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第3章

第171話 リリス14歳 巡り会う運命1

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リリスは、目の前の到底信じられない光景に吐き気を覚えた。そして体中に怒りがフツフツと湧き上がり、それはやがて沸点を超え、リリスは我を忘れた。

「・・許さない・・・・許さない・・・許さない!」

リリスはそう叫ぶと、その怒りに染まった瞳で憎むべき魔女の姿を真っ直ぐに捉えた。ディファナはニタニタと嫌な笑みを浮かべ、楽しそうにリリスを見ている。闇に染まる森の中で、魔女の赤い唇が際立っていた。それがまたリリスの怒りを増幅させた。

「ドラマンデールッ!」

リリスがそう言い放つと、何もない地面から炎が湧いてきた。それは徐々に大きく、そして高くなり、やがてドラゴンへと姿を変えた。現れた炎のドラゴンの姿にディファナは「ほぉ・・」と口にすると、また不敵な笑みを浮かべた。その余裕な様子にリリスは憎々しげな表情で睨みつける。

「あなたの敵はあの魔女よっ!やってしまいなさいっ!」

リリスの言葉を合図にドラゴンは天を仰ぎ、雄叫びをあげた。

グオォゥァアー

それは周囲の空気を震わせ、森の木々をもざわめかせた。そしてドラゴンは長い尻尾をディファナへ振り下ろし、間髪入れずに炎を吐いた。その巨体からは想像できない程、動きは早かった。ディファナはドラゴンの攻撃を華麗なステップで躱し、地面をトンッと軽く蹴ると、空中へ飛んだ。リリスたちの頭上でその身体が浮いている。ドラゴンは再び炎を吐くと、ディファナは避けることなくそれを全身で受けた。ドラゴンの炎は途切れることなく魔女を襲う。その炎は渦を巻き、やがて巨大な龍へと変化した。

「あはははっ!いい気味!私の大事な人たちを巻き込んだ報いを受けなさい!」

そう吐き捨てたリリスの様子は、尋常ではなかった。ディファナを襲う炎の龍。魔女のいた場所を執拗に締め上げる。その間もドラゴンは炎を吐き続けた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『・・ス・・・リス・・・バー・・・』

『リリス・・リリス・アルバート・・・』

『リリス・・・気付いて・・お願い・・・私を見て・・』

自身の名を呼ぶ声に辺りを見回すリリス。その瞳に一つの光が映る。すると、その光は一人の少女へと変化した。

「あっ、貴女・・」

『やっと気が付いたね。”はじめまして”って、挨拶であってるかな・・・』

「夢の・・前世・・・」

『そう・・私はあなたの前世。あの魔女の言ってた通りなんだ。びっくりしたよね』

そう語るのは、リリスが夢で会った見知らぬ世界の少女だった。ディファナの言っていたリリスの前世の少女である。

『私が貴女の中に僅かでも生き続けちゃったから、貴女に色々と苦労をさせちゃったみたいなんだよね。ごめんなさい』

まだ頭の中が整理しきれないリリスは、前世の自分の謝罪に戸惑いを隠さなかった。

「いや・・えっと・・・」

その様子に苦笑する少女。頭をかきながら、照れくさそうに話を続けた。

『あー・・・混乱してるみたいだし、まず自己紹介からしようかな。私の名前は仙道ミズキ。”ミズキ”って呼んでくれたら嬉しい。日本という国で生きてたのよ。
私のいた世界はこの世界のように魔法とか聖獣、魔女なんてなかった。かわりに文明は発達してたんだ。この世界の乗り物は馬や馬車が当たり前だけど、私の世界では車とか電車、飛行機があったの。あっ、要するに金属の大きな乗り物が馬より早く走ったり、飛んだりしてたってこと。あとは・・そうだな・・・遠く離れたところにいる人とこんな小さなものでお喋りできたり・・携帯電話って言うんだけどね。とにかくすごく世の中が発達してたってこと。ここまでの話は理解できた?』

ミズキはそう尋ねると、リリスは戸惑いながらもう頷いた。

「貴女がすごい世界で生きていたことは分かったわ」

『そっか、よしよし。それじゃあ、話を続けるね。そんな世界で生きていた私の人生は18歳の夏に突然終わったの』

そう言ったミズキは、悲しい色に染まった笑顔を見せた。その笑顔にリリスは涙が溢れそうになった。
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