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チョコレートゲーム

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静かな場所が好きだ。

物心ついた頃からイベント事は好きでもなく、得意でもなく、波風の立たない平坦な人生を送ってきた。

だから、この高校の校舎の中でも通常教室が並ぶ本棟や、スポーツ系の部活動が盛んな体育館側より、今僕が歩いている北棟四階の雰囲気が好きだ。学校敷地の中でも僻地に位置する、静かな廊下。

騒がしい事は何も起きない、平穏そのものな場所。

さらに放課後になり、人の気配なんてほとんどない最高な雰囲気。マイナスイオンすら漂っていそうなそんな空間を、リラックスしたままのんびりと進んで特別第7教室の扉を開ける。

「おおーっ!来たね、凪くん」
「……」

部屋の中には、僕と同学年だけど違う組の女子、峯森さんがすでにいらっしゃった。

入学してまだ日の浅い一年生という立場でも臆せず、制服をちょっと着崩したりしている陽気な女子。陰キャラな僕とは対称な、明るい感じで半ギャルみたいな人だ。

まあ本人は、この静かな部室をまるで隠れ家みたいだって気に入っているらしい。部員が僕と彼女しか居ない、『にんき』も『ひとけ』もない部活だから。

そんな、事務的な長机とパイプ椅子が数個並んだ、あとはよく分からない冊子の詰まった棚があるくらいの半分倉庫みたいな地味な部室にしては、今日は珍しいものがあった。

峯森さんの座る目の前、机の上に箱が置いてある。赤色と緑色の派手な紙箱で、パッケージデザインらしくアルファベットがたくさん書いてあった。英語ではなさそうだけど、読めないな……。

「なんですか、それ」
「よくぞ訊いてくれたっ。あんたを待ってたのよ。はいこれ」

楽しそうに笑顔を見せて、峯森さんがそのフタを開ける。

中身は、どうやらチョコレートのお菓子らしい。

九つに区分けされた容器に、一口サイズの丸いチョコレートが入ってる。パウダーを振った表面に、貝殻みたいな波状の模様が刻んであった。

でも、箱に残っているのはあと二粒だけだ。空きスペースがかなり目立っている。

「お父さんが中南米に行ってね。そのお土産。食べて食べて」
「お土産……いいんですか?」

くれると言うなら、嬉しいけれど。

多分九つ入りで一箱だったんだろうけど、他は別の友達とかに配り終えた後ということかな。

教室に入ったばかりの僕に、峯森さんが箱を両手で持ってぐいぐいこっちに差し出してくる。

僕はその箱に手を伸ばしかけ……伸ばしかけて、止めた。

「……」

これ、本当に食べて大丈夫か?
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