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モーズ侯爵家の招待客
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聖女騒ぎの翌日になり、一応、騒ぎは収まりを見せた。
とある貴族により、町の代表を通じてこういう話が広まった。
『聖女とは、教会により推薦され、国王陛下が承認して初めて認められる存在です。それも無しに、特定の人物を聖女と呼ぶことは許されません』
その貴族が誰なのかは語られていないが、この町に現在いる貴族で考えられる人物は二人しかいない。
一人は、聖女と呼ばれたシアという修道女を連れて来たハインツ。
そして、もう一人は、モーズ侯爵家のパーティに行く途中、この町に立ち寄ったルシアナ。
一応、ルシアナの護衛をしている者の中にも貴族はいるのだが、彼らは男爵家や子爵家のうち家督を継ぐことのできない次男や三男が多く、ルシアナを無視して町の代表に忠言などできない。仮に、町の代表にその話を持ち掛けたのが、ルシアナの護衛をしている者だったとしても、それを指示したのはルシアナということになる。
もし、シアが聖女として名を広めれば、それを連れて来たハインツの名も挙がることから、彼が口止めをさせる必要もないこともあり、いま、町の人の間では、ルシアナが口止めをした貴族であるという噂が広まっていた。
「きっと、平民の修道女が自分よりもてはやされるのが嫌だったのだろう、というのが町の噂ですね。俺も同意見ですが」
サンタが言った。
「どうだろう? 案外、シアがハインツさんに口止めを頼んだのかもしれないよ。昨日も困っていたようだし」
「それはあれだけの人に押し寄せられたら怖いというのも仕方ありませんが、それとこれとは話が別でしょ。次期聖女に選ばれたら、シアちゃんだって将来安泰じゃないですか。町の噂から聖女になった人も過去にいたはずですし」
「地位とか名誉とか、そういうのに固執しないのかもしれないね」
バルシファルは、シアのことを思い出して、小さく笑った。
「はぁ、まぁ、ファル様のような人間もいらっしゃいますし、俺も人のことはあまり言えませんが。ただ、どちらにしても平民が嫌いっぽい、俺たちの雇い主は機嫌が悪いはずですから、なるべく近付かないでくださいね。もし、あのお嬢様と揉め事になったら、いろいろと面倒ですから」
「うん、忠告ありがとう、サンタ」
とバルシファルが言ったとき、ちょうどルシアナが馬車から現れた。
彼女はこちらに気付いたように一瞬視線を向けたのだが、まるで見るのも嫌だというように顔を背け、そして馬車の中へと入っていった。
「俺たちを見るのも嫌なようですね。シアちゃんとは大違いだ。あれが将来の皇太子妃と思うと、この国も大丈夫なんですかね?」
「あまり依頼主の悪口を言う物ではないよ」
バルシファルはそうサンタに忠告するのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日、ルシアナの機嫌はすこぶる良かった。
昨日も、バルシファルにハインツが泊っている宿に送ってもらった後、こっそり着替えてルシアナの泊っている宿に送り届けてもらってからも、嬉しくてほとんど眠れなかった。
にも拘らず、ルシアナははめ殺しの窓から南の空を見上げてくるくると回る。
「あぁ、なんて美しい青空かしら」
昨日はとても楽しかった。
それに、聖女についても町の権力者たちに口止めをお願いしたので、これ以上心配はない。
ルシアナの悪評が広まる可能性があると言われたけれど、そんなの、将来シャルド殿下から婚約破棄されて、公爵家を追放される未来を知っているルシアナには、その程度の悪評、どうっていうことはない。
むしろ、悪評が広まって、シャルド殿下との婚約破棄、公爵家からの追放が早まればありがたいと思うくらいだ。
「お嬢様、そろそろ出発のお時間です」
