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第3章

第146話 リリス14歳 変貌1

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「イヤ。帰りたくない・・・」

「何を言ってるの?リリィ」

「メイルと一緒じゃないと帰りたくない。ううん、帰らないから」

ここは西の森・・・燃える木を目の前に帰らないと我儘を言うリリスに戸惑うヘンリーとアルバスの姿があった。
どうして、こうなったのか・・・

時を遡ること1時間前。
リリスとヘンリーそしてアルバスの姿は西の森にあった。三人はあの広場へ向かって森の中を歩いていた。昼休みに約束した通り学園が終わってから、揃ってやって来たのだ。

「先生、もう少しです」

一緒に歩くアルバスに声をかけたヘンリーは、手を繋いで横を歩くリリスに顔を向け「大丈夫?疲れてない?」と聞いた。それにリリスは微笑むと「全然平気だよ」と答えた。
やがて周りの木々が赤く染まりだし、更に奥へと進むと三人はあの広場へと辿り着いた。

「ほぉ・・これが・・・」

目の前に現れた炎をひと目見たアルバスが感嘆の声を漏らした。そしてゆっくりと木に近付く。彼は無言で木を見上げ、周囲をぐるっとまわり、炎に触れた。それを何度も繰り返している。リリスとヘンリーはその様子をただ見守っていた。

やがてアルバスの足が止まり、腕を組んで何やら考え事を始めた。その様子にリリスとヘンリーは顔を見合わせる。リリスが口を開きかけると、ヘンリーが唇に指を当て「しー」と声にならない言葉を発した。リリスは慌てて口を閉じる。

しばらく考え込んだアルバスは、再び木に近付くと右手を炎に突っ込み、幹に手のひらを押し当てる。そして何やらブツブツと口にし始めた。するとすぐに彼の手からぼんやりとした青い光が発せられる。その光は最初こそぼんやりと鈍く光っていたが、段々とその輝きを増し、やがて弾け飛ぶように消え去った。光が消えるとアルバスは手を離し、後ろを振り返った。そしてリリスたちに言った。

「ここにサラマンデルがいる」

「「サラマンデル!?」」

リリスとヘンリーの驚きの声が揃う。二人の反応が予想通りだったのか、クスッと笑ったアルバスが二人に近付き、同じセリフを繰り返した。

「そう、ここにサラマンデルがいる」

その時、ザァーッと強い風が吹き、リリスの漆黒の長い髪と同じくアルバスの黒い長髪とローブがはためいた。風で乱れた髪を整えるリリスの横で、ヘンリーが信じられないといった様子で聞き返した。

「サラマンデルって、あの精霊のですか?」

「そうだ。間違いないよ」

「・・あっ!思い出した。サラマンデルって、炎の精霊ですよね?」

リリスの問にアルバスが頷いた。

「そうだ。この世界には精霊が存在する。と言ってもここプロメアではその存在が語られるのは、物語の中だけで信じられてはいないね。ただシュトリーマを始めとして精霊を認めてる国は少なくない。ミレドールでは、水の精霊ウンディーネを神として崇めていると聞いたことがあるよ」

「ウンディーネが神・・・水の精霊。風の精霊シルフ。大地の精霊ノーム。そして炎の精霊サラマンデル・・その炎の精霊がここに・・・まさか本当に精霊がいたなんて・・」

ヘンリーはそう呟き、リリスも半信半疑な表情で言った。

「私も自分で予想していてなんだけど、信じられないわ。だって夢で見た・・ただこれだけでそう思っただけなんだもの・・・」

呆然としている二人にアルバスが苦笑した。

「あの"ここにいる"って、どういう意味でしょうか?閉じ込められてるのかそれとも姿を変えられてるのか」

ヘンリーの質問にアルバスが答える前にメイルがふらっと姿を現した。
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