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第1章
第3話 悩み事
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昼休みの時間になった。才の前に座る創が振り返った。
「サイちゃん。行こう」
「行こう? どこへ?」
才は訊き返しながら、そう言えば、いつも創は昼休みになると教室からいなくなるということを思い出した。
「いいから、行こう」
弁当を手にすると、創は教室のドアの方へ歩き出した。才も、その後を追った。才は、創の腕をつかみ、
「で、どこに行くって?」
「いいとこだよ」
そう言って、創は笑った。才は、肩をすくめてから、創の腕を離した。二人黙り合って、目的地を目指した。一体、どこへ連れて行かれるのだろう、と少し不安になった。そして、その気持ちが現実になった。
創が才を見て、にっ、と笑った。才は眉をひそめて、
「え? ここなのかよ? 下級生が、こんなとこ、来ていいのか?」
「別に、来ちゃダメって言われたこと、ないけどな。ま、いいじゃん。行こう」
そして、創はためらいなくその教室のドアを開け、
「ミハラくーん」
「おお。来たか。こっち来いよ」
創に促されて、上級生の教室に初めて入った。が、三原のクラスメートは、才たちを全く気にした様子もなく、普通だった。拍子抜けしてしまった。
三原が才たちに手招きをする。まるで、二人で来るのがわかっていたかのように、三原ともう一人の横に、椅子が二脚準備されていた。
「ここ、座れよ」
「本当に二人で来たな。ミハラの読み、当たったじゃん」
三原の友人らしい人が、三原にそう言って笑った。三原も一緒になって笑ってから、
「スギは絶対、サイを連れてくると思ったんだ」
創は、準備された椅子に遠慮なく座り、才にも座るように言った。才は、頷き、その椅子に座った。
「あの……いつも、こうなんですか?」
「こうなんですか? ああ。そうだよ。スギは、いつもここで昼飯食ってる。そうだ。こいつは、オレのダチ。水上高矢」
紹介されて、高矢が頭を軽く下げた。才も、すぐに頭を下げて、名乗った。そこで、ようやく弁当の包みを、それぞれが開けた。
食べ始めて、少しすると、創が才を見ながら、
「そう言えば、サイちゃんさ、何か悩んでるの? いつも、考え事してる顔してるけど」
「まあ、悩んでるかな。明日までに決めなきゃいけないことがあって」
「明日? それで、決められそうなの? 決められないと、どうなるの?」
創が真剣な表情で訊いてくる。才は、首を振って、
「どうなるってことでもないけど。夏にピアノの発表会があるんだけど、その曲を明日までに決める約束をしてるから」
才がそう言うと、それまで勢いよく箸を進めていた三原が急に手を止めた。そして、
「それで、候補の曲は何曲あるんだ?」
「え? あ、一応、三曲です」
「よし。じゃあさ。その曲に順番つけろ。いいか? つけたか? じゃあな、一番をつけた曲にしろ。はい。決定な」
三原の言葉に戸惑いながらも、その曲でいいか、と思い直した。才は、肩の力が抜けたのを感じながら、
「ミハラくん、ありがとう。おかげで決まった」
才が三原に微笑むと、三原は才を凝視した。そして、言った。
「サイ。おまえ、笑えるんだな」
「……それは、どういう意味ですか」
「いや。何があっても笑わないようにしてるとか、そんな感じなのかと思って」
「オレだって、笑うこと、ありますよ」
「そうか。良かった。おまえさ、笑うとすごく可愛くなるから、笑え」
言葉を失った。そして、鼓動が速くなるのをどうにも出来なかった。才は、これは、どういうことだろう、と不思議に思っていた。
才が黙ったのをどう思ったのか、三原は横にいる二人に交互に視線を向けながら、「え?」と言っていた。
「サイちゃん。行こう」
「行こう? どこへ?」
才は訊き返しながら、そう言えば、いつも創は昼休みになると教室からいなくなるということを思い出した。
「いいから、行こう」
弁当を手にすると、創は教室のドアの方へ歩き出した。才も、その後を追った。才は、創の腕をつかみ、
「で、どこに行くって?」
「いいとこだよ」
そう言って、創は笑った。才は、肩をすくめてから、創の腕を離した。二人黙り合って、目的地を目指した。一体、どこへ連れて行かれるのだろう、と少し不安になった。そして、その気持ちが現実になった。
創が才を見て、にっ、と笑った。才は眉をひそめて、
「え? ここなのかよ? 下級生が、こんなとこ、来ていいのか?」
「別に、来ちゃダメって言われたこと、ないけどな。ま、いいじゃん。行こう」
そして、創はためらいなくその教室のドアを開け、
「ミハラくーん」
「おお。来たか。こっち来いよ」
創に促されて、上級生の教室に初めて入った。が、三原のクラスメートは、才たちを全く気にした様子もなく、普通だった。拍子抜けしてしまった。
三原が才たちに手招きをする。まるで、二人で来るのがわかっていたかのように、三原ともう一人の横に、椅子が二脚準備されていた。
「ここ、座れよ」
「本当に二人で来たな。ミハラの読み、当たったじゃん」
三原の友人らしい人が、三原にそう言って笑った。三原も一緒になって笑ってから、
「スギは絶対、サイを連れてくると思ったんだ」
創は、準備された椅子に遠慮なく座り、才にも座るように言った。才は、頷き、その椅子に座った。
「あの……いつも、こうなんですか?」
「こうなんですか? ああ。そうだよ。スギは、いつもここで昼飯食ってる。そうだ。こいつは、オレのダチ。水上高矢」
紹介されて、高矢が頭を軽く下げた。才も、すぐに頭を下げて、名乗った。そこで、ようやく弁当の包みを、それぞれが開けた。
食べ始めて、少しすると、創が才を見ながら、
「そう言えば、サイちゃんさ、何か悩んでるの? いつも、考え事してる顔してるけど」
「まあ、悩んでるかな。明日までに決めなきゃいけないことがあって」
「明日? それで、決められそうなの? 決められないと、どうなるの?」
創が真剣な表情で訊いてくる。才は、首を振って、
「どうなるってことでもないけど。夏にピアノの発表会があるんだけど、その曲を明日までに決める約束をしてるから」
才がそう言うと、それまで勢いよく箸を進めていた三原が急に手を止めた。そして、
「それで、候補の曲は何曲あるんだ?」
「え? あ、一応、三曲です」
「よし。じゃあさ。その曲に順番つけろ。いいか? つけたか? じゃあな、一番をつけた曲にしろ。はい。決定な」
三原の言葉に戸惑いながらも、その曲でいいか、と思い直した。才は、肩の力が抜けたのを感じながら、
「ミハラくん、ありがとう。おかげで決まった」
才が三原に微笑むと、三原は才を凝視した。そして、言った。
「サイ。おまえ、笑えるんだな」
「……それは、どういう意味ですか」
「いや。何があっても笑わないようにしてるとか、そんな感じなのかと思って」
「オレだって、笑うこと、ありますよ」
「そうか。良かった。おまえさ、笑うとすごく可愛くなるから、笑え」
言葉を失った。そして、鼓動が速くなるのをどうにも出来なかった。才は、これは、どういうことだろう、と不思議に思っていた。
才が黙ったのをどう思ったのか、三原は横にいる二人に交互に視線を向けながら、「え?」と言っていた。
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