「はい」
ルシアナはルンルン気分で宿を出ようとし、外で護衛達と一緒に冒険者がいることに気付いた。
今のニヤけた表情を見られたらマズイと顔を背けてしまう。
そして、馬車の中に乗り込んでも、ニヤけた顔が元に戻らない。
「お嬢様、今日の昼過ぎにはモーズ侯爵家の領主町に到着しますから、それまでに表情を元に戻してくださいね」
「はい……わかりました」
ルシアナはそう言って、顔の口角を指でずらそうとするが、その表情が普通の笑顔程度に収まるまで、三時間ほど時間を要するのだった。
そして、馬車は五時間かけ、昼過ぎにモーズ侯爵領の領主町モーズに到着し、領主邸へと案内された。
「よくいらっしゃいました、ルシアナ様! シャルド殿下とのご婚約、おめでとうございます。それと、今日は私の誕生祭のためにご足労かけていただき、ありがとうございます」
モーズ侯爵家の使用人の前で、ルシアナと同い年の赤い髪の少女が小さく頭を下げる。
モーズ侯爵家の長女、アネッタであった。
昔、王都のパーティで何度か会ったことがあり、年齢も近いため、良く話し相手になった。もっとも、去年、モーズ侯爵家の命令で本家に戻されてから会うことはなかったが。
ルシアナは、扇子で口元を隠して言った。
「久しぶりね、アネッタ様。元気にしていたかしら?」
「はい! あの、ルシアナ様、あら声が――少しいつもと違うような……」
「それは――」
ルシアナは声を変えるチョーカーをつけたままであることを思い出す。
彼女はチョーカーに少し魔力を流して声を元に戻して、小声で言う。
「ちょっと、声を変える魔道具を使っていましたの。私の声って子供っぽいって言われますから、つい見栄を張ってしまいました」
「そうだったんですの。ところで、彼らは? 公爵家の下男でしょうか?」
アネッタが見たのは、冒険者の一団だった。
ルシアナはチョーカーに再度魔力を流して声を変える。
「彼らは冒険者よ。魔物が現れたときの露払いに雇ったの」
「まぁ、あれが冒険者ですか!? そのような人を屋敷の中に入れたらお父様に怒られてしまいますわ。屋敷の外で待っていてもらいましょう」
それはマズイとルシアナは思った。
バルシファルに屋敷の中に入ってもらわなかったら、肝心のモーズ侯爵について調べるという彼の目的が果たせなくなってしまう。
ルシアナは必死に考えて告げた。
「あら、いいではありませんか。あれでも番犬の代わりにはなりますわよ。雇っているのに使わないのはいけません。平民の間では、それをもったいないと言うそうですわよ。面白い言葉を使いますわね」
「もったいない、なるほど、そういう考えがあるのですね。勉強になりますわ。ルシアナ様がそうおっしゃるのなら、あなたたち、屋敷の中に入る事を許可しますが、無闇に動き回らないようにしてください」
アネッタは笑顔で冒険者たちに言って、家令に命令して、中に通させた。
これで、バルシファルも屋敷の中に入る事ができる……とルシアナが安堵したが、それだけではダメだと彼女は考え直す。
いくら屋敷の中に入る事ができたとしても、調査は難しいだろう。
(ここは私が協力をしなければ……)
そう決意をし、ルシアナはアネッタに言う。
「ところで、アネッタ、パーティまでまだ時間があるのよね? 少し屋敷の中を案内してくださらないかしら? 私、ここに来るのは初めてなので」
「そうですね。あ、でも、もう少ししたらミレーヌ様もいらっしゃいますので、一緒にいかがですか?」
「ミレーヌ様? どちら様だったかしら?」
「フランド男爵家のミレーヌ様です。覚えていらっしゃいませんか?」
フランド男爵家と言われて、何か思い出せそうなところまで来ているのだけれども、どうも思い出せない。ただ、フランド男爵家そのものは知っており、モーズ侯爵家を寄り親とする貴族だったはずだ。
「私の知り合いなのかしら?」
「はい、三年前、三人で一緒に遊んだことがあります」
三人というと、王都で出会ったのだろうか?
