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第二章 新たな道
第7話 絶望
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それからどれくらい経ったのだろう。ドアの鍵を開ける音が遠くに聞こえて、それから少しして寝室に人が入って来る気配を感じた。
「聖矢。もう寝てるのか? 調子、悪いのか?」
部屋の電気も点けずにタオルケットを被っている僕に、大矢さんは遠慮がちに声を掛けてきた。この優しさも全て嘘だったのかと思うと、耐えられなかった。絶対口をきくまい、と心に誓った。
そう思いながら聞き耳を立てていると、大矢さんが寝室から出て行くような音がした。それからすぐに、「え?」と言う驚いたような声が小さく聞こえた。それを聞いて僕は、料理をしていたのにそのまま放置してしまったことを思い出した。が、今さらどうしようもない。
寝室に戻ってきた音がしたかと思うと、大矢さんがタオルケットの上から僕に触れてきた。そして低い声で、
「何かあったのか?」
気遣うような響きだった。大矢さんは、僕をそっと撫でてくれる。今までなら、そうされて安心した。でも、今は違う。僕は大矢さんに背中を向け、その手から逃れた。
「聖矢。オレ、何かしたか? 言ってくれ」
僕は、黙ってじっとしていた。大矢さんが何度も僕の名前を呼ぶ。哀しみが募ってくるばかりだ。
「聖矢」
「僕……出て行きます。その方が大矢さんもいいでしょう。今までお世話になりました」
タオルケットから出て、大矢さんを睨み付けるように見ながら言い放った。大矢さんの驚いた顔を見て、心の奥の方が、ちりりと痛む。
「大矢さん。今まで、僕を好きな振りをするの、大変だったでしょうね。もう、僕、出ていきますから、安心して下さい」
涙が流れ出してしまった。
「でも、今日まで、ここにいさせて下さい。明日はきっと、出て行きますから……」
「何で出て行くんだよ。出て行かなくていい。何があったか話してくれないか?」
僕は、手の甲で涙を拭いながら、
「電話がありましたよ。あの女の人と大矢さん、付き合ってるんでしょう? だから最近、帰りが遅かったんですね。言ってくれれば良かったのに」
「電話?」
「大矢さんには、知らない番号から掛かってきたら出るなって言われていましたけど、あんまり何度も掛けてくるから、僕出ました。だって、大矢さんに掛けて来ているのかもしれないって、そう思ったから。そうしたら……」
そこまで言った時、またスマホの着信音が鳴り始めた。もちろん、同じ番号だ。僕は、大矢さんにスマホを渡すと、
「この人です。出てあげてください」
僕の言葉に大矢さんは、「わかった」と言ってスマホを受け取った。そして、通話にすると、「もしもし」と言った。電話の向こうから、驚いたような声が微かに聞こえる。
「あなたは、どこのどなたですか? どちらにお掛けですか? ショウジ? オレは、ショウジじゃありません。番号を確認してみてください。それから、この番号は通話履歴から消してください。いいですね?」
掛けて来た人が了承したらしく、大矢さんは無言で通話を切った。大矢さんは僕にスマホを返しながら、
「間違い電話だ。誰がショウジだって言うんだろうな。困ったもんだ」
肩をすくめて小さく笑った。僕は、笑うどころではなかった。大矢さんが差し出してきたスマホを受け取りながら、
「僕……あの……」
「聖矢は悪くない」
「でも……」
「悪いのは、その女だ」
その、と言う時、スマホに向かってきつい目つきをした。その様子が妙におかしくて、つい笑ってしまった。大矢さんも表情を改めて、一緒に笑った。
一頻り笑い合った後、
「大矢さん。ごめんなさい。僕、あの人の言葉を聞いて、パニックを起こしてしまったみたいで。ショウジって言ってたのが、ショウって聞こえて、あなただと思い込みました。許してくれますか?」
「思い込んで当然だ。紛らわしいこと言う、この間違い電話がやっぱり悪い。おまえは全然悪くない。わかったか?」
「はい。僕……大矢さんが他の人を好きになっちゃったって……絶望しちゃって。料理の途中だったのも忘れて、ここに逃げ込んで。大矢さんと、もう一緒にいたらいけないんだって思って。今まで優しくしてくれてたのも、嘘だったんだって、思って……」
つっかえながら説明する僕に、大矢さんは微笑みながら、
「聖矢。おまえ、可愛すぎだ」
大矢さんは、僕をぎゅっと抱き締めると、僕の頬にキスした。それから、唇に、何度も何度もしてくれた。僕は、大矢さんの背中に腕を回してそれに応える。僕は、本当にこの人に愛されてるんだ、と強く感じた。
