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第九章

プロローグ

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 私――ミレはいま空を飛んでいた。
 馬車の数十倍もの速度で飛んでいる。ガラスのような蓋の中に入っていて外からの風は入ってこないけれど、きっとこの蓋を開ければ風圧で目を開けることすらできないだろう。
 なんて少し前の私に説明しても信じて貰えないだろう。
 ちょっと前までの私にとっての世界は、小さな居住区とその周辺だけだった。子どもの頃の記憶を失い、幼いころに住んでいた居住区のことも忘れ、いったい自分が何者なのかやきもきする日々。
 それがある少年――クルト・ロックハンスと出会ったことで変わった。
 青い空を見て、夜空に輝く星々を見て、広大な緑豊かな大地を見て、私の中の世界は大きく広がった。
 あとは失われた記憶のみ。
 そして、その記憶の手がかりが間もなく見つかるかもしれない。

「ねぇ、この乗り物ってこっちの世界では当たり前のものなの? 他に似たような乗り物を全然見かけないんだけど」

 馬車くらいの大きさの縦長の乗り物。
 鳥のような翼がついているけれど、鳥のように羽ばたいたりはしない。代わりに、よくわからないけど高速で回転するプロペラ?というものがついている。
 なんでこれで空を飛ぶことができるのかは意味がわからないけれど、ワイバーンやドラゴンは魔法の力を使ってあの巨体を浮かしているというし、きっとそれに似た力があるのだろうか?

「これは最近クルト殿が作った飛空艇というものをさらに小型化し、水の上にも着水、走行できる水上飛空機という
乗り物でござる」

 とダンゾウさんは説明してくれたけど、それだけだとクルトが凄いってこと以外はわからなかった。

「シーナさん、大丈夫ですか?」
「問題ないでござる。少し眠ってもらっただけでござるから」
「そう……」

 空を見上げる。
 雲が出ていて、青空が見えない。

「雲の上まで飛べませんか?」
「そこまで高く飛ぶと地図が確認できないでござる。それに、上空に行き過ぎると気温も下がるでござるから」
「そう……」

 どうやら、高い場所に行けば行くほど気温は下がるらしい。
 悪魔の塔の天辺より遥か上にある世界なのに、なんでこの世界が極寒の大地ではないのかはわからないけれど、そういう理由ならば――

「少し寝かせてもらいますね」
「どうぞごゆるりと」

 操縦桿を握るダンゾウさんは低い、だけど優しそうな声で言った。

「拙者の故国についたら起こすでござるよ」

 ダンゾウさんの故国、ヤマトの国――そこに私の記憶に関する手がかりがある。


―――――――――――――――――――
お待たせしました。第九章(10巻の続き)
連載再開します。
だいたい週1更新になりそうです。
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