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青い彼と贈り物 下(ロジ様へ)
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「それで、何を買うつもりなの?」
「うーん……なにがいいかなぁ?」
いや、私が知りたいんだってば。
苦笑していれば、そもそも、とミリスが口を開く。
「そちらの方はどなたですの? いえ、リリーのお友達なのはわかるのですが」
「あ、ほんと? 友達ってわかる? 嬉しいなー」
途端に笑顔になったカーディナル。そんなに私と友人なのが嬉しいの? もの凄くニコニコしちゃってる。
「僕はカディ。リリーとはいろいろあって友達になったんだ。今日は、僕の大事な人への贈り物を一緒に探してほしくて声をかけたんだよ」
「大事な人? それは家族ですの? それとも友人や恋人とか、相手によっても変わってしまいますわね」
確かにそうだよね、私は贈りたい相手を知ってるけどさ。ミリスの疑問は最もだなーと思っていれば、カーディナルは小さな笑みを浮かべて首を傾げる。
「恋人、うーん、恋人かなぁ」
「え、違うの?」
「厳密には? 生涯共にとは言ってるけど、向こうが信じてくれているかはわからないでしょ?」
そう言ったカーディナルは微笑んだまま、唇だけで私に告げる。
『時の長さが違うから』
……カーディナルが愛しているのは風の精霊さん、それも次期精霊王になるのではと言われるほどの力を持つらしい。当然だけど、人間であるカーディナルとは生きていく時間が違う。
カーディナルはそれが嫌で、少しでも一緒にいる時間を長くしたくて禁忌とされた魔法に手を出したから、魔法省に追われる身となったんだ。
ちなみに外見は少年だけど、実際には私どころかレオナール様よりも歳上で三十は越えている。禁忌の魔法ーー不老不死に近づく段階を成功させたからずっと若々しいままなんじゃないかって噂だ。
そこまでしてでも一緒にいたい相手を、恋人と言い切れないなんて……
「僕は彼女しか愛せない。でも、向こうは違うかもしれない」
「そこは信じてさしあげなければ相手の方が可哀想な気もしますわ」
「そう?」
「ええ、私なら、悲しいです」
気持ちを信じてもらえないのは確かに悲しい。でも、残していく風の精霊さんがずっと自分を忘れずに悲しむのも嫌で、忘れられてしまうのも嫌で、そんなカーディナルの気持ちが私にはよくわかるんだ。
切なくて愛しくて……きっと、哀しいと書いていとしいと読むのが一番正しいこの気持ちは、ミリスに説明してもわからないだろう。
だけどそのミリスのまっすぐな言葉は女の子気持ちそのものであって、私にはそれもよくわかる。それに、水の精霊さんのミリスが悲しいと言うのなら、多分風の精霊さんだって同じように思うんじゃないかな。
厳密にはって言い方でも、今現在風の精霊さんはカーディナルの恋人って認識でいいんでしょう? だから、風の精霊さんだってカーディナルを好きなんだものね。
「どんな気持ちを贈りたいの?」
「え?」
「贈り物には気持ちを込めるものでしょう? だから、カディがどんな気持ちを伝えたいのか考えればいいんじゃないかしら」
「僕の、気持ち」
私の言葉に、そんなの、とカーディナルが瞳を揺らす。そうしていると外見通りの少年にしか見えないな、なんて思いつつ、私は小さく微笑んだ。
「愛しい気持ちを伝えたいなら、同じ気持ちだと言いたいなら、お揃いのものを身につけるのがいいかもしれないわ」
「リリー……」
「指輪でも腕輪でも、首飾りでも。なんでもいいから、共有するのがわかりやすいんじゃない?」
「そう、だね。いいかも」
表情を明るくしたカーディナルに頷いて考えてみる。風の精霊さんだから、あんまり束縛のように感じるものは駄目かも?
「ミリスなら、お揃いのものだと何がいい?」
「わ、私ですの?」
チラリとアムドさんを見たミリスの顔が真っ赤になる。そんなミリスをそれまで黙っていたアムドさんが優しいまなざしで見つめて、ゆっくりと口を開いた。
「俺は、あんまり身につけることが好きじゃない。身動きしにくいのや、気持ちによって自分の自由が奪われたような感覚があるから」
「それは、風の精霊さんだからですか? 束縛されているような感覚でしょうか」
「そうだと思う」
風の性質上、そう感じるのは仕方ないのかも。でも、ミリスがすんごいしょんぼりしちゃってるのよね。
どうにかならないかなーと思ってアムドさんを見たら、だけどとほのかな笑みを浮かべているのが見えた。
「好きな相手になら、縛られるのもいいか」
……待って、ちょっと待って。さっきの発言の後に、それ?
え、うわ、盛大に惚気られた気分。ミリスまだ気づいてないけど、気づいてあげて!
今、アムドさんが最大級にミリスを愛してるから的な発言したよ!
思わず頬を両手で押さえると、やっぱりというか案の定熱い。きっと真っ赤になってるんだろうね。
「……レオナール君の契約者、凄いなぁ」
小さく呟いたカーディナルに思わずうんうんと頷いていると、やっと気づいたらしいミリスが耳まで真っ赤に染まっていく。それを見つめるアムドさんの目がとんでもなく甘いです……ご馳走様です。
え、えと、とりあえずこれでカーディナルがなにを買おうか悩んでいたことのお手伝いは出来た、かな?
あとは納得いく物が手に入れられたらいいなーなんて、うん。
ミリスとアムドさんの空気が甘すぎて現実逃避した私は、悪くない、はず。
.
