上 下
80 / 202
第2章

第72話 リリス13歳 失くし物は何ですか?

しおりを挟む
その数日後・・・

「あれ?・・・ない」

アリーナが呟き、鞄の中を確認している。リリスがどうしたのか聞くと、鞄に入れたはずのノートが失くなったと言った。

「屋敷に忘れてきたってことは、ないの?」

「そんな筈は・・確かに朝、鞄に入れたのよ」

とアリーナは否定した。そしてその様子に気付いたスタイラスが、近寄ってきて言った。

「そう言えば、隣のクラスで失くなった物がうちのクラスで見つかったらしいよ。なんか最近同じような事が多いんだよ」

「あっ、それ・・前にヘンリーが言ってたわ。確か夏休みに入る前よ。失くなった物が、全然別の場所から見つかるんだって言ってた」

「へぇ、そんなに前から」

「うん、生徒会でも問題になってるって言ってたから、調査してるんじゃないかな」

「それより私のノートはどこへいったのよぉ」

ちょうどその時、アリーナがアリスに声をかけられた。声のする方を見ると、アリーナとレイリーが揃っていた。
リリスに緊張が走り、体が強張る。何事もないのですっかり油断していたが、まだ何も解決してないのだ。

「アリーナ様、あの・・レイリーが話があるというので少しいいですか?」

「ええ、もちろん。何?」

するとアリスは、横の緊張した面持ちのレイリーを肘で小突いた。小突かれたレイリーは、後ろ手に持っていた物を前に差し出した。一冊のノートだった。

「あの・・このノート、アリーナ様の物ですよね?」

アリーナは差し出されたノートを手に取ると、パラパラと中を確認し「えっ、私のノートだ。どこにあったの?」とレイリーに訊ねた。するとレイリーはなぜか深々と腰を折ると、謝った。

「そのノート・・私の机に入ってました。本当にごめんなさい。あの・・決して私が盗ったわけではありません!どうか信じてください!」

「ちょっとレイリー様。そんな事しなくても、誰も疑わないからっ!」

アリーナが慌てて、レイリーに駆け寄り言った。スタイラスも「大丈夫だよ」と宥める。そうしてレイリーはやっと頭を上げた。

「ありがとうございます・・でもなぜ私の机にあったのか本当に分からなくて・・」

「最近、こういう事が多いから、気にしなくても大丈夫だよ。この間も隣のクラスの物がうちのクラスで見つかったばかりだよ」

「まあ、そんな事が・・」

驚いた様子でレイリーが言った。

「そう、それに生徒会もこの件で動いてるみたいだし・・ねっ、リリス嬢?」

いきなり話を振られたリリスは、「えっ、ええ。そうみたいね」と返すのが、精一杯だった。

(あぁ、ダメね。あの夢が怖くてレイリー様を目の前にすると、緊張しちゃって)

「そうですか。早く解決するといいですね。それでは失礼します」

レイリーはそう言うと、教室を出ていく。アリスが途中「返せて、良かったね」と言うと、レイリーは安堵したように頷いた。
そんな二人の後ろ姿をリリスはじっと見つめていた。

(あんなに素直なレイリー様を悲しませないようにしないとダメ!何も起きないからって、すっかり油断してたわ。しっかりしないと・・)

リリスは新たにそう決意すると、アリーナに言った。

「早速見つかって、良かったね」

それに対し、アリーナは「本当にね」と肩をすくめた。リリスはアリーナに微笑むと自分の席に戻る。するとスタイラスが小さな声で聞いてきた。

「やっぱり彼女を目の前にすると緊張する?」

リリスはハッとして、スタイラスを見る。そして心配そうな眼差しの彼に微笑むと、小さな声で返した。

「あらっ、分かってしまったの?ずっと何もなかったから、油断してただけ。でも、もう大丈夫よ」

リリスの返事にスタイラスは

「そうか・・大丈夫。みんな味方だから」

と言って、安心させるように微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

元妻は最強聖女 ~愛する夫に会いたい一心で生まれ変わったら、まさかの塩対応でした~

白乃いちじく
恋愛
 愛する夫との間に子供が出来た! そんな幸せの絶頂期に私は死んだ。あっけなく。 その私を哀れんで……いや、違う、よくも一人勝手に死にやがったなと、恨み骨髄の戦女神様の助けを借り、死ぬ思いで(死んでたけど)生まれ変わったのに、最愛の夫から、もう愛してないって言われてしまった。  必死こいて生まれ変わった私、馬鹿?  聖女候補なんかに選ばれて、いそいそと元夫がいる場所まで来たけれど、もういいや……。そう思ったけど、ここにいると、お腹いっぱいご飯が食べられるから、できるだけ長居しよう。そう思って居座っていたら、今度は救世主様に祭り上げられました。知らないよ、もう。 ***第14回恋愛小説大賞にエントリーしております。応援していただけると嬉しいです***

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

嫌われ者の悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

深月カナメ
恋愛
婚約者のオルフレット殿下とメアリスさんが 抱き合う姿を目撃して倒れた後から。 私ことロレッテは殿下の心の声が聞こえる様になりました。 のんびり更新。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...