ただ、アネッタの言う三年前は、ルシアナにとって十六年前の出来事である。
アネッタとは何度もお茶会で顔を合わせていたので覚えていたのだけれど、そのミレーヌという貴族と会ったとき、ルシアナは当時四歳。それから、ルシアナは二十歳になるまで一度も顔を合わせていない。よほど印象的な人間でない限り、覚えてはいないはずだ。
「いらっしゃいました。フランド男爵家の馬車です」
「あの中に、ミレーヌ様が――」
門に馬車が見えた。
「では、ルシアナ様、中で待ちましょう」
「ええ……そうですね」
屋敷の前で主人が客を待つのは、相手が同等、もしくは格上の場合のみ。
格下の男爵家の令嬢の到着を家の前で待っていたら、モーズ侯爵家の品位を損なう。
そうアネッタは判断したようだ。
とはいえ、子供にあることは変わりなく、ルシアナとアネッタは外が見える部屋に移動した。
屋敷の前に止められた馬車の扉が開く。
そこから現れた少女を見て、ルシアナとアネッタは息を吞んだ。
「あの子は――まさか――」
見間違えるはずがないとルシアナは思った。
遠くからでもわかる。
あの蜘蛛の糸のように白く細い髪、紅玉のような赤い瞳、そして太陽に嫌われているかのように透明感のある肌と、細く引き締まった体。
(間違いない、年齢こそ違いますが、あの人は――本物の聖女様!)
シャルド殿下にルシアナと婚約破棄するように言った聖女ミレーユそっくりだった。
もちろん、年齢の違いはあるが、それでも目元の黒子などがよく似ていた。
何故? あの人は、ミレーヌ様ではないの?
そんな疑問がルシアナの中で繰り返される。
「ねぇ、アネッタ、あの人は――本当に――アネッタ?」
ルシアナが尋ねるも、アネッタはそれに気づかぬくらいにミレーヌを凝視していた。
そして、誰に言うでもなく、小さく呟いた。
「あの方は、どなたでしょうか?」
とある貴族により、町の代表を通じてこういう話が広まった。
『聖女とは、教会により推薦され、国王陛下が承認して初めて認められる存在です。それも無しに、特定の人物を聖女と呼ぶことは許されません』
その貴族が誰なのかは語られていないが、この町に現在いる貴族で考えられる人物は二人しかいない。
一人は、聖女と呼ばれたシアという修道女を連れて来たハインツ。
そして、もう一人は、モーズ侯爵家のパーティに行く途中、この町に立ち寄ったルシアナ。
一応、ルシアナの護衛をしている者の中にも貴族はいるのだが、彼らは男爵家や子爵家のうち家督を継ぐことのできない次男や三男が多く、ルシアナを無視して町の代表に忠言などできない。仮に、町の代表にその話を持ち掛けたのが、ルシアナの護衛をしている者だったとしても、それを指示したのはルシアナということになる。
もし、シアが聖女として名を広めれば、それを連れて来たハインツの名も挙がることから、彼が口止めをさせる必要もないこともあり、いま、町の人の間では、ルシアナが口止めをした貴族であるという噂が広まっていた。
「きっと、平民の修道女が自分よりもてはやされるのが嫌だったのだろう、というのが町の噂ですね。俺も同意見ですが」
サンタが言った。
「どうだろう? 案外、シアがハインツさんに口止めを頼んだのかもしれないよ。昨日も困っていたようだし」
「それはあれだけの人に押し寄せられたら怖いというのも仕方ありませんが、それとこれとは話が別でしょ。次期聖女に選ばれたら、シアちゃんだって将来安泰じゃないですか。町の噂から聖女になった人も過去にいたはずですし」
「地位とか名誉とか、そういうのに固執しないのかもしれないね」
バルシファルは、シアのことを思い出して、小さく笑った。
「はぁ、まぁ、ファル様のような人間もいらっしゃいますし、俺も人のことはあまり言えませんが。ただ、どちらにしても平民が嫌いっぽい、俺たちの雇い主は機嫌が悪いはずですから、なるべく近付かないでくださいね。もし、あのお嬢様と揉め事になったら、いろいろと面倒ですから」
