52 / 202
第2章
第50話 リリス13歳 潜入してみた2
しおりを挟む
「それはそうと、リリス嬢は悩みがあるの?」
スタイラスの意表を突いた問に「へっ?」とリリスは貴族の令嬢らしからぬ素っ頓狂な声をあげてしまった。
「あのお婆さんが言ってたよね。君の悩みを解決できるかもって」
沈黙が二人の間に流れる。スタイラスはリリスの考えが纏まるのじっと待っていた。
(どうしよう。悩みと言えばあれよねぇ。やっぱりここは誤魔化す?・・・・いや、でも今日も心配してついて来てくれたし・・・うぅぅ・・・よし、もう話しちゃおっ。あとは野となれ山となれよ)
意を決したリリスは口を開いた。
「えっと、最近悪夢を見るの。前にあの店に行った時、さっきのお婆さんからキャンディーを貰ったのよ。楽しい夢を見られるって言われて。それで試してみたんだけど、全然楽しくない最悪な夢だったのよ」
リリスは大雑把に話した。まさか自分が友達をイジメる夢なんて口が裂けても言えなかった。それでも今までの彼女からは、とても勇気のいることだった。
リリスは根掘り葉掘り聞かれることに身構えていたが、スタイラスは「そうか・・」とひとこと口にしただけだった。
しばらく考えていたスタイラスは、徐に小さく頷くと、リリスの全く想像してなかった人物の名前を出してひとつ提案をしてきた。
「アルバス先生に相談してみないか?」
「アルバス先生?って、あのアルバス先生?」
「そう。エリーゼ嬢の話だと、先生は優秀な魔法使いのようだしね。あの手の女性の噂は侮れないと思うんだよね、僕は。それに大人の見解も聞いてみたほうがいいだろう?」
(あー、あの噂話ね。なんだっけ?シュトリーマ王国で王族の側近だった?・・まあ、噂話の真意はともかく、もう一人に話すのも二人に話すのも一緒よね)
「分かった。相談してみる」
リリスが承諾したことに、スタイラスはホッとした表情を見せ、さらに提案を続けてきた。
「それともうひとつ。悪夢のことをヘンリー様に話したかい?」
リリスは首を横に振り、否定した。
「それならヘンリー様にも話したほうがいい。リリス嬢は心配かけたくなくて、言ってないんだよね?でも、それはきっと違うんだよ・・・・僕が彼の立場なら、君が話してくれないことのほうがショックだし、一緒に悩みたい。そして、できる事ならその憂いを僕の手で取り除いてあげたいと思うよ」
「でも・・・・・ううん、そうね。貴方の言う通りかも」
「そうだよ。男ってのは、好きな人のことは何でも知りたいと思うものなんだよ」
「そっか・・・分かったわ。私ったらスタイラス様に頼りっぱなしね。本当にありがとう」
リリスの感謝の言葉にスタイラスは、微笑みを返した。するとスタイラスはなにか思い出したように「あっ」と呟くと、鞄の中から包みを出し、「はいっ」とリリスへ差し出す。リリスは首を傾けながら受け取ると「ほら、せっかく人気の店に行ったのに手ぶらっていうのもね」とスタイラスはニッコリ微笑んだ。
(知らぬ間にお土産買ってるとか、どんだけできる子なの!私なんてキャンディー見てる時、お腹が空いてお腹が鳴ったらどうしようなんてことしか考えてなかったのに、恥ずかしすぎじゃない?!)
「開けてもいい?」
「どうぞ」
「わあ、かわいい!美味しそう!」
包みを開くと、星型の一口サイズキャンディーがこぼれ落ちそうなほど出てきた。リリスは友人の気持ちが嬉しくて「ありがとう!」と満面の笑顔でお礼を言った。
そしてリリスも鞄の中から何かを手に取り、スタイラスの手に落とした。スタイラスの手の中には、なな色のキャンディーが一粒あった。
「これは?」
「さっき私が話した楽しい夢が見られるキャンディーよ。あのお婆さんは"夢見のキャンディー"と呼んでたわ。生憎、私はいい夢じゃなかったけど、ヘンリー様は楽しい夢を見られたようだから、きっとスタイラス様もいい夢が見られるわ。今日のお礼だと思って、受け取って。ねっ」
そう、なないろのそれはお婆さんから貰った夢見のキャンディーだった。朝、屋敷を出るときに、キャンディーが引き出しの中に一粒残っていたのを思い出し、鞄に入れてきたのだった。
「それは楽しみだな。ありがとう」とスタイラスは言うと、視線を小窓から見える外の景色に移した。リリスも視線を目の前の彼から小窓へ移す。
そうして視線が逸したリリスは、スタイラスの顔に出た寂しそうな一瞬の表情に気付かないのだった。
スタイラスの意表を突いた問に「へっ?」とリリスは貴族の令嬢らしからぬ素っ頓狂な声をあげてしまった。
「あのお婆さんが言ってたよね。君の悩みを解決できるかもって」
沈黙が二人の間に流れる。スタイラスはリリスの考えが纏まるのじっと待っていた。
(どうしよう。悩みと言えばあれよねぇ。やっぱりここは誤魔化す?・・・・いや、でも今日も心配してついて来てくれたし・・・うぅぅ・・・よし、もう話しちゃおっ。あとは野となれ山となれよ)
意を決したリリスは口を開いた。
「えっと、最近悪夢を見るの。前にあの店に行った時、さっきのお婆さんからキャンディーを貰ったのよ。楽しい夢を見られるって言われて。それで試してみたんだけど、全然楽しくない最悪な夢だったのよ」
リリスは大雑把に話した。まさか自分が友達をイジメる夢なんて口が裂けても言えなかった。それでも今までの彼女からは、とても勇気のいることだった。
