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第3章

第149話 リリス14歳 変貌4

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森の外まで戻ってきたリリスたちは馬車に乗り込んだ。そしてアルバスを街の中で降ろした。

「本当に店まで送らなくていいんですか?」

「ああ、店はすぐそこだ。君たちも早く帰りなさい」

そう言ってアルバスはアルミーダの店の方へと歩き出した。その背中に「よろしくお願いします」とヘンリーが声をかけると、それにアルバスは片手を上げて応えた。
再び馬車は動き出し、アルバート家へと向かう。馬車の中ではヘンリーがリリスの手をしっかりと握っていた。

「もうさっきは本当にどうしようかと思ったよ。全力で追いかけたのに、追いつけないし。先生が止めてくれなかったら、どうなっていたか」

「ごめんなさい・・でも本当に覚えてないの。本当にどうしちゃったのか・・・何か夢遊病みたいな・・・寝てないから違うわね。あっ・・重い病気とか?ほら例えば脳の病気みたいなことは・・・」

「リリィ、怖いこと言わないでおくれよ。健康診断では何も問題はなかったんだろう?」

「あっ、確かにそうね」

学園で毎年行われる健康診断では身長など身体的成長はもちろん体内をスキャンして病気の恐れはないかを診る。これを僅かな時間で行うのだから、魔法というのは便利なものだ。

「それより原因が分からないんだから、気を付けないとな。と言っても、どう気を付けていいのか・・・本当は僕がずっと一緒にいて、守れたらいいのに」

そう口にしたヘンリーは握っていた手を離すと、リリスをそっと腕の中に仕舞い込んだ。リリスもヘンリーの背中へ腕を回す。そして彼の手がリリス長く艷やかな髪を優しく撫でた。その時「あっ」とリリスが小さな声をあげた。ヘンリーは身体を離すと聞いた。

「どうしたの?」

「ネージュのことがお父様に知られたことを先生に言わなかったわ。それにあの金の獣のことも」

「・・・・」

ヘンリーは口を開いて何かを言いかけたが、すぐに口を閉じた。しかしまた口を開き、今度は少し呆れた様子で言った。

「・・リリィ、君って・・・いや・・そうだね、忘れてた。明日で大丈夫だよ」

そう言ったヘンリーが何かを思い出しクスッと笑った。

「えっ、なに?何がおかしいの?」

「うん?いやぁ、我儘を言う君も可愛かったなぁと思ってね」

ヘンリーの言葉にリリスは一瞬で顔を赤くし、口を尖らせる。

「えー、やだぁ、やめてよぉ。本人が覚えてないことを思い出し笑いなんて、イジワルよ・・」

「クックッ・・・リリィの我儘なら、いくらでも聞いてしまいそうだよ」

笑いが止まらない彼の様子にリリスは頬を膨らませ、プイッとそっぽを向く。慌ててヘンリーはリリスの頬に手を当て、自分の方へと彼女の顔を向けた。そして膨らんだ頬を軽く押した。潰された頬にジト目でヘンリーを見るリリスは「イジワル」と繰り返した。
ヘンリーはおでこを彼女のそれと合わせると「ごめん。君の言うとおりちょっと意地が悪かったね」と謝った。その言葉に「・・・よい。我は許すぞ」と冗談で返すリリス。それにまたヘンリーが笑いながら言った。

「もう・・・・リリィといると退屈しないよ」

こうしていつも通り幸せオーラに包まれた馬車は、日が落ち薄暗くなった街へと消えた。
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