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第17話 もっと気楽にいきましょう

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ダニエルに連れて来られたのは、彼の私室だった。モダンな家具が置かれた部屋は、きれいに整理されている。

いちばんキャリーの目を引いたのは、みっちりと棚に並ぶ本の数々だった。それは一段一段高さの揃った本が並び、彼が几帳面だということを物語っていた。

「すごい数の本ですね。見てもよろしいですか?」

キャリーの言葉にダニエルは一瞬戸惑うが「もちろんだよ」と、どこかぎこちなく微笑んだ。彼の表情を不思議に思いつつ、許可をもらったキャリーが本棚に近づくと、そこに並ぶ本に違和感を覚える。

(ん?何だろう・・・意外な本が並んでるみたいだけど・・)

キャリーが、そう思うのも無理はない。ズラッと目の前に並ぶのは、小難しい本でもなく、剣の指南書でもない。背表紙のタイトルから分かるのは、それらが恋愛小説だということだった。

ダニエルがこんな趣味を持っていることは、キャリーにも意外だった。そして、彼女の背中にダニエルの声が届く。

「驚いただろう?でも、これは妹の本だからね。彼女が置いていったんだ」

「妹さんが、いらしたのですか。今日は、ご不在でしたね」

「ああ、そうなんだ。そのことも話さないといけないね。隠し事をしたまま君との愛を神の前で誓うなんて、私にはできないよ」

ダニエルが何かを打ち明けようとしていることに、キャリーは嬉しく思うと同時に申し訳なく思う。それは今ダニエルの口からでてきた『隠し事をしたまま神の前で誓うなんて、できない』というセリフが原因だった。

ダニエルは、キャリーに誠実であろうとしてくれているのに、自分は前世持ちであることを、そしてクロードから逃げたのがそれを思い出した為だったことを、隠している。

しかし、“実は前世の記憶があるんです”なんて明かしても、例えダニエルでも信じてはもらえないだろうと、キャリーは自身の秘密を明かすことを思いとどまった。

「ダニエル様のお気持ちは嬉しいですが、あまり堅く考えなくてもいいと思いますよ」

キャリーの率直な意見にダニエルは「やっぱり君を選んで正解だったな」と破顔した。

そしてキャリーは、本を取って目を通し始める。タイトルだけであらすじが想像できるような本がずらりと並んでいる。

キャリーは、そうしながらも前世の記憶を思い返していた。妹たちが異世界恋愛小説について、本当に楽しげそうに語り合っていたことを・・

キャリーが本を手に感慨にふけっていると、ダニエルはキャリーにソファーに座ることを促した。彼にも妹たちのように、恋愛小説の素晴らしさを語られるのかと思ったキャリーだったが、ダニエルの秘密の暴露はこれで終わりではなかったのだ。

これからダニエルの口から語られる話に、キャリーはひっくり返りそうなほど驚かされるのだった。

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