リリスは根掘り葉掘り聞かれることに身構えていたが、スタイラスは「そうか・・」とひとこと口にしただけだった。
しばらく考えていたスタイラスは、徐に小さく頷くと、リリスの全く想像してなかった人物の名前を出してひとつ提案をしてきた。
「アルバス先生に相談してみないか?」
「アルバス先生?って、あのアルバス先生?」
「そう。エリーゼ嬢の話だと、先生は優秀な魔法使いのようだしね。あの手の女性の噂は侮れないと思うんだよね、僕は。それに大人の見解も聞いてみたほうがいいだろう?」
(あー、あの噂話ね。なんだっけ?シュトリーマ王国で王族の側近だった?・・まあ、噂話の真意はともかく、もう一人に話すのも二人に話すのも一緒よね)
「分かった。相談してみる」
リリスが承諾したことに、スタイラスはホッとした表情を見せ、さらに提案を続けてきた。
「それともうひとつ。悪夢のことをヘンリー様に話したかい?」
リリスは首を横に振り、否定した。
「それならヘンリー様にも話したほうがいい。リリス嬢は心配かけたくなくて、言ってないんだよね?でも、それはきっと違うんだよ・・・・僕が彼の立場なら、君が話してくれないことのほうがショックだし、一緒に悩みたい。そして、できる事ならその憂いを僕の手で取り除いてあげたいと思うよ」
「でも・・・・・ううん、そうね。貴方の言う通りかも」
「そうだよ。男ってのは、好きな人のことは何でも知りたいと思うものなんだよ」
「そっか・・・分かったわ。私ったらスタイラス様に頼りっぱなしね。本当にありがとう」
リリスの感謝の言葉にスタイラスは、微笑みを返した。するとスタイラスはなにか思い出したように「あっ」と呟くと、鞄の中から包みを出し、「はいっ」とリリスへ差し出す。リリスは首を傾けながら受け取ると「ほら、せっかく人気の店に行ったのに手ぶらっていうのもね」とスタイラスはニッコリ微笑んだ。
(知らぬ間にお土産買ってるとか、どんだけできる子なの!私なんてキャンディー見てる時、お腹が空いてお腹が鳴ったらどうしようなんてことしか考えてなかったのに、恥ずかしすぎじゃない?!)
「開けてもいい?」
「どうぞ」
「わあ、かわいい!美味しそう!」
包みを開くと、星型の一口サイズキャンディーがこぼれ落ちそうなほど出てきた。リリスは友人の気持ちが嬉しくて「ありがとう!」と満面の笑顔でお礼を言った。
そしてリリスも鞄の中から何かを手に取り、スタイラスの手に落とした。スタイラスの手の中には、なな色のキャンディーが一粒あった。
「これは?」
「さっき私が話した楽しい夢が見られるキャンディーよ。あのお婆さんは"夢見のキャンディー"と呼んでたわ。生憎、私はいい夢じゃなかったけど、ヘンリー様は楽しい夢を見られたようだから、きっとスタイラス様もいい夢が見られるわ。今日のお礼だと思って、受け取って。ねっ」
そう、なないろのそれはお婆さんから貰った夢見のキャンディーだった。朝、屋敷を出るときに、キャンディーが引き出しの中に一粒残っていたのを思い出し、鞄に入れてきたのだった。
「それは楽しみだな。ありがとう」とスタイラスは言うと、視線を小窓から見える外の景色に移した。リリスも視線を目の前の彼から小窓へ移す。
そうして視線が逸したリリスは、スタイラスの顔に出た寂しそうな一瞬の表情に気付かないのだった。
0
お気に入りに追加
582
あなたにおすすめの小説
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
元妻は最強聖女 ~愛する夫に会いたい一心で生まれ変わったら、まさかの塩対応でした~
白乃いちじく
恋愛
愛する夫との間に子供が出来た! そんな幸せの絶頂期に私は死んだ。あっけなく。
その私を哀れんで……いや、違う、よくも一人勝手に死にやがったなと、恨み骨髄の戦女神様の助けを借り、死ぬ思いで(死んでたけど)生まれ変わったのに、最愛の夫から、もう愛してないって言われてしまった。
必死こいて生まれ変わった私、馬鹿?
聖女候補なんかに選ばれて、いそいそと元夫がいる場所まで来たけれど、もういいや……。そう思ったけど、ここにいると、お腹いっぱいご飯が食べられるから、できるだけ長居しよう。そう思って居座っていたら、今度は救世主様に祭り上げられました。知らないよ、もう。
***第14回恋愛小説大賞にエントリーしております。応援していただけると嬉しいです***
悪役令嬢ってこれでよかったかしら?
砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。
場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。
全11部 完結しました。
サクッと読める悪役令嬢(役)。
嫌われ者の悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。
深月カナメ
恋愛
婚約者のオルフレット殿下とメアリスさんが
抱き合う姿を目撃して倒れた後から。
私ことロレッテは殿下の心の声が聞こえる様になりました。
のんびり更新。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる