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第3章
第179話 リリス14歳 必罰1
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「よって、僕たちはそれ相応の罰を君に与えなければならない」
アルバスの言葉にハッと顔を上げたディファナ。彼の言葉は彼女の心を乱し、その瞳から色を消し、顔には動揺の色を映した。そして次の瞬間、彼女の美しい顔は歪み、先程までとは打って変わって強い口調で言った。
「魔法使い崩れが何を偉そうに・・・私は知ってるのよ。お前がシュトリーマを追われた理由をね。お前は王家の権力争いに巻き込まれて、弟子に裏切られた。地位も名誉もあって国内随一と言われた魔法使いが仲間に裏切られた挙げ句、今は学校の先生・・・惨めなもんね」
リリスたちは明かされたアルバスの過去にお互いに顔を見合わせ、動揺していた。しかし、そんなディファナの挑発に動じないアルバスは、変わらず落ち着いた様子で話す。
「それがどうした?地位?名誉?そんなものは儚いものだ。その代わり、今の僕には友人が、かわいい生徒が沢山いる。それだけで十分。それに、そういう君には何がある?」
「それはっ・・・・」
唇を固く噛み締め、答えられないディファナ。一時の勢いは消え、背中を丸めて小さく縮こまる身体。ディファナの完敗だった。黙ったディファナを一瞥し、アルバスはサラマンデルに話しかける。
「サラマンデルは、彼女に何か言うことはあるかい?」
今までのやり取りを何も言わずに見ていたサラマンデルは、アルバスの質問に少し考える仕草を見せたが、首を横に振ると言った。
「・・いや・・・私にはない。二度と彼女がこのような馬鹿なことをしなければ、結構だ」
この答えに大きく頷くアルバス。この時、頭に一つの疑問が浮かんだリリスは、素直に尋ねた。
「そう言えば、私に聞こえてきた歌や助けを呼ぶ声は、サラマンデル様だったんですか?」
「あぁ、特に特定の誰かに助けを求めたわけではなかったが、彼女の仕業なのか君に声が届いたようだな」
そう言いながら、サラマンデルはチラッとディファナに視線を向けた。ディファナは、憔悴した様子で蹲っていた。
そしてアルバスは、ヘンリーたちにも抗議する機会を与えた。アルバスの申し出に顔を見合わせた彼らだったが、皆、首を横に振ると、一様に断った。「みんなが無事だったから、今更何も言うことはありません」と口を揃えて言った。
「さて・・僕の生徒たちは、寛大な心の持ち主のようだが、このまま何もしないわけにはいかない。さっきも言ったように、ディファナ、君には罰を与える。アルミーダもそのつもりだろう?」
「ああ、そうしないと他の魔女たちが、黙ってないだろうよ」
(えっ!?魔女って、一体何人いるの?)
「ということなので、君たちにもディファナに与える罰を考えてもらいたい。いいね?これは彼女の為でもあるんだ」
アルバスによって、リリスたちに課された難題。それは他人に与える罰なんて考えたこともないリリスたちの頭を大いに悩ませた。そして各々思案している中、リリスがアルミーダに尋ねた。
「あのー、過去に罰せられた魔女はいるんですか?」
「ああ、三人いた。一人は魔女の資格を剥奪されて行方知れずになった。もう一人は舌を抜かれた上に魔力量を減らされた・・・残りの一人はなんだったかねぇ・・・・ 忘れちまったよ・・もう600年近くそんな馬鹿な奴はいなかったからね」
「ひぃっ・・・」
「舌を抜かれる・・」
「・・思ったより重い罰ですね」
アリーナたちが恐怖に顔を歪ませれば、それを見たアルミーダは楽しそうに笑みを漏らす何とも対照的な光景だ。
「そうかい?罰せられた奴らはそれだけの事を仕出かしたんだよ。同情する気なんか欠片もないね」
「そもそも魔女の罰を人間の私たちが考えてもいいんですか?魔女は魔女同士の方が・・」
「構わないね。大体お前さんたちは、当事者であり一方的被害者だ。それに今回のコイツの裁判を他の魔女に任せたら、おそらくお前さんたちが与える罰より重くなるよ。これはコイツへのあたしとアルバスの慈悲なんだよ」
アルミーダのセリフを聞いたヘンリーたちが心を決め、次々と思いつく罰を挙げていく。国外追放、ムチ打ち、50年間奉仕活動等など。しかし、そのどれもアルミーダは首を横に振り、鼻で笑った。
