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後日談 リーナストーリー ホワイトエンド - Ⅳ
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「悪いな。彼女は俺との先約があるんだ」
突然の王子登場に男は「はいぃっ!!」と逃げていった。
リーナが、後ろから聞こえた声に振り向くより先に手を引かれ、すぐ近くの部屋へ連れ込まれる。扉を乱暴に閉めたセドリックは、今度は後ろではなく前からギュッとリーナを抱きしめた。
「大丈夫だったか?」
耳元で囁かれた言葉に「はい、ありがとうございます」とお礼のセリフだけがこぼれる。それを聞いたセドリックは「よかった」と安堵のため息を漏らした。
そしてリーナは、彼の腕の力が強くなった気がした。痛いくらいに強くて、少し苦しい。でもなぜか嫌じゃなくて、むしろその腕の中にいたいと思えた。
「愛してるんだ。俺の側にいてくれ」
耳元で聞こえる切羽詰まったような声音に、リーナは何も言えなくなってしまう。
(だから“俺”とか反則だってば・・そんなに直球で言われたら、私、認めるしかないじゃない)
しかしリーナの口から、降参するセリフは出てこない。
しばらくして、ようやく離された腕は、そのまま顎へと移動して上を向かされる。目の前には、真剣な顔でこちらを見つめるセドリックがいた。
そしてリーナは、真っ直ぐに向けられる彼の瞳の色が違うことに気付く。ほんの僅かだが、違うと彼女は確信していた。
(何で瞳の色が変わったんだろう。さっき変わった気がしたのは、気の所為じゃなかった)
「リーナ・・答えてくれないのか?」
(あっ・・瞳の色とか気にしてる場合じゃなかった。あれ、そもそも何で逃げてるんだったかしら?・・・彼の思いどおりになるのが嫌で、調教とか言われて弄ばれてるみたいで悔しくて・・でもそれは謝ってくれたし、もう逃げる理由がない・・・?最初は神様の余計なお世話だったとしても、ずっと私だけを好きでいてくれるし、どうせ逃げられないし・・妃になる覚悟は、どうだろう。でもこの人となら・・・・)
リーナは、先程まで感じていた困惑がゆっくりと霧が晴れるように消えていくことに気付く。代わりに胸の奥から湧き上がる暖かい感情を認めた。
「降参です。セドリック様・・貴方が望む限り、私は貴方の隣に立つことを誓います」
リーナは、ようやく素直に自分の気持ちを言葉にした。それを聞いたセドリックは破顔すると、再びギュッと抱きしめた。
(これが本当の彼・・前のも嫌じゃなかったけど、ちょっとホッとするな)
リーナは、そっと広い背中に腕を回した。
「熱い・・」
やっとまとまった雰囲気を壊すリーナのセリフが聞こえ、慌てて身体を離した彼女は、ドレスの胸元に手を入れると、何かを取り出す。
彼女の手にあったのは、冬馬から貰ったあの魔力の玉だ。ギョッとしたセドリックから「どこに入れてるんだ」と言われたリーナは、あっけらかんと答える。
「あら、だって二度も私を助けてくれたお守りみたいな物でしょう。だから最後の一つは、肌身離さず持ち歩いていたんです。でもあいにく、ドレスにポケットはないので仕方なくここへ入れました」
しかし玉が熱を持ったということは、力を使いその役目を終えたということだ。
リーナは「これは何から私を守ってくれたんでしょうか」と、疑問を口にしセドリックを見る。すると彼の瞳の色が、リーナのよく知っているグリーンに戻っていくのに気付いた。
そしてセドリックから「・・ようやく元に・・・」と呟きが漏れた。
「セドリック様?」
事情の分からないリーナが名を呼ぶと、彼から覚えのある雰囲気を彼女は感じ取る。
(あっ・・・ちょっとイヤな予感が・・)
「この玉のせいだったのか。今日、君の姿を見たら、気持ちを素直に伝えないと一生後悔する気がしたんだ。そしてそうする事しかできなかった」
「それじゃあ、いつものセドリック様ではなかったのは、これのせい?」
「そんなに違ったか?」
「はい。それはもう・・いつもは強引にキスするし、身体に触るし、すごく俺様拗らせてるのに、今日は大事にしてくれて・・・それに“俺”はダメです。いつもは“私”と言うのに、今日に限って“俺”。そういうのに、弱いんです。もう別人のようなので、私のように転生されたのかと思いました」
リーナの告白に「へえ、リーナは“俺”に弱いのか・・」と、セドリックは微笑む。
「あっ!それより、さっき伝えてくれたあの言葉も態度も本来のセドリック様ですよね?そう信じていいんですよね?」
珍しく照れた表情を見せるセドリックにリーナは、笑みをこぼす。そんな彼女に照れ隠しのようにセドリックは不敵に言った。
「さっきの俺と強引な私。君はどっちがいい?」
「そんなこと分かりません!」
そう言って、頬を染めるリーナへと近付くグリーンの瞳。思わず「強引なのはイヤ」と呟いたリーナにセドリックは、どこまでも優しい声で答える。
