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2、回想
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ナツがその言葉を言ったのは、初夏のことだった。
夏休みに入ってすぐの頃。2学期にはもう転校するのが決まっていて。クラスではお別れ会も済んでいて。彼と一緒に遊べるのは、あと数日くらいで。
だからあたしは、毎日のようにナツと会った。ナツの家に集まってボードゲームしたり、男友達グループがテレビゲームしてるのを横で見ていたり。一日中、トランプしたり。あたしの家の近くに、小川……というか舗装された用水路みたいなところがあって、そこで水遊びしたり。
とにかくいっぱい一緒に過ごして、で、そろそろ引っ越して会えなくなっちゃうという時期。
時が経つのも忘れて別の友達の家に居て、でもそろそろ夕飯の時間だから帰らなくちゃいけなくなって。帰る方向が途中まで同じだから、あたしとナツ二人で歩いている最中のことだった。
空き地や田畑が多い道を並んで進んでいると、遠くに沈みそうな夕陽が見えて。
あたしは思わず、足を止めた。
「……」
茜色に染まった世界が、なんだかさみしそうに感じて。このまま家に、帰りたくなくなって。気付いたナツが、傍に来てくれて。
声をかけてくれた。
「どした? レム」
「……ううん。なんでもない」
あたしは誤魔化すように首を振って、赤色から紫色にグラデーションが変わっていく空に向かって叫んだ。
「あーあ。まだ一緒に遊びたいのに。夕陽なんて、沈まなきゃいいのに」
「……」
本音だった。
夜が来なければ、ずっとナツと居れる気がして。黄昏が、彼との別れを象徴しているみたいで。
そんなあたしにナツは微笑みかけて、こう言ってくれたのだ。
「大丈夫だよ」
「えっ?」
ナツは道の脇の、土が出ていた地面に駆け寄って、人差し指で、そこにこう書いた。
『紅色の夕陽』
その字をあたしが見下ろしたのを確認して、そして、言った。
「だからこの夕陽は、沈まない」
夏休みに入ってすぐの頃。2学期にはもう転校するのが決まっていて。クラスではお別れ会も済んでいて。彼と一緒に遊べるのは、あと数日くらいで。
だからあたしは、毎日のようにナツと会った。ナツの家に集まってボードゲームしたり、男友達グループがテレビゲームしてるのを横で見ていたり。一日中、トランプしたり。あたしの家の近くに、小川……というか舗装された用水路みたいなところがあって、そこで水遊びしたり。
とにかくいっぱい一緒に過ごして、で、そろそろ引っ越して会えなくなっちゃうという時期。
時が経つのも忘れて別の友達の家に居て、でもそろそろ夕飯の時間だから帰らなくちゃいけなくなって。帰る方向が途中まで同じだから、あたしとナツ二人で歩いている最中のことだった。
空き地や田畑が多い道を並んで進んでいると、遠くに沈みそうな夕陽が見えて。
あたしは思わず、足を止めた。
「……」
茜色に染まった世界が、なんだかさみしそうに感じて。このまま家に、帰りたくなくなって。気付いたナツが、傍に来てくれて。
声をかけてくれた。
「どした? レム」
「……ううん。なんでもない」
あたしは誤魔化すように首を振って、赤色から紫色にグラデーションが変わっていく空に向かって叫んだ。
「あーあ。まだ一緒に遊びたいのに。夕陽なんて、沈まなきゃいいのに」
「……」
本音だった。
夜が来なければ、ずっとナツと居れる気がして。黄昏が、彼との別れを象徴しているみたいで。
そんなあたしにナツは微笑みかけて、こう言ってくれたのだ。
「大丈夫だよ」
「えっ?」
ナツは道の脇の、土が出ていた地面に駆け寄って、人差し指で、そこにこう書いた。
『紅色の夕陽』
その字をあたしが見下ろしたのを確認して、そして、言った。
「だからこの夕陽は、沈まない」
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