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第3章
第155話 リリス14歳 追跡2
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皆も立ち止まり、スタイラスを振り返る。
「どうしたんだ?」
アシュリーの問にスタイラスは「ネージュが・・」とひとこと言うと、ある方向を指差した。皆がその方向へ目を向けると、スタイラスの言葉の通りネージュの姿がそこにはあった。行き交う人を華麗な足取りでするりと避けながら、足早に街を歩いていた。
「あらっ、出くわすなんて珍しいわね」
呑気な声でアリーナは言った。しかしリリスはネージュの様子が少しおかしいことに気付いた。いつも優雅に歩くネージュとは違いその早い足取りは、なんというか焦っているようだった。
「でも何だか様子が変よ。少し焦ってるように見えるわ」
「言われてみれば・・・」
「ああ、確かにそう見えるな」
リリスの言葉にアシュリーとスタイラスが頷いた。そしてエリーゼだけは首を傾げていた。そんな彼女の様子に気付いたスタイラスが言う。
「あー、そう言えばエリーゼ嬢はまだ知らないんだよ」
その言葉にリリスたちは顔を見合わせ、「「あっ」」と目を見開いた。
スタイラスの言葉の通りエリーゼはまだ聖獣であるネージュやメイルの存在を知らないし、今も姿を認識できなかった。昨年の騒動の際は、彼女はまだ婚約したばかりで相手との関係で悩んでいたこともあり、皆黙っていたのだ。
その事にやっと気付いたリリスたちは困惑の表情を浮かべている。エリーゼだけは「なに?」と不思議そうな顔をしていた。
「あの・・・えっと・・何から話したらいいのか・・」
「話すと長いんだけど、その・・・」
そうこうしてる間にネージュの姿は人混みへと消えようとしていた。
「とにかく追いかけよう」
「えっ、アルさんの店は?」
スタイラスの声にアリーナが聞いた。
「店はまた今度だね。それよりネージュの様子が気になる。リリス嬢もそうだろう?」
スタイラスに聞かれたリリスは「うん」と頷くと、拳を握りしめる。その間も目線はネージュからそらさない。そしてネージュの姿が視界から消えた瞬間、リリスは一歩踏み出した。それはネージュの消えた方向へと、次第に早くなる。リリスの行動にアリーナとスタイラスも続く。ひとり戸惑うエリーゼにアシュリーが声をかけた。
「後で全部説明するから。とにかく行こう」
覚悟決めたエリーゼは一度頷くと、後に続いた。
急いでネージュの後を追ったリリスたちだったが、その姿を見失った。夕刻に近い時刻。街は人出の多い時間だった。皆、足を止めずにキョロキョロと見回す。すると少し先の角を曲がるネージュの姿をアリーナがとらえた。
「あっ、あそこにいた!」
その声に皆の足取りは更に早くなる。そして角を曲がると、今度はネージュの姿をはっきりと確認することができた。相変わらずその足は止まることなく、足早に動いていた。
やがて一行がやってきたのは、王都の門だった。リリスは嫌な予感がした。この門を出て先へ進むと、あの西の森があるのだ。
「あっ、外へ出たわ」
「まさか外へ何の用だ?」
「とにかく行って見ましょう」
この先へも行く気満々な皆にリリスは立ち止まると、待ったをかけた。
「待って!」
その声に振り返ったアリーナたち。その顔には疑問の色が浮かんでいる。
「リリス、どうしたの?追いかけないと、見失っちゃうよ」
「ダメよ。この先はダメ」
困惑の表情を浮かべるアリーナたちは顔を見合わせた。リリスの顔色はさっきまでとは違い、朝のように悪くなっていた。
「ダメって、どうして?顔色も悪いし、具合が悪い?」
「・・・ネージュの行き先は分かってるの」
「それなら行こうよ」
「ダメ。だからこそ行けないの」
要領を得ないリリスにアリーナたちは、戸惑った。エリーゼだけは黙って、このやり取りを見ている。
(どうしよう。ネージュは絶対に森へ向かったんだ。森には行かないってヘンリーと約束したのに。でもあの様子のネージュを放っておけないし、アリーナとエリーゼを連れてはいけない。もしあの夢が現実になったら・・ダメ。どうにかして二人を遠ざけないと・・・・)
フル回転させたリリスの頭の中に一つの案が浮かんだ。リリスは、すぐさまその考えを提案した。
「アリーナ、エリーゼ、お願いがあるの。すぐにヘンリーとアルバス先生を呼びに行ってちょうだい。ヘンリーが事情を全部知ってるから」
「えっ?リリスたちは?」
「三人でネージュの後を追うわ」
「えー、私も行きたい。こんな面白そうな機会逃す手はないわよ」
元来、好奇心旺盛なアリーナは簡単には引き下がらない。しかし決して譲れないリリスの口から思わず強い言葉が出た。
「ダメだって言ってるでしょっ!」
その口調に驚くアリーナたち。ハッとしたリリスが慌てて謝った。
「・・・ごめんなさい。怒るつもりじゃなくて、どうしても貴女たちに呼びに行ってほしいの。お願い・・・理由は後でちゃんと話すから・・」
アリーナとエリーゼはお互い視線を合わせ頷くと「分かった」言った。
「リリスがそう言うってことは、理由があるのは分かるもの。ヘンリー様に事情を話せば、どこに行けばいいのか分かるんでしょ。任せといて」
アリーナはそう言うと振り返り歩き出した。エリーゼも踵を返すと、ヘンリーとアルバスを呼びに行った。