「うん、忠告ありがとう、サンタ」
とバルシファルが言ったとき、ちょうどルシアナが馬車から現れた。
彼女はこちらに気付いたように一瞬視線を向けたのだが、まるで見るのも嫌だというように顔を背け、そして馬車の中へと入っていった。
「俺たちを見るのも嫌なようですね。シアちゃんとは大違いだ。あれが将来の皇太子妃と思うと、この国も大丈夫なんですかね?」
「あまり依頼主の悪口を言う物ではないよ」
バルシファルはそうサンタに忠告するのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日、ルシアナの機嫌はすこぶる良かった。
昨日も、バルシファルにハインツが泊っている宿に送ってもらった後、こっそり着替えてルシアナの泊っている宿に送り届けてもらってからも、嬉しくてほとんど眠れなかった。
にも拘らず、ルシアナははめ殺しの窓から南の空を見上げてくるくると回る。
「あぁ、なんて美しい青空かしら」
昨日はとても楽しかった。
それに、聖女についても町の権力者たちに口止めをお願いしたので、これ以上心配はない。
ルシアナの悪評が広まる可能性があると言われたけれど、そんなの、将来シャルド殿下から婚約破棄されて、公爵家を追放される未来を知っているルシアナには、その程度の悪評、どうっていうことはない。
むしろ、悪評が広まって、シャルド殿下との婚約破棄、公爵家からの追放が早まればありがたいと思うくらいだ。
「お嬢様、そろそろ出発のお時間です」
「はい」
ルシアナはルンルン気分で宿を出ようとし、外で護衛達と一緒に冒険者がいることに気付いた。
今のニヤけた表情を見られたらマズイと顔を背けてしまう。
そして、馬車の中に乗り込んでも、ニヤけた顔が元に戻らない。
「お嬢様、今日の昼過ぎにはモーズ侯爵家の領主町に到着しますから、それまでに表情を元に戻してくださいね」
「はい……わかりました」
ルシアナはそう言って、顔の口角を指でずらそうとするが、その表情が普通の笑顔程度に収まるまで、三時間ほど時間を要するのだった。
そして、馬車は五時間かけ、昼過ぎにモーズ侯爵領の領主町モーズに到着し、領主邸へと案内された。
「よくいらっしゃいました、ルシアナ様! シャルド殿下とのご婚約、おめでとうございます。それと、今日は私の誕生祭のためにご足労かけていただき、ありがとうございます」
モーズ侯爵家の使用人の前で、ルシアナと同い年の赤い髪の少女が小さく頭を下げる。
モーズ侯爵家の長女、アネッタであった。
昔、王都のパーティで何度か会ったことがあり、年齢も近いため、良く話し相手になった。もっとも、去年、モーズ侯爵家の命令で本家に戻されてから会うことはなかったが。
ルシアナは、扇子で口元を隠して言った。
「久しぶりね、アネッタ様。元気にしていたかしら?」
「はい! あの、ルシアナ様、あら声が――少しいつもと違うような……」
「それは――」
ルシアナは声を変えるチョーカーをつけたままであることを思い出す。
彼女はチョーカーに少し魔力を流して声を元に戻して、小声で言う。
「ちょっと、声を変える魔道具を使っていましたの。私の声って子供っぽいって言われますから、つい見栄を張ってしまいました」
「そうだったんですの。ところで、彼らは? 公爵家の下男でしょうか?」
アネッタが見たのは、冒険者の一団だった。
ルシアナはチョーカーに再度魔力を流して声を変える。
「彼らは冒険者よ。魔物が現れたときの露払いに雇ったの」
「まぁ、あれが冒険者ですか!? そのような人を屋敷の中に入れたらお父様に怒られてしまいますわ。屋敷の外で待っていてもらいましょう」
