上 下
65 / 202
第2章

第58.5話 幕間 ヘンリー視点2

しおりを挟む
放課後、彼女がアルバス先生と会うと言うので、僕はその前にどうしても会わなくてはならない男がいた。スタイラス・マリアセレンだ。あの男も同席するらしいから、その前に打ち合わせをしたかった。全ては彼女を守るため。あの男より先に彼女の憂いを取り去るため。
そして、あの男と会った。

「僕もこの後同席させてもらうよ」

僕がそう告げると、この男は「良かった。ヘンリー様が居ればリリス嬢も心強い」と苦笑した。何か言葉とは裏腹な苦笑にモヤッとするが、まあいい。
「あっ、それからこれを・・」と言ってこの男が差し出してきたのは、あのキャンディーだった。どうやら彼女から貰ったらしい。貰ったなら何故すぐ試さなかったのか疑問に思ったが、このキャンディーが解決の糸口になるかもしれない。僕たちはタイミングを見て、これを出すことに決めた。
しかし、話してみると中々いい男だった。頭はキレるし、彼女の友人という立場も弁えてる。流石は四大公爵家嫡男。最初こそは彼女に横恋慕するんじゃないかとヤキモキしたが、彼女を守るという運命共同体となると頼もしい限りだった。
僕は思わず「僕の事はヘンリーと呼んでくれ」と口にしてしまった。すると彼も「それじゃあ、僕のことはスタイラスと」と言った。こうして僕たちは、"リリス死守"という旗の下、タッグを組んだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ここは魔法資料室。いま僕達はアルバス先生に相談していた。
夢を見ること。そしてその夢は彼女が友人をイジメること。
"そんなことは彼女に限ってあり得ない"
僕はそう叫びたかったが、黙って彼女を見守るしかなかった。先生が夢を見るようになったキッカケに心当たりがあるのか聞いてきた。それに彼女は答える。

「それは多分キャンディーだと思います。王都のお店で貰ったキャンディーです。それを食べてから眠ると、楽しい夢を見られると言われました。ヘンリー様は言葉通り良い夢をみましたが、私はさっき言った通りの夢を見てしまいまして・・」

(ここだな。あのキャンディーを出すタイミング・・)

僕はスタイラスに視線を送り、出すよう促した。先生は受け取ったキャンディーをじーっと見つめて考えている。

(普通のキャンディーに見えるけどな。やっぱり何かあるんだろうか。実際、僕はリリィとの楽しい夢を見られたし。あのリリィも可愛かったなぁ)

そんなの僕の思考を先生の思いがけない言葉が遮った。

「これには魔力が込められてる。本当に僅かな魔力がね」

(魔力だと?・・)

僕はその後、先生が言った言葉に更に驚かされた。

「ただ君は属性判定の時も最初の授業の時も魔力が不安定だったね。最近は安定してるみたいだけど、もしかしたらそれが関係してるかもしれない」

彼女の魔力が不安定だった?!魔力が不安定だと魔法が暴発してしまうこともある。まさか授業で何かあったのか?彼女は何も言ってなかった・・・これは後で彼女に確認しなくてはいけないね。

その後、先生が頼りになりそうな友人を紹介してくれると知って、一安心した。しかし提案された日は、生憎あのキャンディー屋を訪れると決めていた日だ。先生の方を優先すべきか迷ったが、二人に無言で確認すると、予定は変えないようだった。
学園に入学してから、彼女の周囲で色んなことが起こっている気がする。単純に人との関わりが増えたことが、原因だろうか。何にしても、僕のやることは変わらない。ただ、愛しい婚約者を守るだけだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


翌朝、昨日半ば強引にとりつけた約束通り、僕は彼女と一緒に学園に向かっていた。

(朝からリリィの笑顔に会えるなんて最高だなぁ。これから行きも帰りもこの笑顔のリリィと一緒に居られるなんて、夢じゃないよな)

僕は浮かれていた。目の前の彼女をただただニコニコ見つめていた。傍から見たら、ヤバい奴かもしれない。でもそんな事どうでも良かった。こんなに彼女の姿を瞳に映して良いのは、婚約者である僕だけの特権だ。

馬車が学園まであと半分ほどに差し掛かった頃、僕は昨日から彼女に確かめようと決めていた事を聞いた。

「ところでリリィ、属性判定や授業のとき何かあったの?」

彼女は僕の満面の笑みに顔を引き攣らせ
「そんなに大したことはなかったよ」と言いながら、目が泳がせていた。こういう時の彼女は誤魔化すことが恐ろしく下手だ。
僕は追求の手を緩めなかった。ここで見逃して彼女の身になにかあったら、僕は後悔してもしきれないのが分かっているから。

「リリィ?大したことないはずないでしょ?昨日、アルバス先生が魔力が不安とか言ってたよねぇ」

彼女はいよいよ観念したのか渋々話し始めた。

「いやぁ、それが属性判定で魔法陣が人よりちょっと光って、初めの授業で少し体が熱くなっただけだよぉ」

(へぇ、人より"ちょっと"光った?!体が"少し"熱くなった?!)

これは絶対に過小評価してるね。これは彼女と同じ属性のスタイラスに確認しないとね。
覚悟してなよ、リリィ・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

処理中です...