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新章
新章第16話 現れたのは敵か味方か
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「エルメ様っ!!」
「えっ!?その声はビア!?」
慌てて立ち上がると、もう一度強く名前を呼ばれる。
「エルメ様っ!!ご無事ですかっ!」
その声の主は、間違いなくビアトリスだった。
(何で!?何でビアがこんなところにいるの?この子何やってるのよぉ)
エルメが混乱していると、扉の向こうから「少しお待ち下さい!今、お助けします!」と頼もしいセリフが聞こえてくる。そしてその後に鍵がガチャガチャと鳴ると、扉がすぐに開いた。
するとそこには、ハサミを構えたビアトリスの姿があった。
(ハサミ!?何でハサミなんか・・裁縫上手なビアらしいわね)
「ビア!どうしてここにっ!?私がここにいるって、よく分かったわね!」
「エルメ様!よかった。ご無事ですか?実は舞踏会を満喫しておりましたが、少し雰囲気に酔ってしまって、外の空気を吸いに出たんです。そうしたら怪しげな男に担がれたエルメ様を偶然お見かけし、後を追ってきたんです。一体、何があったんですか?」
「そうなの・・とにかくビアが追いかけて来てくれて助かったわ。ありがとう」
そう礼を言うが、助かった喜びよりもエルメには気になることがあった。それはビアトリスの格好だ。エルメと同じデザインのグリーンのドレスを着ているのだ。
(前から少し似てると思ってたけど、同じドレスを着ると、やっぱり私に似てるわね)
「ビア・・そのドレスどうしたの?」
「あっ、このドレスはエルメ様の身代わりになるために着てきました」
「身代わりって、そんな危ないこと」
「いいえ!危険でもエルメ様の為ならどんなことでもいたします!」
「えっと・・でも・・・?」
(確かビアの舞踏会用のドレスは、オレンジだった。今の話だと、そんな着替える時間なんてないはずだけど・・)
不思議に思っていると、エルメの考えを読んだかのように、ビアトリスは続ける。
「実はエルメ様のドレスがいつ何時トラブルに見舞われてもいいように、着替て控えていたんです」
(・・んん?おかしい・・・よね?)
エルメの頭には、いくつかの疑問符が浮かび、それを打ち消しては、また現れるを繰り返している。
「そういえば、さっき『怪しい男』と言ってたわね。まさか、まだ近くにいるの?」
「いいえ、出かけてます。ですから、こうして私が助けに来ました。男が戻って来る前に逃げましょう!」
いまエルメの前に居るビアトリスは、別人のようだ。エルメは控えめでウブな彼女が、ここまで積極的に行動できるとは思ってもみなかった。
(あっ・・・違う。ビアはアリスに弟子にしてくれと直談判できる子だった。何の不思議もないじゃない)
そうストンと疑問の答えが見つけたエルメ。そしてビアトリスは、エルメの手を取り、走り出そうとする。
「急ぎましょう。ここは危険です」
しかしエルメの足は、動かなかった。この場から逃げられると、全く喜べなかった。それはビアトリスから漂ってくる香りのせいだ。
引かれた手を振りほどき、ドレスの袖に手を入れると、エルメの手にはナイフが・・・
「ビア、下手な芝居はやめなさい」
ビアトリスに真剣な眼差しを向けるエルメの声は、低く、冗談ではないことを語っている。
「えっ!?エルメ様?冗談はやめましょう。私、芝居なんてしてません!」
「私を侮らないでちょうだい!ここに連れて来られるまで、私がずっと眠ったままだと思った?貴女のつけてる香水。私をここへ連れてきた人物と同じものよ」
エルメの言うとおり、拉致されてる途中で一度意識を取り戻した彼女は、鼻に届いた香水の香りを覚えていた。
するとエルメの言葉を聞いたビアトリスのオッドアイの瞳が不思議な光を放ち、声が変わる。
「バレちゃいましたね。それにしても、袖にナイフを隠し持ってるなんて思いませんでしたよ、エルメ様」
「そお?昔から持ち歩くのが趣味なのよ」
「そうでしたね。肌身はなず持っていたからこそ、赤い目の女に襲われた時も、あの小さな家に逃げた時も役に立ったわけですもんね」
ビアトリスの口から出てくる話は、彼女と出会う前のエルメの過去だ。ビアトリスが、知ってるはずがない。
「!!何で知ってるのよ」
そう驚きの声を上げたエルメの反応を楽しむかのようにビアトリスは、口角を上げると、言った。
「それは今からお話します。とにかくエルメ様に危害を加えるつもりはありませんから、ナイフを下ろしてください」
