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ミネリスの依頼
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ミネリスも気付き振り返る。
彼女はキアナを見ると、即座に笑顔を浮かべて言った。
「ミリオン屋のオーナーのキアナ様ですね。お会いできて光栄です。姿絵拝見していつかお会いしたいと思っていました」
「私もです。ミネリス公女にお会いできるとは」
「なんのこと?」
「ミネリス公女の姿絵も出回っていますよ。必要なものがあれば届けさせましたのに」
「ミリオン屋の支店はラーザルド公国にはまだありませんよね?」
「必要とあれば支店ごと用意いたしますよ」
笑顔と笑顔のぶつかり合い。
ちなみに、ミリオン屋はラーザルド公国に支店を出す算段をしていたのだが、許可が出ずに断念した過去がある。
その時、許可を出さないために裏で手を回していたのがミネリスの父、ラーザルド公王だ。
当然、ミネリスもそのことは知っているだろう。
「ありがとう。でも用事があったのは商品じゃなくて人なんですよ」
「人材ですか? どのような職種の方をお探しで?」
人材派遣はミリオン屋が扱っている業務ではないのだが、ミネリスが訪れた理由を知るためにキアナは尋ねた。
ミネリスはその金色の双眸を一度ラークに向け、そしてキアナを見て言った。
「英雄ガウディル「彼はもう死んでいます」
間髪容れずとはまさにこのことだろう。
失礼かどうかといえば、かなりアウトな感じに口を挟む。
「の亡霊よ――やっぱり英雄ガウディルは死んでるの?」
ミネリスはもう砕けた口調に戻っていた。
これが彼女の素なのだろう。
「死んでおりますよ。私たちが確認しました」
「そう伝え聞いているわ」
「でしたら――」
「でも、本当は英雄ガウディルはまだ生きている。そして英雄ガウディルの亡霊の正体は――」
とまたラークの方を見る。
もしかしたら自分の正体に気付かれたのだろうかと、もしそうなら気付かれた原因を考える。
(賊の攻撃を躱したときの転び方がわざとらしかったか? それとも――)
と考えを巡らせたが、ミネリスは首を横に振って言った。
「そんなわけないわね。英雄ガウディルが生きていたらいまのラークくらいの年齢だもの。でも、ガウディルの亡霊の目撃情報は十五、六歳くらいだって言うし――英雄ガウディルも年齢より若く見えたっていうけれどさすがに別人ね」
どうやらまったくバレていないらしい。
内心で胸を撫でおろす。
「ガウディル様はいませんが、戦力が必要ということでしょうか?」
「ええ、しかもとびきりのね」
「賊に襲われたそうですが、その対策ですか?」
キアナがそう言うと、またミネリスはラークを見る。
今度は怒っているような気がする。
ラークが情報を提供したと思ったのだろう。
実際、昨日レミリィに報告する前にキアナにも言った。
賊退治の依頼はキアナから受けたから当然だ。
「ラークは当商会御用達の伝達係ですから、情報も届けてくれます。もっともその職権を利用して女性を店内に招く行為は問題になりますが」
キアナがラークを睨む。
先日テネアを入れたことを言っているのだろう。
だが、自分のことを言っていると思ったミネリスは、
「それは私が無理に言ったの。彼を責めないでちょうだい」
とラークを庇うように言った。
そして、賊については関係性はわからないとも。
あれがただの盗賊なのか、それとも第一公子に雇われた暗部なのかわかりかねているという感じだ。
「よければ応接室で詳しく話を聞かせてもらえませんか? もしよければ力になれるかもしれません」
「そうしてもらえる? じゃあ――」
「ラークにも聞いてもらいましょう。ミネリス姫が従業員口から何度も店に入ったら怪しまれますし」
「彼にも事情を知っておいて、あなたとの連絡役にした方がいいってことね。ごめんね、ラーク。また巻き込まれてくれる?」
「拒否権って言葉知ってます?」
「報酬は支払うわよ。日当五万ミルでいいわね」
「多すぎますって――わかりました。毒を食らわば皿まで。付き合いますよ」
とラークは困ったフリをして言った。
応接間に行き、秘書の女性が紅茶と茶菓子をテーブルに並び終えて下がったところで話が始まった。
「それで、英雄ガウディルの亡霊を用意できるの?」
「残念ながら私は死神ではないので死者に伝手はありません。ですが、必要でしたら強い方と繋ぎを取ることができます。聖女マーガレット。鍛冶女王ソーニャ。魔法研究者マリン」
「英雄の仲間ね」
「ええ。その伝手で。さすがに聖騎士クリスティーヌとギルドマスターレミリィは他国のごたごたに干渉できません。それとSSランク冒険者ジャンヌは現在どこにいるかわからないので連絡が取れません。先に上げた人たちも紹介するだけで実際に仕事を受けてくれるかどうかは彼女たち次第ですが」
「あなたに頼んだ場合、戦ってくれる?」
「私は商人ですよ。もう一線から退きました」
「そうは見えないけれど――」
「それに、紹介するにしても事情を聞かないと」
キアナが言う。
ちょっとやそっとのゴタゴタなら、彼女たちの誰かを派遣するだけで十分だろう。
(でも、公国の王位継承権絡みだとしたらマリン以外は紹介しても断るだろうな。マリンは報酬次第だな。あいつは仲間の中でも問題児だからな)
彼女たちに任せっぱなしにするのは申し訳ないが、Eランク冒険者の出番はないだろう。
そう思ったが――
「依頼内容は吸血鬼公爵討伐よ」
と言った。
(吸血鬼公爵討伐っ!? まさか彼女がっ!?)
