61 / 80
第四章 家族
第1話 再会
しおりを挟む
夕食の後、ソファに座ってお茶を飲んでいる時だった。大矢さんが顔を上げて、「あ」と言った。
「そうだ。退院のことで忘れてた、ごめん。オレたち、出会ってから三年が過ぎたんだな」
「忘れますよね。僕は忘れてませんでしたけど」
ちょっと意地悪を言ってみると、大矢さんは湯飲みをテーブルに置いて、僕の頬に口づけた。
「怒ったのか?」
「怒ってないです」
大矢さんが、僕にさらに近付く。ドキドキして、つい目をそらした。
「ほら、やっぱり。怒ってるんだな。ごめん。許してくれ」
そう言いながら、今度は僕の首筋に唇を寄せる。そして、わざと音を立てる。ゾクッとして、思わず身をよじる。
「あの……もう勘弁してください。そんなことされると……」
「勘弁してほしいのは、オレの方なんだけどな」
悪戯っぽく笑う。僕は大矢さんから無理矢理離れると、寝室へ逃げた。でも、すぐに思った。
寝室に来ちゃったら、してくださいって言ってるのと同じなのでは?
自分の行動に思わず溜息を吐いた。少し遅れて寝室に入ってきた大矢さんは、微笑みを浮かべながら僕に近付いてきて、
「聖矢。可愛すぎるぞ」
左手を握ってきた。ただそうされただけなのに、それ以上を期待している自分がいることに気が付いてしまい、ちょっと恥ずかしい。逃げて来たはずなのに、この矛盾した気持ちは何だろう。僕は俯き、「あの……」と囁き声で言った。大矢さんは、僕を腕の中に抱き寄せると、
「愛してる」
口づけられながらベッドに倒された僕は、大矢さんに身を任せることにした。
夜中に目が覚めた。隣で大矢さんが寝息を立てている。口元が笑んでいるのを見て、心が凪いでいく。死ななくて良かった、と心の底から思った。
眠りを妨げないような小さな声で、「大矢さん」と呼んでみたが、大矢さんは気付かずに眠っている。僕は、大矢さんにぴったりと体を近付けると、微笑みながら目を閉じた。
朝食を終えて食器を洗っていると、大矢さんが僕のすぐそばに立って、腰を引き寄せた。
「あの……洗い物の途中なんですけど……」
「わかってるよ」
頬に口づけられて、鼓動が速くなる。
「あの、大矢さん」
「聖矢。夏が終わる前に、花火やろうか」
突然の言葉に、三年前の夏の終わりを思い出した。あの時は、谷さんが楽しそうに花火の束を振り回していたっけ、と懐かしく思った。そして、それと同時に胸が痛んだ。
「谷の家でやったよな。何か、急にその時のことを思い出したんだ。まだ、夏は始まったばっかりだけど、終わるまでに一緒にやろう」
「やりましょう。公園ですか?」
「そうなるのかな」
大矢さんは、左手首につけた腕時計に目をやり時間を確かめると、「じゃあ、行ってくる」と言って、玄関に向かった。僕は水を止めると、すぐに大矢さんを追った。そして、玄関で靴をはこうとしている大矢さんの背中に抱きついた。大矢さんが驚いたように、背筋を伸ばす。振り返って僕を見ると、微笑んだ。
「だから、聖矢。可愛すぎるって言ってるだろう」
「だって……」
大矢さんは、向きを変えると僕を強く抱き締めて、
「花火、近い内にやるからな」
「はい」
笑顔で返事すると、大矢さんは僕の頬にキスをした。
「大矢さん……」
その名前を口にするだけで、鼓動が速くなる。大矢さんは僕の髪を梳くと、「行ってくる」と言って玄関を出て行ってしまった。部屋の中は、急に静まり返ってしまった。
「さあ、洗おう」
わざと声に出して言うと、僕はキッチンに向かった。
一人になると、不安になる。以前ほどではなくても、何となくざわざわしてしまう。僕は、思い切って買い物に出掛けることにした。財布と鍵をバッグに入れると、玄関に向かった。外に出ると、ムッとした熱気が押し寄せてくるようだ。早くどこかのお店に入ろうという気になってしまう。
駅の向こうのスーパーマーケットに入ると、クーラーが効いていて心地よかった。野菜から順番に見て行き、必要な物をカゴに入れて行く。レジ近くに行った時、花火のセットが目に入った。買おうかどうしようかと考えた末に、やはり買って帰ることにした。
レジ待ちの列に並んで、順番が来てからカゴを店員さんに差し出した。何だか、じっと見られているような気がする。元・アイドル星野聖矢とばれてしまったのだろうか。
そっと顔を上げてその人を見た瞬間、「あ」と声が出そうになった。その人も、驚いたように目を見開くと、「やっぱり聖矢くん?」と言った。
そこにいたのは、谷さんのお母さんだった。
「そうだ。退院のことで忘れてた、ごめん。オレたち、出会ってから三年が過ぎたんだな」
「忘れますよね。僕は忘れてませんでしたけど」
ちょっと意地悪を言ってみると、大矢さんは湯飲みをテーブルに置いて、僕の頬に口づけた。
「怒ったのか?」
「怒ってないです」
大矢さんが、僕にさらに近付く。ドキドキして、つい目をそらした。
「ほら、やっぱり。怒ってるんだな。ごめん。許してくれ」
そう言いながら、今度は僕の首筋に唇を寄せる。そして、わざと音を立てる。ゾクッとして、思わず身をよじる。
「あの……もう勘弁してください。そんなことされると……」
「勘弁してほしいのは、オレの方なんだけどな」
悪戯っぽく笑う。僕は大矢さんから無理矢理離れると、寝室へ逃げた。でも、すぐに思った。
寝室に来ちゃったら、してくださいって言ってるのと同じなのでは?
