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第三章 別れ
第3話 『Aさん』
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「真ちゃんさ。星野聖矢とか名乗って、アイドルなんかやってんだな。笑っちゃうぜ」
『A』さんが、僕の頬を手の甲でパンパンと叩く。僕は何も言えず、ただ立ち尽くしていた。
「地元では誰も相手にしなかったよな。オレだけが、おまえに優しくしてやっただろ?」
そんなの嘘だ、と言いたいのに、やはり言葉が出て来ない。動きの止まっていた谷さんは、急に意識を取り戻したかのように場所を移動して、僕と『A』さんの間に立った。谷さんは、『A』さんに軽く頭を下げると、
「『A』さんでしょうか? いつも応援、ありがとうございます」
それを聞いた『A』さんが笑い出す。『A』さんは、谷さんを押しのけて僕のそばに来ようとしたが、谷さんはそれに耐えて僕と『A』さんの間に立ってくれた。そんなことが何度か繰り返されると、『A』さんの顔つきが、険しくなった。
「のけよ。邪魔なんだよ。そいつは、オレの物なんだからな。返せよ。悪い虫がつかないように、盗聴器を仕掛けたんだ。売れないアイドルに頼んで。あいつは、ちょっとした知り合いでさ。オレの言うことなら、何だって聞くんだ」
『A』さんの言葉に驚いたような顔をしつつも、谷さんはあくまで冷静な口調で、
「この子は、あなたの物ではありません」
『A』さんは、谷さんの言葉を無視するように僕を見ると、
「真。こいつが、この前の相手か? こいつにされて、あんな声出してたのか?」
昔と変わらない、嫌な気持ちにさせる声で訊いてきた。僕は、何とか首を振ったが、相変わらず声が出て来ない。『A』さんは、ニヤリと笑うと、
「おまえ、エロいな。誰とでもしやがって。よっぽどするのが好きなんだな」
笑いながらそんなことを言い、ズボンのポケットを探って何かを取り出した。『A』さん……本当の名前は『杉本有人』だけれど、その人は、手にサバイバルナイフを持っていて、その刃がマンションの明かりで光った。谷さんが、両手を広げて僕の体を守ろうとしてくれている。有人は、やはり声を上げて笑い、
「そんなことしても無駄だ。おまえら、まとめて、殺す」
「聖矢。逃げろ」
そう言われても、僕は恐怖で一歩も動けなかった。
その時、誰かがこちらに走って来て、「何してる」と強い口調で言うのが聞こえた。助かった、と思ったその時だった。有人が、僕の前に立ちはだかって守ってくれている人に向かって、手にしているナイフを突き立てた。
「オレの物に手を出しやがって」
吐き捨てるように、有人が言った。その有人を、後ろから押さえつける人。どうやら警官らしい。
有人は、「あいつはオレの物なんだ。返せよ」と大声で言い、警官から逃れようと暴れていた。
「真。何やってんだよ。ふざけんな。オレ以外の奴に触らせてんじゃねえよ」
「いい加減にしろ。行くぞ」
警官に強く言われても、まだ叫んでいる。車のドアが閉まる音がして、聞きたくない声は聞こえなくなったが、谷さんの苦しそうな声が、僕のすぐそばから聞こえていた。
『A』さんが、僕の頬を手の甲でパンパンと叩く。僕は何も言えず、ただ立ち尽くしていた。
「地元では誰も相手にしなかったよな。オレだけが、おまえに優しくしてやっただろ?」
そんなの嘘だ、と言いたいのに、やはり言葉が出て来ない。動きの止まっていた谷さんは、急に意識を取り戻したかのように場所を移動して、僕と『A』さんの間に立った。谷さんは、『A』さんに軽く頭を下げると、
「『A』さんでしょうか? いつも応援、ありがとうございます」
それを聞いた『A』さんが笑い出す。『A』さんは、谷さんを押しのけて僕のそばに来ようとしたが、谷さんはそれに耐えて僕と『A』さんの間に立ってくれた。そんなことが何度か繰り返されると、『A』さんの顔つきが、険しくなった。
「のけよ。邪魔なんだよ。そいつは、オレの物なんだからな。返せよ。悪い虫がつかないように、盗聴器を仕掛けたんだ。売れないアイドルに頼んで。あいつは、ちょっとした知り合いでさ。オレの言うことなら、何だって聞くんだ」
『A』さんの言葉に驚いたような顔をしつつも、谷さんはあくまで冷静な口調で、
「この子は、あなたの物ではありません」
『A』さんは、谷さんの言葉を無視するように僕を見ると、
「真。こいつが、この前の相手か? こいつにされて、あんな声出してたのか?」
昔と変わらない、嫌な気持ちにさせる声で訊いてきた。僕は、何とか首を振ったが、相変わらず声が出て来ない。『A』さんは、ニヤリと笑うと、
「おまえ、エロいな。誰とでもしやがって。よっぽどするのが好きなんだな」
笑いながらそんなことを言い、ズボンのポケットを探って何かを取り出した。『A』さん……本当の名前は『杉本有人』だけれど、その人は、手にサバイバルナイフを持っていて、その刃がマンションの明かりで光った。谷さんが、両手を広げて僕の体を守ろうとしてくれている。有人は、やはり声を上げて笑い、
「そんなことしても無駄だ。おまえら、まとめて、殺す」
「聖矢。逃げろ」
そう言われても、僕は恐怖で一歩も動けなかった。
その時、誰かがこちらに走って来て、「何してる」と強い口調で言うのが聞こえた。助かった、と思ったその時だった。有人が、僕の前に立ちはだかって守ってくれている人に向かって、手にしているナイフを突き立てた。
「オレの物に手を出しやがって」
吐き捨てるように、有人が言った。その有人を、後ろから押さえつける人。どうやら警官らしい。
有人は、「あいつはオレの物なんだ。返せよ」と大声で言い、警官から逃れようと暴れていた。
「真。何やってんだよ。ふざけんな。オレ以外の奴に触らせてんじゃねえよ」
「いい加減にしろ。行くぞ」
警官に強く言われても、まだ叫んでいる。車のドアが閉まる音がして、聞きたくない声は聞こえなくなったが、谷さんの苦しそうな声が、僕のすぐそばから聞こえていた。
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