ラークは思った。
もしも目的の人物でなかったとしても、この依頼は自分が――否、ガウディルが受けないといけないと。
彼女はキアナを見ると、即座に笑顔を浮かべて言った。
「ミリオン屋のオーナーのキアナ様ですね。お会いできて光栄です。姿絵拝見していつかお会いしたいと思っていました」
「私もです。ミネリス公女にお会いできるとは」
「なんのこと?」
「ミネリス公女の姿絵も出回っていますよ。必要なものがあれば届けさせましたのに」
「ミリオン屋の支店はラーザルド公国にはまだありませんよね?」
「必要とあれば支店ごと用意いたしますよ」
笑顔と笑顔のぶつかり合い。
ちなみに、ミリオン屋はラーザルド公国に支店を出す算段をしていたのだが、許可が出ずに断念した過去がある。
その時、許可を出さないために裏で手を回していたのがミネリスの父、ラーザルド公王だ。
当然、ミネリスもそのことは知っているだろう。
「ありがとう。でも用事があったのは商品じゃなくて人なんですよ」
「人材ですか? どのような職種の方をお探しで?」
人材派遣はミリオン屋が扱っている業務ではないのだが、ミネリスが訪れた理由を知るためにキアナは尋ねた。
ミネリスはその金色の双眸を一度ラークに向け、そしてキアナを見て言った。
「英雄ガウディル「彼はもう死んでいます」
間髪容れずとはまさにこのことだろう。
失礼かどうかといえば、かなりアウトな感じに口を挟む。
「の亡霊よ――やっぱり英雄ガウディルは死んでるの?」
ミネリスはもう砕けた口調に戻っていた。
これが彼女の素なのだろう。
「死んでおりますよ。私たちが確認しました」
「そう伝え聞いているわ」
「でしたら――」
「でも、本当は英雄ガウディルはまだ生きている。そして英雄ガウディルの亡霊の正体は――」
とまたラークの方を見る。
もしかしたら自分の正体に気付かれたのだろうかと、もしそうなら気付かれた原因を考える。
(賊の攻撃を躱したときの転び方がわざとらしかったか? それとも――)
と考えを巡らせたが、ミネリスは首を横に振って言った。
「そんなわけないわね。英雄ガウディルが生きていたらいまのラークくらいの年齢だもの。でも、ガウディルの亡霊の目撃情報は十五、六歳くらいだって言うし――英雄ガウディルも年齢より若く見えたっていうけれどさすがに別人ね」
どうやらまったくバレていないらしい。
内心で胸を撫でおろす。
「ガウディル様はいませんが、戦力が必要ということでしょうか?」
「ええ、しかもとびきりのね」
「賊に襲われたそうですが、その対策ですか?」
キアナがそう言うと、またミネリスはラークを見る。
今度は怒っているような気がする。
ラークが情報を提供したと思ったのだろう。
実際、昨日レミリィに報告する前にキアナにも言った。
賊退治の依頼はキアナから受けたから当然だ。
「ラークは当商会御用達の伝達係ですから、情報も届けてくれます。もっともその職権を利用して女性を店内に招く行為は問題になりますが」
キアナがラークを睨む。
先日テネアを入れたことを言っているのだろう。
だが、自分のことを言っていると思ったミネリスは、
「それは私が無理に言ったの。彼を責めないでちょうだい」
とラークを庇うように言った。
そして、賊については関係性はわからないとも。
あれがただの盗賊なのか、それとも第一公子に雇われた暗部なのかわかりかねているという感じだ。
「よければ応接室で詳しく話を聞かせてもらえませんか? もしよければ力になれるかもしれません」
「そうしてもらえる? じゃあ――」
「ラークにも聞いてもらいましょう。ミネリス姫が従業員口から何度も店に入ったら怪しまれますし」
「彼にも事情を知っておいて、あなたとの連絡役にした方がいいってことね。ごめんね、ラーク。また巻き込まれてくれる?」
「拒否権って言葉知ってます?」
「報酬は支払うわよ。日当五万ミルでいいわね」
「多すぎますって――わかりました。毒を食らわば皿まで。付き合いますよ」
とラークは困ったフリをして言った。
応接間に行き、秘書の女性が紅茶と茶菓子をテーブルに並び終えて下がったところで話が始まった。
「それで、英雄ガウディルの亡霊を用意できるの?」
「残念ながら私は死神ではないので死者に伝手はありません。ですが、必要でしたら強い方と繋ぎを取ることができます。聖女マーガレット。鍛冶女王ソーニャ。魔法研究者マリン」
「英雄の仲間ね」
「ええ。その伝手で。さすがに聖騎士クリスティーヌとギルドマスターレミリィは他国のごたごたに干渉できません。それとSSランク冒険者ジャンヌは現在どこにいるかわからないので連絡が取れません。先に上げた人たちも紹介するだけで実際に仕事を受けてくれるかどうかは彼女たち次第ですが」
「あなたに頼んだ場合、戦ってくれる?」
「私は商人ですよ。もう一線から退きました」
「そうは見えないけれど――」
「それに、紹介するにしても事情を聞かないと」
キアナが言う。
ちょっとやそっとのゴタゴタなら、彼女たちの誰かを派遣するだけで十分だろう。
(でも、公国の王位継承権絡みだとしたらマリン以外は紹介しても断るだろうな。マリンは報酬次第だな。あいつは仲間の中でも問題児だからな)
彼女たちに任せっぱなしにするのは申し訳ないが、Eランク冒険者の出番はないだろう。
そう思ったが――
「依頼内容は吸血鬼公爵討伐よ」
と言った。
(吸血鬼公爵討伐っ!? まさか彼女がっ!?)
ラークは思った。
もしも目的の人物でなかったとしても、この依頼は自分が――否、ガウディルが受けないといけないと。
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