「無理強いはしないと、約束しただろう。キスだけだ・・・」
セドリックの唇は、彼の言葉どおり優しく彼女の唇を塞いだのだった。
突然の王子登場に男は「はいぃっ!!」と逃げていった。
リーナが、後ろから聞こえた声に振り向くより先に手を引かれ、すぐ近くの部屋へ連れ込まれる。扉を乱暴に閉めたセドリックは、今度は後ろではなく前からギュッとリーナを抱きしめた。
「大丈夫だったか?」
耳元で囁かれた言葉に「はい、ありがとうございます」とお礼のセリフだけがこぼれる。それを聞いたセドリックは「よかった」と安堵のため息を漏らした。
そしてリーナは、彼の腕の力が強くなった気がした。痛いくらいに強くて、少し苦しい。でもなぜか嫌じゃなくて、むしろその腕の中にいたいと思えた。
「愛してるんだ。俺の側にいてくれ」
耳元で聞こえる切羽詰まったような声音に、リーナは何も言えなくなってしまう。
(だから“俺”とか反則だってば・・そんなに直球で言われたら、私、認めるしかないじゃない)
しかしリーナの口から、降参するセリフは出てこない。
しばらくして、ようやく離された腕は、そのまま顎へと移動して上を向かされる。目の前には、真剣な顔でこちらを見つめるセドリックがいた。
そしてリーナは、真っ直ぐに向けられる彼の瞳の色が違うことに気付く。ほんの僅かだが、違うと彼女は確信していた。
(何で瞳の色が変わったんだろう。さっき変わった気がしたのは、気の所為じゃなかった)
「リーナ・・答えてくれないのか?」
(あっ・・瞳の色とか気にしてる場合じゃなかった。あれ、そもそも何で逃げてるんだったかしら?・・・彼の思いどおりになるのが嫌で、調教とか言われて弄ばれてるみたいで悔しくて・・でもそれは謝ってくれたし、もう逃げる理由がない・・・?最初は神様の余計なお世話だったとしても、ずっと私だけを好きでいてくれるし、どうせ逃げられないし・・妃になる覚悟は、どうだろう。でもこの人となら・・・・)
リーナは、先程まで感じていた困惑がゆっくりと霧が晴れるように消えていくことに気付く。代わりに胸の奥から湧き上がる暖かい感情を認めた。
「降参です。セドリック様・・貴方が望む限り、私は貴方の隣に立つことを誓います」
リーナは、ようやく素直に自分の気持ちを言葉にした。それを聞いたセドリックは破顔すると、再びギュッと抱きしめた。
(これが本当の彼・・前のも嫌じゃなかったけど、ちょっとホッとするな)
リーナは、そっと広い背中に腕を回した。
「熱い・・」
やっとまとまった雰囲気を壊すリーナのセリフが聞こえ、慌てて身体を離した彼女は、ドレスの胸元に手を入れると、何かを取り出す。
彼女の手にあったのは、冬馬から貰ったあの魔力の玉だ。ギョッとしたセドリックから「どこに入れてるんだ」と言われたリーナは、あっけらかんと答える。
「あら、だって二度も私を助けてくれたお守りみたいな物でしょう。だから最後の一つは、肌身離さず持ち歩いていたんです。でもあいにく、ドレスにポケットはないので仕方なくここへ入れました」
しかし玉が熱を持ったということは、力を使いその役目を終えたということだ。
リーナは「これは何から私を守ってくれたんでしょうか」と、疑問を口にしセドリックを見る。すると彼の瞳の色が、リーナのよく知っているグリーンに戻っていくのに気付いた。
そしてセドリックから「・・ようやく元に・・・」と呟きが漏れた。
「セドリック様?」
事情の分からないリーナが名を呼ぶと、彼から覚えのある雰囲気を彼女は感じ取る。
(あっ・・・ちょっとイヤな予感が・・)
「この玉のせいだったのか。今日、君の姿を見たら、気持ちを素直に伝えないと一生後悔する気がしたんだ。そしてそうする事しかできなかった」
「それじゃあ、いつものセドリック様ではなかったのは、これのせい?」
「そんなに違ったか?」
「はい。それはもう・・いつもは強引にキスするし、身体に触るし、すごく俺様拗らせてるのに、今日は大事にしてくれて・・・それに“俺”はダメです。いつもは“私”と言うのに、今日に限って“俺”。そういうのに、弱いんです。もう別人のようなので、私のように転生されたのかと思いました」
リーナの告白に「へえ、リーナは“俺”に弱いのか・・」と、セドリックは微笑む。
「あっ!それより、さっき伝えてくれたあの言葉も態度も本来のセドリック様ですよね?そう信じていいんですよね?」
珍しく照れた表情を見せるセドリックにリーナは、笑みをこぼす。そんな彼女に照れ隠しのようにセドリックは不敵に言った。
「さっきの俺と強引な私。君はどっちがいい?」
「そんなこと分かりません!」
そう言って、頬を染めるリーナへと近付くグリーンの瞳。思わず「強引なのはイヤ」と呟いたリーナにセドリックは、どこまでも優しい声で答える。
「無理強いはしないと、約束しただろう。キスだけだ・・・」
セドリックの唇は、彼の言葉どおり優しく彼女の唇を塞いだのだった。
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