「どれもダメだね。コイツにはもっと灸を据えないと・・・」
「それじゃあ、アルミーダさんならどういう罰を与えるんですか?」
アリーナに問われたアルミーダは、鞄の中にあったツボを手に取り「このツボに閉じ込めるのも悪くないね」と笑みを浮かべ言った。それを聞いたリリスたちは「それだけ?」と口々に呟いたが、アルバスだけは「まさかそんな物まで持ってきていたとは」と眉間を押さえている。
「あんた達は分かってないねぇ。これは”封印のツボ”と呼ばれているんだ。これに封印されたが最期。この中は毒瘴が充満していて、それが封印された奴の器官や毛穴、ありとあらゆる穴から入り込み、神経に始まり脳まで侵すんだ。終いには自ら””死を選ぶほどの苦痛が襲うんだよ。それも永遠にね。クックッ・・・」
アルミーダの言葉とは裏腹な楽しそうな様子に、リリスたちは身体をブルッと震わせる。ディファナは球体の中でガクガクと身体を異常に震わせ、その荒い呼吸と真っ青な顔色から恐怖が滲み出ていた。
”アルミーダさんだけは絶対に怒らせちゃいけない”と、皆が心に刻んだ瞬間だった。更にアルミーダは罰を挙げていく。
「後は・・そうさねぇ・・・決して元に戻せない醜い姿に変えてやるのもいいねぇ。コイツは常に自分の容姿を気にするところがあるから、据える灸にはもってこいだ。
暗い山奥の洞窟に封印するのも悪くないか。もちろん魔法は使えなくした上でだよ。恐ろしい魔物がウジャウジャいる洞窟だ。苦痛と殺される恐怖に死ぬまで怯えるんだ・・・どうだい?悪くないだろう?」
(本気だわ・・アルミーダさん、マジでディファナを殺るつもりよ・・)
リリスがアルミーダの恐ろしい一面に触れ、カラカラになった喉で唾をのんだその時、森の中にディファナの幼子のような声が響き渡った。
「ごめんなさぁい・・・もう悪いことしないから、許してぇぇ」
アルバスの言葉にハッと顔を上げたディファナ。彼の言葉は彼女の心を乱し、その瞳から色を消し、顔には動揺の色を映した。そして次の瞬間、彼女の美しい顔は歪み、先程までとは打って変わって強い口調で言った。
「魔法使い崩れが何を偉そうに・・・私は知ってるのよ。お前がシュトリーマを追われた理由をね。お前は王家の権力争いに巻き込まれて、弟子に裏切られた。地位も名誉もあって国内随一と言われた魔法使いが仲間に裏切られた挙げ句、今は学校の先生・・・惨めなもんね」
リリスたちは明かされたアルバスの過去にお互いに顔を見合わせ、動揺していた。しかし、そんなディファナの挑発に動じないアルバスは、変わらず落ち着いた様子で話す。
「それがどうした?地位?名誉?そんなものは儚いものだ。その代わり、今の僕には友人が、かわいい生徒が沢山いる。それだけで十分。それに、そういう君には何がある?」
「それはっ・・・・」
唇を固く噛み締め、答えられないディファナ。一時の勢いは消え、背中を丸めて小さく縮こまる身体。ディファナの完敗だった。黙ったディファナを一瞥し、アルバスはサラマンデルに話しかける。
「サラマンデルは、彼女に何か言うことはあるかい?」
今までのやり取りを何も言わずに見ていたサラマンデルは、アルバスの質問に少し考える仕草を見せたが、首を横に振ると言った。
「・・いや・・・私にはない。二度と彼女がこのような馬鹿なことをしなければ、結構だ」
この答えに大きく頷くアルバス。この時、頭に一つの疑問が浮かんだリリスは、素直に尋ねた。
「そう言えば、私に聞こえてきた歌や助けを呼ぶ声は、サラマンデル様だったんですか?」
「あぁ、特に特定の誰かに助けを求めたわけではなかったが、彼女の仕業なのか君に声が届いたようだな」
そう言いながら、サラマンデルはチラッとディファナに視線を向けた。ディファナは、憔悴した様子で蹲っていた。
そしてアルバスは、ヘンリーたちにも抗議する機会を与えた。アルバスの申し出に顔を見合わせた彼らだったが、皆、首を横に振ると、一様に断った。「みんなが無事だったから、今更何も言うことはありません」と口を揃えて言った。
「さて・・僕の生徒たちは、寛大な心の持ち主のようだが、このまま何もしないわけにはいかない。さっきも言ったように、ディファナ、君には罰を与える。アルミーダもそのつもりだろう?」
「ああ、そうしないと他の魔女たちが、黙ってないだろうよ」
(えっ!?魔女って、一体何人いるの?)