それはマズイとルシアナは思った。
バルシファルに屋敷の中に入ってもらわなかったら、肝心のモーズ侯爵について調べるという彼の目的が果たせなくなってしまう。
ルシアナは必死に考えて告げた。
「あら、いいではありませんか。あれでも番犬の代わりにはなりますわよ。雇っているのに使わないのはいけません。平民の間では、それをもったいないと言うそうですわよ。面白い言葉を使いますわね」
「もったいない、なるほど、そういう考えがあるのですね。勉強になりますわ。ルシアナ様がそうおっしゃるのなら、あなたたち、屋敷の中に入る事を許可しますが、無闇に動き回らないようにしてください」
アネッタは笑顔で冒険者たちに言って、家令に命令して、中に通させた。
これで、バルシファルも屋敷の中に入る事ができる……とルシアナが安堵したが、それだけではダメだと彼女は考え直す。
いくら屋敷の中に入る事ができたとしても、調査は難しいだろう。
(ここは私が協力をしなければ……)
そう決意をし、ルシアナはアネッタに言う。
「ところで、アネッタ、パーティまでまだ時間があるのよね? 少し屋敷の中を案内してくださらないかしら? 私、ここに来るのは初めてなので」
「そうですね。あ、でも、もう少ししたらミレーヌ様もいらっしゃいますので、一緒にいかがですか?」
「ミレーヌ様? どちら様だったかしら?」
「フランド男爵家のミレーヌ様です。覚えていらっしゃいませんか?」
フランド男爵家と言われて、何か思い出せそうなところまで来ているのだけれども、どうも思い出せない。ただ、フランド男爵家そのものは知っており、モーズ侯爵家を寄り親とする貴族だったはずだ。
「私の知り合いなのかしら?」
「はい、三年前、三人で一緒に遊んだことがあります」
三人というと、王都で出会ったのだろうか?
ただ、アネッタの言う三年前は、ルシアナにとって十六年前の出来事である。
アネッタとは何度もお茶会で顔を合わせていたので覚えていたのだけれど、そのミレーヌという貴族と会ったとき、ルシアナは当時四歳。それから、ルシアナは二十歳になるまで一度も顔を合わせていない。よほど印象的な人間でない限り、覚えてはいないはずだ。
「いらっしゃいました。フランド男爵家の馬車です」
「あの中に、ミレーヌ様が――」
門に馬車が見えた。
「では、ルシアナ様、中で待ちましょう」
「ええ……そうですね」
屋敷の前で主人が客を待つのは、相手が同等、もしくは格上の場合のみ。
格下の男爵家の令嬢の到着を家の前で待っていたら、モーズ侯爵家の品位を損なう。
そうアネッタは判断したようだ。
とはいえ、子供にあることは変わりなく、ルシアナとアネッタは外が見える部屋に移動した。
屋敷の前に止められた馬車の扉が開く。
そこから現れた少女を見て、ルシアナとアネッタは息を吞んだ。
「あの子は――まさか――」
見間違えるはずがないとルシアナは思った。
遠くからでもわかる。
あの蜘蛛の糸のように白く細い髪、紅玉のような赤い瞳、そして太陽に嫌われているかのように透明感のある肌と、細く引き締まった体。
(間違いない、年齢こそ違いますが、あの人は――本物の聖女様!)
シャルド殿下にルシアナと婚約破棄するように言った聖女ミレーユそっくりだった。
もちろん、年齢の違いはあるが、それでも目元の黒子などがよく似ていた。
何故? あの人は、ミレーヌ様ではないの?
そんな疑問がルシアナの中で繰り返される。
「ねぇ、アネッタ、あの人は――本当に――アネッタ?」
ルシアナが尋ねるも、アネッタはそれに気づかぬくらいにミレーヌを凝視していた。
そして、誰に言うでもなく、小さく呟いた。
「あの方は、どなたでしょうか?」
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