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第3章
第117話 リリス14歳 精疲力尽
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アルミーダの店から戻ったリリスはベッドで横になっていた。顔色の悪いリリスをマリーが心配したが、誰とも話したくなかったリリスは彼女を下がらせた。
リリスはクタクタだった。体力的にではなく、精神的に疲れていた。
ディファナの手紙もそうだが、メイルが自ら出て行ったという事実のほうがショックだった。心のどこかでネージュにもメイルにも他の誰でもない自分が懐かれているという自負があった。思えばメイルが懐いていたのは自分ではなくネージュだったのに。仮にネージュがアリーナに懐いていたら、メイルはアリーナの元にいただろう。
「はぁぁぁ」
静かな部屋に大きなため息が響く。
馬車の中でヘンリーはずっと慰めてくれた。何も言わず、ただ肩の引き寄せ、寄り添っていてくれた。慰めの言葉をかけられたら、泣いてしまいそうだったリリスには、それが有り難かった。そして同時に彼に気を使わせてしまって、申し訳なかった。
(メイルは自分のものではない・・メイルが幸せならそれがいちばん・・)
リリスは、自らに何度もそう言い聞かせた。
コンコンコン
その時、扉をノックする音がした。「誰?」とベッドの上から聞くと、アーウィンの声がした。
「姉さん。今、少し時間いい?」
リリスはどうしようか迷ってすぐに返事を出来ずにいると、アーウィンが扉を開けてしまった。ゆっくりと開いた扉からアーウィンが顔を出す。
「姉さん?寝てるの?」
ベッドの上のリリスと目があったアーウィンが「あっ、起きてたなら返事してくれて・・」と入ってきたが、姉の顔色が悪いことに気付き、その言葉は最後まで続かなかった。
「顔色悪いけど、大丈夫?」
「そお?全然平気よ。ちょっと疲れて横になっていただけ」
そう言って微笑むと、アーウィンをソファーへ誘導した。リリスも向かいに座る。
「何かしら?」
アーウィンは少し話しづらそうな表情をしたが、一呼吸おいたあとに話し始めた。
「姉さんと殿下との噂は知ってるよね?」
(あー、忘れてた。もう本当に面倒ねぇ)
「噂のことね。もちろん知ってるわよ。アルバス先生にもからかわれたわ。ただ誘われて城に行ったそれだけなのに、みんな暇なのね。貴方、何か言われたの?」
「いや、僕は何も・・・」
「そう・・私も直接聞かれるわけでもなく、まわりで一方的に騒いでるみたいなのよ。態々否定するのも変だし、厄介なのよね」
「そりゃあ、みんな下手なこと聞いて、うちやヘンリー様の所を敵に回したくないからね。でも、みんな影でコソコソ話してるよ」
そう言ってアーウィンが肩をすくめた。
「殿下はなにか言ってる?・・・そうよ!殿下が否定すれば、噂を打ち消すのも簡単じゃない?殿下が誘ったんだし、責任取ってもらいましょうよ」
「いやあ、姉さん。それは難しいと思うよ。殿下はこの状況をある意味楽しんでる様子だからね」
「えっ?楽しんでる?!何それ!どこに楽しめる要素があるっていうのよ!」
「それがさぁ、姉さんが城へ行ったあの日から殿下は事あるごとに僕に聞いてくるんだよ。"今度はいつ誘おうかな"とか"放課後、姉さんは何してる?"とか・・楽しそうに笑いながら・・」
「うわぁ、マジかぁ」
「えっ?まっ・・.まじ?・・・いま何て言ったの?」
「あー、気にしないで。意味はないから」
疲れていた影響からか思わず心の声を声に出してしまったリリスは、面倒くさくなり取り繕うことすらしなかった。
時々、心に浮かぶ言葉を口にすると、まわりが不思議そうな顔をすることは珍しくなかった。最初こそワタワタと"意味はわからないが浮かんだ"とか言い訳をしていたが、そのうちリリス自身も諦め、ヘンリーをはじめまわりもいつの間にか特に聞くこともなくなった。