「ということなので、君たちにもディファナに与える罰を考えてもらいたい。いいね?これは彼女の為でもあるんだ」
アルバスによって、リリスたちに課された難題。それは他人に与える罰なんて考えたこともないリリスたちの頭を大いに悩ませた。そして各々思案している中、リリスがアルミーダに尋ねた。
「あのー、過去に罰せられた魔女はいるんですか?」
「ああ、三人いた。一人は魔女の資格を剥奪されて行方知れずになった。もう一人は舌を抜かれた上に魔力量を減らされた・・・残りの一人はなんだったかねぇ・・・・ 忘れちまったよ・・もう600年近くそんな馬鹿な奴はいなかったからね」
「ひぃっ・・・」
「舌を抜かれる・・」
「・・思ったより重い罰ですね」
アリーナたちが恐怖に顔を歪ませれば、それを見たアルミーダは楽しそうに笑みを漏らす何とも対照的な光景だ。
「そうかい?罰せられた奴らはそれだけの事を仕出かしたんだよ。同情する気なんか欠片もないね」
「そもそも魔女の罰を人間の私たちが考えてもいいんですか?魔女は魔女同士の方が・・」
「構わないね。大体お前さんたちは、当事者であり一方的被害者だ。それに今回のコイツの裁判を他の魔女に任せたら、おそらくお前さんたちが与える罰より重くなるよ。これはコイツへのあたしとアルバスの慈悲なんだよ」
アルミーダのセリフを聞いたヘンリーたちが心を決め、次々と思いつく罰を挙げていく。国外追放、ムチ打ち、50年間奉仕活動等など。しかし、そのどれもアルミーダは首を横に振り、鼻で笑った。
「どれもダメだね。コイツにはもっと灸を据えないと・・・」
「それじゃあ、アルミーダさんならどういう罰を与えるんですか?」
アリーナに問われたアルミーダは、鞄の中にあったツボを手に取り「このツボに閉じ込めるのも悪くないね」と笑みを浮かべ言った。それを聞いたリリスたちは「それだけ?」と口々に呟いたが、アルバスだけは「まさかそんな物まで持ってきていたとは」と眉間を押さえている。
「あんた達は分かってないねぇ。これは”封印のツボ”と呼ばれているんだ。これに封印されたが最期。この中は毒瘴が充満していて、それが封印された奴の器官や毛穴、ありとあらゆる穴から入り込み、神経に始まり脳まで侵すんだ。終いには自ら””死を選ぶほどの苦痛が襲うんだよ。それも永遠にね。クックッ・・・」
アルミーダの言葉とは裏腹な楽しそうな様子に、リリスたちは身体をブルッと震わせる。ディファナは球体の中でガクガクと身体を異常に震わせ、その荒い呼吸と真っ青な顔色から恐怖が滲み出ていた。
”アルミーダさんだけは絶対に怒らせちゃいけない”と、皆が心に刻んだ瞬間だった。更にアルミーダは罰を挙げていく。
「後は・・そうさねぇ・・・決して元に戻せない醜い姿に変えてやるのもいいねぇ。コイツは常に自分の容姿を気にするところがあるから、据える灸にはもってこいだ。
暗い山奥の洞窟に封印するのも悪くないか。もちろん魔法は使えなくした上でだよ。恐ろしい魔物がウジャウジャいる洞窟だ。苦痛と殺される恐怖に死ぬまで怯えるんだ・・・どうだい?悪くないだろう?」
(本気だわ・・アルミーダさん、マジでディファナを殺るつもりよ・・)
リリスがアルミーダの恐ろしい一面に触れ、カラカラになった喉で唾をのんだその時、森の中にディファナの幼子のような声が響き渡った。
「ごめんなさぁい・・・もう悪いことしないから、許してぇぇ」
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