自分の行動に思わず溜息を吐いた。少し遅れて寝室に入ってきた大矢さんは、微笑みを浮かべながら僕に近付いてきて、
「聖矢。可愛すぎるぞ」
左手を握ってきた。ただそうされただけなのに、それ以上を期待している自分がいることに気が付いてしまい、ちょっと恥ずかしい。逃げて来たはずなのに、この矛盾した気持ちは何だろう。僕は俯き、「あの……」と囁き声で言った。大矢さんは、僕を腕の中に抱き寄せると、
「愛してる」
口づけられながらベッドに倒された僕は、大矢さんに身を任せることにした。
夜中に目が覚めた。隣で大矢さんが寝息を立てている。口元が笑んでいるのを見て、心が凪いでいく。死ななくて良かった、と心の底から思った。
眠りを妨げないような小さな声で、「大矢さん」と呼んでみたが、大矢さんは気付かずに眠っている。僕は、大矢さんにぴったりと体を近付けると、微笑みながら目を閉じた。
朝食を終えて食器を洗っていると、大矢さんが僕のすぐそばに立って、腰を引き寄せた。
「あの……洗い物の途中なんですけど……」
「わかってるよ」
頬に口づけられて、鼓動が速くなる。
「あの、大矢さん」
「聖矢。夏が終わる前に、花火やろうか」
突然の言葉に、三年前の夏の終わりを思い出した。あの時は、谷さんが楽しそうに花火の束を振り回していたっけ、と懐かしく思った。そして、それと同時に胸が痛んだ。
「谷の家でやったよな。何か、急にその時のことを思い出したんだ。まだ、夏は始まったばっかりだけど、終わるまでに一緒にやろう」
「やりましょう。公園ですか?」
「そうなるのかな」
大矢さんは、左手首につけた腕時計に目をやり時間を確かめると、「じゃあ、行ってくる」と言って、玄関に向かった。僕は水を止めると、すぐに大矢さんを追った。そして、玄関で靴をはこうとしている大矢さんの背中に抱きついた。大矢さんが驚いたように、背筋を伸ばす。振り返って僕を見ると、微笑んだ。
「だから、聖矢。可愛すぎるって言ってるだろう」
「だって……」
大矢さんは、向きを変えると僕を強く抱き締めて、
「花火、近い内にやるからな」
「はい」
笑顔で返事すると、大矢さんは僕の頬にキスをした。
「大矢さん……」
その名前を口にするだけで、鼓動が速くなる。大矢さんは僕の髪を梳くと、「行ってくる」と言って玄関を出て行ってしまった。部屋の中は、急に静まり返ってしまった。
「さあ、洗おう」
わざと声に出して言うと、僕はキッチンに向かった。
一人になると、不安になる。以前ほどではなくても、何となくざわざわしてしまう。僕は、思い切って買い物に出掛けることにした。財布と鍵をバッグに入れると、玄関に向かった。外に出ると、ムッとした熱気が押し寄せてくるようだ。早くどこかのお店に入ろうという気になってしまう。
駅の向こうのスーパーマーケットに入ると、クーラーが効いていて心地よかった。野菜から順番に見て行き、必要な物をカゴに入れて行く。レジ近くに行った時、花火のセットが目に入った。買おうかどうしようかと考えた末に、やはり買って帰ることにした。
レジ待ちの列に並んで、順番が来てからカゴを店員さんに差し出した。何だか、じっと見られているような気がする。元・アイドル星野聖矢とばれてしまったのだろうか。
そっと顔を上げてその人を見た瞬間、「あ」と声が出そうになった。その人も、驚いたように目を見開くと、「やっぱり聖矢くん?」と言った。
そこにいたのは、谷さんのお母さんだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる