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第3章
第161話 リリス14歳 窮途末路3
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「こっちへ近付いてくる。誰だろう。助けかな。それとも敵?」
「分からない。とにかく隠れて様子を見よう」
大木の陰に息を殺して身を潜めるスタイラスたち。右手はいつでも魔法を発動できるようにしていたが、握りしめる左手はジットリと汗をかいている。夜の闇の中で耳に聞こえるお互いの息づかいだけが、自分がひとりではないことを、心強い味方がいることを教えてくれた。
段々と大きくなる明かり。スタイラスはゴクリと喉を鳴らし、横で眠るリリスをチラッと見た。その時、声が聞こえた。その声はスタイラスたちが待ちわびた人のものだった。
「リリィ・・リリィどこ?」
「ヘンリー?こっちだ」
「その声はスタイラスか?どこだ?暗くて見えないんだ」
「そのまま真っ直ぐだ」
「はぁぁぁ・・・ヘンリー様?・・良かったぁ・・」
暗くて表情は見えないが、アシュリーの安堵した声に場の空気が緩む。スタイラスは目を凝らしてヘンリーのやって来る方を見ている。やがてゆっくりと近付く足音と共に明かりに照らされたヘンリーの顔が現れた。
「やっと見つけた・・君もアシュリーも無事みたいだね。怪我もなさそうだし、よかった・・・」
明かりで二人の無事を確認しホッとした表情のヘンリーは、大木にもたれかかり眠るリリスに気が付くと、慌ててしゃがみ込んだ。傍らに明かりを置き、リリスの肩を軽く揺さぶる。
「リリィ・・リリィ・・・」
「あっ、ヘンリー様、彼女は眠ってるだけなので、心配ありません」
アシュリーのセリフに上を見上げたヘンリーは「眠ってる?」と聞き返した。
「はい。その・・・様子がおかしくなったので、少し眠ってもらいました。すみません」
「様子が?・・・あぁ、またか・・いや、手間を掛けさせてすまなかったね。リリィを守ってくれたんだろう?ありがとう」
アシュリーの説明に察したヘンリーはお礼と謝罪もそこそこにリリスへ視線を戻す。眠る彼女の頬を優しく手で包むと、森の空気で冷やされた冷たさが手のひらを伝わってくる。ほんの僅かな時間、愛しいリリスの存在を確認したヘンリーは手を下ろし、スタイラスたちに向くと尋ねた。
「いったい何があったんだ?」
スタイラスとアシュリーは、ここまでの経緯を話した。話を聞いている間、彼は何度も頷いていた。そして、すべて聞き終えると小さなため息をつき言った。
「なるほどね。あれほど森には近付くなと叱ったのに、リリィには効かなかったみたいだな。でも彼女たちを遠ざけたのは正解だな」
ヘンリーの言葉にスタイラスとアシュリーは首を傾げた。「それはどういう意味?」と尋ねるアシュリーにヘンリーは、リリスが見た夢の話をした。すべて話すとアシュリーたちは驚き、顔を見合わせた。
「だからリリス嬢はここへ来ることを躊躇ったのか」
「まあ、確かにそんな夢を見たばかりじゃ仕方ないよ。顔色も随分悪かったし・・・」
三人は眠るリリスの顔を見る。まだ彼女は夢の中だ。ふとあることに気が付いたスタイラスが質問した。
「そう言えば、ヘンリーは僕たちがここに居ることがよく分かったね。あの広場から必死に逃げたから、自分でもどこに居るのか分からないのに」
「ああ、それね」
すこしバツの悪そうなヘンリーは頭をポリポリとかくと、言葉を続けた。
「実はリリィの着けてるネックレスに魔法をかけてあるんだ」
「分からない。とにかく隠れて様子を見よう」
大木の陰に息を殺して身を潜めるスタイラスたち。右手はいつでも魔法を発動できるようにしていたが、握りしめる左手はジットリと汗をかいている。夜の闇の中で耳に聞こえるお互いの息づかいだけが、自分がひとりではないことを、心強い味方がいることを教えてくれた。
段々と大きくなる明かり。スタイラスはゴクリと喉を鳴らし、横で眠るリリスをチラッと見た。その時、声が聞こえた。その声はスタイラスたちが待ちわびた人のものだった。
「リリィ・・リリィどこ?」
「ヘンリー?こっちだ」
「その声はスタイラスか?どこだ?暗くて見えないんだ」
「そのまま真っ直ぐだ」
「はぁぁぁ・・・ヘンリー様?・・良かったぁ・・」
暗くて表情は見えないが、アシュリーの安堵した声に場の空気が緩む。スタイラスは目を凝らしてヘンリーのやって来る方を見ている。やがてゆっくりと近付く足音と共に明かりに照らされたヘンリーの顔が現れた。
「やっと見つけた・・君もアシュリーも無事みたいだね。怪我もなさそうだし、よかった・・・」
明かりで二人の無事を確認しホッとした表情のヘンリーは、大木にもたれかかり眠るリリスに気が付くと、慌ててしゃがみ込んだ。傍らに明かりを置き、リリスの肩を軽く揺さぶる。
「リリィ・・リリィ・・・」
「あっ、ヘンリー様、彼女は眠ってるだけなので、心配ありません」
アシュリーのセリフに上を見上げたヘンリーは「眠ってる?」と聞き返した。
「はい。その・・・様子がおかしくなったので、少し眠ってもらいました。すみません」
「様子が?・・・あぁ、またか・・いや、手間を掛けさせてすまなかったね。リリィを守ってくれたんだろう?ありがとう」
アシュリーの説明に察したヘンリーはお礼と謝罪もそこそこにリリスへ視線を戻す。眠る彼女の頬を優しく手で包むと、森の空気で冷やされた冷たさが手のひらを伝わってくる。ほんの僅かな時間、愛しいリリスの存在を確認したヘンリーは手を下ろし、スタイラスたちに向くと尋ねた。
「いったい何があったんだ?」
スタイラスとアシュリーは、ここまでの経緯を話した。話を聞いている間、彼は何度も頷いていた。そして、すべて聞き終えると小さなため息をつき言った。
「なるほどね。あれほど森には近付くなと叱ったのに、リリィには効かなかったみたいだな。でも彼女たちを遠ざけたのは正解だな」
ヘンリーの言葉にスタイラスとアシュリーは首を傾げた。「それはどういう意味?」と尋ねるアシュリーにヘンリーは、リリスが見た夢の話をした。すべて話すとアシュリーたちは驚き、顔を見合わせた。
「だからリリス嬢はここへ来ることを躊躇ったのか」
「まあ、確かにそんな夢を見たばかりじゃ仕方ないよ。顔色も随分悪かったし・・・」
三人は眠るリリスの顔を見る。まだ彼女は夢の中だ。ふとあることに気が付いたスタイラスが質問した。
「そう言えば、ヘンリーは僕たちがここに居ることがよく分かったね。あの広場から必死に逃げたから、自分でもどこに居るのか分からないのに」
「ああ、それね」
すこしバツの悪そうなヘンリーは頭をポリポリとかくと、言葉を続けた。
「実はリリィの着けてるネックレスに魔法をかけてあるんだ」
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