そして残されたリリス、スタイラス、アシュリーはすぐさま門の外へと歩みを進めた。
「どうしたんだ?」
アシュリーの問にスタイラスは「ネージュが・・」とひとこと言うと、ある方向を指差した。皆がその方向へ目を向けると、スタイラスの言葉の通りネージュの姿がそこにはあった。行き交う人を華麗な足取りでするりと避けながら、足早に街を歩いていた。
「あらっ、出くわすなんて珍しいわね」
呑気な声でアリーナは言った。しかしリリスはネージュの様子が少しおかしいことに気付いた。いつも優雅に歩くネージュとは違いその早い足取りは、なんというか焦っているようだった。
「でも何だか様子が変よ。少し焦ってるように見えるわ」
「言われてみれば・・・」
「ああ、確かにそう見えるな」
リリスの言葉にアシュリーとスタイラスが頷いた。そしてエリーゼだけは首を傾げていた。そんな彼女の様子に気付いたスタイラスが言う。
「あー、そう言えばエリーゼ嬢はまだ知らないんだよ」
その言葉にリリスたちは顔を見合わせ、「「あっ」」と目を見開いた。
スタイラスの言葉の通りエリーゼはまだ聖獣であるネージュやメイルの存在を知らないし、今も姿を認識できなかった。昨年の騒動の際は、彼女はまだ婚約したばかりで相手との関係で悩んでいたこともあり、皆黙っていたのだ。
その事にやっと気付いたリリスたちは困惑の表情を浮かべている。エリーゼだけは「なに?」と不思議そうな顔をしていた。
「あの・・・えっと・・何から話したらいいのか・・」
「話すと長いんだけど、その・・・」
そうこうしてる間にネージュの姿は人混みへと消えようとしていた。
「とにかく追いかけよう」
「えっ、アルさんの店は?」
スタイラスの声にアリーナが聞いた。
「店はまた今度だね。それよりネージュの様子が気になる。リリス嬢もそうだろう?」
スタイラスに聞かれたリリスは「うん」と頷くと、拳を握りしめる。その間も目線はネージュからそらさない。そしてネージュの姿が視界から消えた瞬間、リリスは一歩踏み出した。それはネージュの消えた方向へと、次第に早くなる。リリスの行動にアリーナとスタイラスも続く。ひとり戸惑うエリーゼにアシュリーが声をかけた。
「後で全部説明するから。とにかく行こう」
覚悟決めたエリーゼは一度頷くと、後に続いた。
急いでネージュの後を追ったリリスたちだったが、その姿を見失った。夕刻に近い時刻。街は人出の多い時間だった。皆、足を止めずにキョロキョロと見回す。すると少し先の角を曲がるネージュの姿をアリーナがとらえた。
「あっ、あそこにいた!」
その声に皆の足取りは更に早くなる。そして角を曲がると、今度はネージュの姿をはっきりと確認することができた。相変わらずその足は止まることなく、足早に動いていた。
やがて一行がやってきたのは、王都の門だった。リリスは嫌な予感がした。この門を出て先へ進むと、あの西の森があるのだ。
「あっ、外へ出たわ」
「まさか外へ何の用だ?」
「とにかく行って見ましょう」
この先へも行く気満々な皆にリリスは立ち止まると、待ったをかけた。
「待って!」
その声に振り返ったアリーナたち。その顔には疑問の色が浮かんでいる。
「リリス、どうしたの?追いかけないと、見失っちゃうよ」
「ダメよ。この先はダメ」
困惑の表情を浮かべるアリーナたちは顔を見合わせた。リリスの顔色はさっきまでとは違い、朝のように悪くなっていた。
「ダメって、どうして?顔色も悪いし、具合が悪い?」
「・・・ネージュの行き先は分かってるの」
「それなら行こうよ」
「ダメ。だからこそ行けないの」
要領を得ないリリスにアリーナたちは、戸惑った。エリーゼだけは黙って、このやり取りを見ている。
(どうしよう。ネージュは絶対に森へ向かったんだ。森には行かないってヘンリーと約束したのに。でもあの様子のネージュを放っておけないし、アリーナとエリーゼを連れてはいけない。もしあの夢が現実になったら・・ダメ。どうにかして二人を遠ざけないと・・・・)
フル回転させたリリスの頭の中に一つの案が浮かんだ。リリスは、すぐさまその考えを提案した。
「アリーナ、エリーゼ、お願いがあるの。すぐにヘンリーとアルバス先生を呼びに行ってちょうだい。ヘンリーが事情を全部知ってるから」
「えっ?リリスたちは?」
「三人でネージュの後を追うわ」
「えー、私も行きたい。こんな面白そうな機会逃す手はないわよ」
元来、好奇心旺盛なアリーナは簡単には引き下がらない。しかし決して譲れないリリスの口から思わず強い言葉が出た。
「ダメだって言ってるでしょっ!」
その口調に驚くアリーナたち。ハッとしたリリスが慌てて謝った。
「・・・ごめんなさい。怒るつもりじゃなくて、どうしても貴女たちに呼びに行ってほしいの。お願い・・・理由は後でちゃんと話すから・・」
アリーナとエリーゼはお互い視線を合わせ頷くと「分かった」言った。
「リリスがそう言うってことは、理由があるのは分かるもの。ヘンリー様に事情を話せば、どこに行けばいいのか分かるんでしょ。任せといて」
アリーナはそう言うと振り返り歩き出した。エリーゼも踵を返すと、ヘンリーとアルバスを呼びに行った。
そして残されたリリス、スタイラス、アシュリーはすぐさま門の外へと歩みを進めた。
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