞かなきゃいけない義務、オレにはない」
必要以上に、冷酷な口調だと才自身もわかっている。これは、八つ当たりだ。思うようにならない自分の苛立ちを、この無関係な女生徒にぶつけている。この人を傷つける権利は自分にないのに、と、嫌な気持ちになっていく。が、わかっていながら、才は言葉をぶつけた。
「言えないなら、これで終わりでいいよね。じゃあ」
「え、待ってよ。言う。ここで言うから」
彼女は、大きく息を吐き出すと、
「付き合ってください」
両隣のクラスにまで聞こえるのではないかと思うくらいの大きな声で、言い放った。才は、言われたことを、頭の中で考えた。
(オレ、今、この人に何を言われた?)
付き合ってください、と言われた。それは、どういう意味だろう。才は、自分が告白されたのだと、しばらくして、ようやくわかった。思わず、目を見開いてしまった。
「嘘だろう? オレを、からかってる?」
彼女は頭をぶんぶんと振って、
「違う。からかってない。本気で言ってるのに」
泣きそうな顔で見られても、才は戸惑うばかりだ。救いを求めるように創の方に振り向くと、軽く頷いてから、才たちの方へ来た。才の傍らに立つと、創は彼女に、
「邪魔者が来て悪いんだけどね。君さ、サイちゃんは好きな人がいるんだ。想いが叶うかどうかはわかんないけど。つまり、君を好きになる余裕、サイちゃんにはない。サイちゃんは、一途だから」
「スギちゃん、何言ってるんだよ」
「サイちゃん。いいじゃん。本当のことなんだから」
二人で言い合っていると、女生徒が小さな声で、
「好きな人、いるんだ?」
訊かれて、才はためらいながらも頷き、「いるよ」と答えた。ついに、自分の心の奥の奥にしまっておいた気持ちを認めてしまった。思わず、溜息を吐いてしまった。
彼女は、「そうか」と言った後、
「わかった。私の気持ち、聞いてくれてありがとう。好きな人に、想いが通じるといいね」
「あ……りがとう」
手を振って去って行った。才は、彼女をかっこいい、と思った。創も、ヒューと小さく口笛を吹いて、
「いいね、あの子。潔いじゃん」
「ん。そうだね」
「オレ、あの子気に入った」
「そう」
「よし。オレ、あの子と付き合えるよう、頑張ってみるよ」
「え? ああ、そう。うん。頑張って」
驚きながらも、才は創に励ましの言葉を贈った。創は、弾けるような笑顔で「うん」と深く頷いた。
「津久見。呼んでるよ」
教室の入り口を指差す。才は、椅子から立ち上がりそちらへ向かった。入り口近くのその男子生徒に、「ありがとう」と笑顔で言ってから、そこに立つ人を見た。
その女生徒は、才とは面識がなく、一体何の用事で呼び出されたのか、全く見当がつかない。才は彼女に、
「えっと、何でしょうか」
丁寧に話しかけてみた。彼女は才を見つめながら、
「ちょっと、こっちに来て。話したいことがあるの」
腕をつかんで引っ張られた。才は、「離してくれよ」と冷たい声で言った。女生徒は、振り向き、はっとしたような表情をしたが、
「だって、ここじゃ話せないから」
「オレ、ピアノ弾くんだ。腕に傷を付けられたら、すごく困る。だから、その手を離せ」
尚もつかんだ腕を離さない彼女に、つい強く言ってしまった。彼女は、俯いて手を離した。
「それで? 話って、何?」
「え? だから、ここじゃ話せないって……」
「ここで話せないようなことを、どこかに連れて行かれて聞かなきゃいけない義務、オレにはない」
必要以上に、冷酷な口調だと才自身もわかっている。これは、八つ当たりだ。思うようにならない自分の苛立ちを、この無関係な女生徒にぶつけている。この人を傷つける権利は自分にないのに、と、嫌な気持ちになっていく。が、わかっていながら、才は言葉をぶつけた。
「言えないなら、これで終わりでいいよね。じゃあ」
「え、待ってよ。言う。ここで言うから」
彼女は、大きく息を吐き出すと、
「付き合ってください」
両隣のクラスにまで聞こえるのではないかと思うくらいの大きな声で、言い放った。才は、言われたことを、頭の中で考えた。
(オレ、今、この人に何を言われた?)
付き合ってください、と言われた。それは、どういう意味だろう。才は、自分が告白されたのだと、しばらくして、ようやくわかった。思わず、目を見開いてしまった。
「嘘だろう? オレを、からかってる?」
彼女は頭をぶんぶんと振って、
「違う。からかってない。本気で言ってるのに」
泣きそうな顔で見られても、才は戸惑うばかりだ。救いを求めるように創の方に振り向くと、軽く頷いてから、才たちの方へ来た。才の傍らに立つと、創は彼女に、
「邪魔者が来て悪いんだけどね。君さ、サイちゃんは好きな人がいるんだ。想いが叶うかどうかはわかんないけど。つまり、君を好きになる余裕、サイちゃんにはない。サイちゃんは、一途だから」
「スギちゃん、何言ってるんだよ」
「サイちゃん。いいじゃん。本当のことなんだから」
二人で言い合っていると、女生徒が小さな声で、
「好きな人、いるんだ?」
訊かれて、才はためらいながらも頷き、「いるよ」と答えた。ついに、自分の心の奥の奥にしまっておいた気持ちを認めてしまった。思わず、溜息を吐いてしまった。
彼女は、「そうか」と言った後、
「わかった。私の気持ち、聞いてくれてありがとう。好きな人に、想いが通じるといいね」
「あ……りがとう」
手を振って去って行った。才は、彼女をかっこいい、と思った。創も、ヒューと小さく口笛を吹いて、
「いいね、あの子。潔いじゃん」
「ん。そうだね」
「オレ、あの子気に入った」
「そう」
「よし。オレ、あの子と付き合えるよう、頑張ってみるよ」
「え? ああ、そう。うん。頑張って」
驚きながらも、才は創に励ましの言葉を贈った。創は、弾けるような笑顔で「うん」と深く頷いた。
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