しかしその言葉を信じることができないエルメは、ナイフの先をビアトリスに向けたまま対峙した。
「えっ!?その声はビア!?」
慌てて立ち上がると、もう一度強く名前を呼ばれる。
「エルメ様っ!!ご無事ですかっ!」
その声の主は、間違いなくビアトリスだった。
(何で!?何でビアがこんなところにいるの?この子何やってるのよぉ)
エルメが混乱していると、扉の向こうから「少しお待ち下さい!今、お助けします!」と頼もしいセリフが聞こえてくる。そしてその後に鍵がガチャガチャと鳴ると、扉がすぐに開いた。
するとそこには、ハサミを構えたビアトリスの姿があった。
(ハサミ!?何でハサミなんか・・裁縫上手なビアらしいわね)
「ビア!どうしてここにっ!?私がここにいるって、よく分かったわね!」
「エルメ様!よかった。ご無事ですか?実は舞踏会を満喫しておりましたが、少し雰囲気に酔ってしまって、外の空気を吸いに出たんです。そうしたら怪しげな男に担がれたエルメ様を偶然お見かけし、後を追ってきたんです。一体、何があったんですか?」
「そうなの・・とにかくビアが追いかけて来てくれて助かったわ。ありがとう」
そう礼を言うが、助かった喜びよりもエルメには気になることがあった。それはビアトリスの格好だ。エルメと同じデザインのグリーンのドレスを着ているのだ。
(前から少し似てると思ってたけど、同じドレスを着ると、やっぱり私に似てるわね)
「ビア・・そのドレスどうしたの?」
「あっ、このドレスはエルメ様の身代わりになるために着てきました」
「身代わりって、そんな危ないこと」
「いいえ!危険でもエルメ様の為ならどんなことでもいたします!」
「えっと・・でも・・・?」
(確かビアの舞踏会用のドレスは、オレンジだった。今の話だと、そんな着替える時間なんてないはずだけど・・)
不思議に思っていると、エルメの考えを読んだかのように、ビアトリスは続ける。
「実はエルメ様のドレスがいつ何時トラブルに見舞われてもいいように、着替て控えていたんです」
(・・んん?おかしい・・・よね?)
エルメの頭には、いくつかの疑問符が浮かび、それを打ち消しては、また現れるを繰り返している。
「そういえば、さっき『怪しい男』と言ってたわね。まさか、まだ近くにいるの?」
「いいえ、出かけてます。ですから、こうして私が助けに来ました。男が戻って来る前に逃げましょう!」
いまエルメの前に居るビアトリスは、別人のようだ。エルメは控えめでウブな彼女が、ここまで積極的に行動できるとは思ってもみなかった。
(あっ・・・違う。ビアはアリスに弟子にしてくれと直談判できる子だった。何の不思議もないじゃない)
そうストンと疑問の答えが見つけたエルメ。そしてビアトリスは、エルメの手を取り、走り出そうとする。
「急ぎましょう。ここは危険です」
しかしエルメの足は、動かなかった。この場から逃げられると、全く喜べなかった。それはビアトリスから漂ってくる香りのせいだ。
引かれた手を振りほどき、ドレスの袖に手を入れると、エルメの手にはナイフが・・・
「ビア、下手な芝居はやめなさい」
ビアトリスに真剣な眼差しを向けるエルメの声は、低く、冗談ではないことを語っている。
「えっ!?エルメ様?冗談はやめましょう。私、芝居なんてしてません!」
「私を侮らないでちょうだい!ここに連れて来られるまで、私がずっと眠ったままだと思った?貴女のつけてる香水。私をここへ連れてきた人物と同じものよ」
エルメの言うとおり、拉致されてる途中で一度意識を取り戻した彼女は、鼻に届いた香水の香りを覚えていた。
するとエルメの言葉を聞いたビアトリスのオッドアイの瞳が不思議な光を放ち、声が変わる。
「バレちゃいましたね。それにしても、袖にナイフを隠し持ってるなんて思いませんでしたよ、エルメ様」
「そお?昔から持ち歩くのが趣味なのよ」
「そうでしたね。肌身はなず持っていたからこそ、赤い目の女に襲われた時も、あの小さな家に逃げた時も役に立ったわけですもんね」
ビアトリスの口から出てくる話は、彼女と出会う前のエルメの過去だ。ビアトリスが、知ってるはずがない。
「!!何で知ってるのよ」
そう驚きの声を上げたエルメの反応を楽しむかのようにビアトリスは、口角を上げると、言った。
「それは今からお話します。とにかくエルメ様に危害を加えるつもりはありませんから、ナイフを下ろしてください」
しかしその言葉を信じることができないエルメは、ナイフの先をビアトリスに向けたまま対峙した。
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