さっきまでの、ひねくれた哀しい気持ちは、僕の心の中からきれいさっぱり消えていた。
「聖矢。もう寝てるのか? 調子、悪いのか?」
部屋の電気も点けずにタオルケットを被っている僕に、大矢さんは遠慮がちに声を掛けてきた。この優しさも全て嘘だったのかと思うと、耐えられなかった。絶対口をきくまい、と心に誓った。
そう思いながら聞き耳を立てていると、大矢さんが寝室から出て行くような音がした。それからすぐに、「え?」と言う驚いたような声が小さく聞こえた。それを聞いて僕は、料理をしていたのにそのまま放置してしまったことを思い出した。が、今さらどうしようもない。
寝室に戻ってきた音がしたかと思うと、大矢さんがタオルケットの上から僕に触れてきた。そして低い声で、
「何かあったのか?」
気遣うような響きだった。大矢さんは、僕をそっと撫でてくれる。今までなら、そうされて安心した。でも、今は違う。僕は大矢さんに背中を向け、その手から逃れた。
「聖矢。オレ、何かしたか? 言ってくれ」
僕は、黙ってじっとしていた。大矢さんが何度も僕の名前を呼ぶ。哀しみが募ってくるばかりだ。
「聖矢」
「僕……出て行きます。その方が大矢さんもいいでしょう。今までお世話になりました」
タオルケットから出て、大矢さんを睨み付けるように見ながら言い放った。大矢さんの驚いた顔を見て、心の奥の方が、ちりりと痛む。
「大矢さん。今まで、僕を好きな振りをするの、大変だったでしょうね。もう、僕、出ていきますから、安心して下さい」
涙が流れ出してしまった。
「でも、今日まで、ここにいさせて下さい。明日はきっと、出て行きますから……」
「何で出て行くんだよ。出て行かなくていい。何があったか話してくれないか?」
僕は、手の甲で涙を拭いながら、
「電話がありましたよ。あの女の人と大矢さん、付き合ってるんでしょう? だから最近、帰りが遅かったんですね。言ってくれれば良かったのに」
「電話?」
「大矢さんには、知らない番号から掛かってきたら出るなって言われていましたけど、あんまり何度も掛けてくるから、僕出ました。だって、大矢さんに掛けて来ているのかもしれないって、そう思ったから。そうしたら……」
そこまで言った時、またスマホの着信音が鳴り始めた。もちろん、同じ番号だ。僕は、大矢さんにスマホを渡すと、
「この人です。出てあげてください」
僕の言葉に大矢さんは、「わかった」と言ってスマホを受け取った。そして、通話にすると、「もしもし」と言った。電話の向こうから、驚いたような声が微かに聞こえる。
「あなたは、どこのどなたですか? どちらにお掛けですか? ショウジ? オレは、ショウジじゃありません。番号を確認してみてください。それから、この番号は通話履歴から消してください。いいですね?」
掛けて来た人が了承したらしく、大矢さんは無言で通話を切った。大矢さんは僕にスマホを返しながら、
「間違い電話だ。誰がショウジだって言うんだろうな。困ったもんだ」
肩をすくめて小さく笑った。僕は、笑うどころではなかった。大矢さんが差し出してきたスマホを受け取りながら、
「僕……あの……」
「聖矢は悪くない」
「でも……」
「悪いのは、その女だ」
その、と言う時、スマホに向かってきつい目つきをした。その様子が妙におかしくて、つい笑ってしまった。大矢さんも表情を改めて、一緒に笑った。
一頻り笑い合った後、
「大矢さん。ごめんなさい。僕、あの人の言葉を聞いて、パニックを起こしてしまったみたいで。ショウジって言ってたのが、ショウって聞こえて、あなただと思い込みました。許してくれますか?」
「思い込んで当然だ。紛らわしいこと言う、この間違い電話がやっぱり悪い。おまえは全然悪くない。わかったか?」
「はい。僕……大矢さんが他の人を好きになっちゃったって……絶望しちゃって。料理の途中だったのも忘れて、ここに逃げ込んで。大矢さんと、もう一緒にいたらいけないんだって思って。今まで優しくしてくれてたのも、嘘だったんだって、思って……」
つっかえながら説明する僕に、大矢さんは微笑みながら、
「聖矢。おまえ、可愛すぎだ」
大矢さんは、僕をぎゅっと抱き締めると、僕の頬にキスした。それから、唇に、何度も何度もしてくれた。僕は、大矢さんの背中に腕を回してそれに応える。僕は、本当にこの人に愛されてるんだ、と強く感じた。
さっきまでの、ひねくれた哀しい気持ちは、僕の心の中からきれいさっぱり消えていた。
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