「うーん……なにがいいかなぁ?」
いや、私が知りたいんだってば。
苦笑していれば、そもそも、とミリスが口を開く。
「そちらの方はどなたですの? いえ、リリーのお友達なのはわかるのですが」
「あ、ほんと? 友達ってわかる? 嬉しいなー」
途端に笑顔になったカーディナル。そんなに私と友人なのが嬉しいの? もの凄くニコニコしちゃってる。
「僕はカディ。リリーとはいろいろあって友達になったんだ。今日は、僕の大事な人への贈り物を一緒に探してほしくて声をかけたんだよ」
「大事な人? それは家族ですの? それとも友人や恋人とか、相手によっても変わってしまいますわね」
確かにそうだよね、私は贈りたい相手を知ってるけどさ。ミリスの疑問は最もだなーと思っていれば、カーディナルは小さな笑みを浮かべて首を傾げる。
「恋人、うーん、恋人かなぁ」
「え、違うの?」
「厳密には? 生涯共にとは言ってるけど、向こうが信じてくれているかはわからないでしょ?」
そう言ったカーディナルは微笑んだまま、唇だけで私に告げる。
『時の長さが違うから』
……カーディナルが愛しているのは風の精霊さん、それも次期精霊王になるのではと言われるほどの力を持つらしい。当然だけど、人間であるカーディナルとは生きていく時間が違う。
カーディナルはそれが嫌で、少しでも一緒にいる時間を長くしたくて禁忌とされた魔法に手を出したから、魔法省に追われる身となったんだ。
ちなみに外見は少年だけど、実際には私どころかレオナール様よりも歳上で三十は越えている。禁忌の魔法ーー不老不死に近づく段階を成功させたからずっと若々しいままなんじゃないかって噂だ。
そこまでしてでも一緒にいたい相手を、恋人と言い切れないなんて……
「僕は彼女しか愛せない。でも、向こうは違うかもしれない」
「そこは信じてさしあげなければ相手の方が可哀想な気もしますわ」
「そう?」
「ええ、私なら、悲しいです」
気持ちを信じてもらえないのは確かに悲しい。でも、残していく風の精霊さんがずっと自分を忘れずに悲しむのも嫌で、忘れられてしまうのも嫌で、そんなカーディナルの気持ちが私にはよくわかるんだ。
切なくて愛しくて……きっと、哀しいと書いていとしいと読むのが一番正しいこの気持ちは、ミリスに説明してもわからないだろう。
だけどそのミリスのまっすぐな言葉は女の子気持ちそのものであって、私にはそれもよくわかる。それに、水の精霊さんのミリスが悲しいと言うのなら、多分風の精霊さんだって同じように思うんじゃないかな。
厳密にはって言い方でも、今現在風の精霊さんはカーディナルの恋人って認識でいいんでしょう? だから、風の精霊さんだってカーディナルを好きなんだものね。
「どんな気持ちを贈りたいの?」
「え?」
「贈り物には気持ちを込めるものでしょう? だから、カディがどんな気持ちを伝えたいのか考えればいいんじゃないかしら」
「僕の、気持ち」
私の言葉に、そんなの、とカーディナルが瞳を揺らす。そうしていると外見通りの少年にしか見えないな、なんて思いつつ、私は小さく微笑んだ。
「愛しい気持ちを伝えたいなら、同じ気持ちだと言いたいなら、お揃いのものを身につけるのがいいかもしれないわ」
「リリー……」
「指輪でも腕輪でも、首飾りでも。なんでもいいから、共有するのがわかりやすいんじゃない?」
「そう、だね。いいかも」
表情を明るくしたカーディナルに頷いて考えてみる。風の精霊さんだから、あんまり束縛のように感じるものは駄目かも?
「ミリスなら、お揃いのものだと何がいい?」
「わ、私ですの?」
チラリとアムドさんを見たミリスの顔が真っ赤になる。そんなミリスをそれまで黙っていたアムドさんが優しいまなざしで見つめて、ゆっくりと口を開いた。
「俺は、あんまり身につけることが好きじゃない。身動きしにくいのや、気持ちによって自分の自由が奪われたような感覚があるから」
「それは、風の精霊さんだからですか? 束縛されているような感覚でしょうか」
「そうだと思う」
風の性質上、そう感じるのは仕方ないのかも。でも、ミリスがすんごいしょんぼりしちゃってるのよね。
どうにかならないかなーと思ってアムドさんを見たら、だけどとほのかな笑みを浮かべているのが見えた。
「好きな相手になら、縛られるのもいいか」
……待って、ちょっと待って。さっきの発言の後に、それ?
え、うわ、盛大に惚気られた気分。ミリスまだ気づいてないけど、気づいてあげて!
今、アムドさんが最大級にミリスを愛してるから的な発言したよ!
思わず頬を両手で押さえると、やっぱりというか案の定熱い。きっと真っ赤になってるんだろうね。
「……レオナール君の契約者、凄いなぁ」
小さく呟いたカーディナルに思わずうんうんと頷いていると、やっと気づいたらしいミリスが耳まで真っ赤に染まっていく。それを見つめるアムドさんの目がとんでもなく甘いです……ご馳走様です。
え、えと、とりあえずこれでカーディナルがなにを買おうか悩んでいたことのお手伝いは出来た、かな?
あとは納得いく物が手に入れられたらいいなーなんて、うん。
ミリスとアムドさんの空気が甘すぎて現実逃避した私は、悪くない、はず。
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