ただアーウィンはまだその域に達していなかった。
リリスはクタクタだった。体力的にではなく、精神的に疲れていた。
ディファナの手紙もそうだが、メイルが自ら出て行ったという事実のほうがショックだった。心のどこかでネージュにもメイルにも他の誰でもない自分が懐かれているという自負があった。思えばメイルが懐いていたのは自分ではなくネージュだったのに。仮にネージュがアリーナに懐いていたら、メイルはアリーナの元にいただろう。
「はぁぁぁ」
静かな部屋に大きなため息が響く。
馬車の中でヘンリーはずっと慰めてくれた。何も言わず、ただ肩の引き寄せ、寄り添っていてくれた。慰めの言葉をかけられたら、泣いてしまいそうだったリリスには、それが有り難かった。そして同時に彼に気を使わせてしまって、申し訳なかった。
(メイルは自分のものではない・・メイルが幸せならそれがいちばん・・)
リリスは、自らに何度もそう言い聞かせた。
コンコンコン
その時、扉をノックする音がした。「誰?」とベッドの上から聞くと、アーウィンの声がした。
「姉さん。今、少し時間いい?」
リリスはどうしようか迷ってすぐに返事を出来ずにいると、アーウィンが扉を開けてしまった。ゆっくりと開いた扉からアーウィンが顔を出す。
「姉さん?寝てるの?」
ベッドの上のリリスと目があったアーウィンが「あっ、起きてたなら返事してくれて・・」と入ってきたが、姉の顔色が悪いことに気付き、その言葉は最後まで続かなかった。
「顔色悪いけど、大丈夫?」
「そお?全然平気よ。ちょっと疲れて横になっていただけ」
そう言って微笑むと、アーウィンをソファーへ誘導した。リリスも向かいに座る。
「何かしら?」
アーウィンは少し話しづらそうな表情をしたが、一呼吸おいたあとに話し始めた。
「姉さんと殿下との噂は知ってるよね?」
(あー、忘れてた。もう本当に面倒ねぇ)
「噂のことね。もちろん知ってるわよ。アルバス先生にもからかわれたわ。ただ誘われて城に行ったそれだけなのに、みんな暇なのね。貴方、何か言われたの?」
「いや、僕は何も・・・」
「そう・・私も直接聞かれるわけでもなく、まわりで一方的に騒いでるみたいなのよ。態々否定するのも変だし、厄介なのよね」
「そりゃあ、みんな下手なこと聞いて、うちやヘンリー様の所を敵に回したくないからね。でも、みんな影でコソコソ話してるよ」
そう言ってアーウィンが肩をすくめた。
「殿下はなにか言ってる?・・・そうよ!殿下が否定すれば、噂を打ち消すのも簡単じゃない?殿下が誘ったんだし、責任取ってもらいましょうよ」
「いやあ、姉さん。それは難しいと思うよ。殿下はこの状況をある意味楽しんでる様子だからね」
「えっ?楽しんでる?!何それ!どこに楽しめる要素があるっていうのよ!」
「それがさぁ、姉さんが城へ行ったあの日から殿下は事あるごとに僕に聞いてくるんだよ。"今度はいつ誘おうかな"とか"放課後、姉さんは何してる?"とか・・楽しそうに笑いながら・・」
「うわぁ、マジかぁ」
「えっ?まっ・・.まじ?・・・いま何て言ったの?」
「あー、気にしないで。意味はないから」
疲れていた影響からか思わず心の声を声に出してしまったリリスは、面倒くさくなり取り繕うことすらしなかった。
時々、心に浮かぶ言葉を口にすると、まわりが不思議そうな顔をすることは珍しくなかった。最初こそワタワタと"意味はわからないが浮かんだ"とか言い訳をしていたが、そのうちリリス自身も諦め、ヘンリーをはじめまわりもいつの間にか特に聞くこともなくなった。
ただアーウィンはまだその域に達していなかった。
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