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第2章

第50話 リリス13歳 潜入してみた2

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「それはそうと、リリス嬢は悩みがあるの?」

スタイラスの意表を突いた問に「へっ?」とリリスは貴族の令嬢らしからぬ素っ頓狂な声をあげてしまった。

「あのお婆さんが言ってたよね。君の悩みを解決できるかもって」

沈黙が二人の間に流れる。スタイラスはリリスの考えが纏まるのじっと待っていた。

(どうしよう。悩みと言えばあれよねぇ。やっぱりここは誤魔化す?・・・・いや、でも今日も心配してついて来てくれたし・・・うぅぅ・・・よし、もう話しちゃおっ。あとは野となれ山となれよ)

意を決したリリスは口を開いた。

「えっと、最近悪夢を見るの。前にあの店に行った時、さっきのお婆さんからキャンディーを貰ったのよ。楽しい夢を見られるって言われて。それで試してみたんだけど、全然楽しくない最悪な夢だったのよ」

リリスは大雑把に話した。まさか自分が友達をイジメる夢なんて口が裂けても言えなかった。それでも今までの彼女からは、とても勇気のいることだった。

リリスは根掘り葉掘り聞かれることに身構えていたが、スタイラスは「そうか・・」とひとこと口にしただけだった。
しばらく考えていたスタイラスは、徐に小さく頷くと、リリスの全く想像してなかった人物の名前を出してひとつ提案をしてきた。
 
「アルバス先生に相談してみないか?」

「アルバス先生?って、あのアルバス先生?」

「そう。エリーゼ嬢の話だと、先生は優秀な魔法使いのようだしね。あの手の女性の噂は侮れないと思うんだよね、僕は。それに大人の見解も聞いてみたほうがいいだろう?」

(あー、あの噂話ね。なんだっけ?シュトリーマ王国で王族の側近だった?・・まあ、噂話の真意はともかく、もう一人に話すのも二人に話すのも一緒よね)

「分かった。相談してみる」

リリスが承諾したことに、スタイラスはホッとした表情を見せ、さらに提案を続けてきた。

「それともうひとつ。悪夢のことをヘンリー様に話したかい?」

リリスは首を横に振り、否定した。

「それならヘンリー様にも話したほうがいい。リリス嬢は心配かけたくなくて、言ってないんだよね?でも、それはきっと違うんだよ・・・・僕が彼の立場なら、君が話してくれないことのほうがショックだし、一緒に悩みたい。そして、できる事ならその憂いを僕の手で取り除いてあげたいと思うよ」

「でも・・・・・ううん、そうね。貴方の言う通りかも」

「そうだよ。男ってのは、好きな人のことは何でも知りたいと思うものなんだよ」

「そっか・・・分かったわ。私ったらスタイラス様に頼りっぱなしね。本当にありがとう」

リリスの感謝の言葉にスタイラスは、微笑みを返した。するとスタイラスはなにか思い出したように「あっ」と呟くと、鞄の中から包みを出し、「はいっ」とリリスへ差し出す。リリスは首を傾けながら受け取ると「ほら、せっかく人気の店に行ったのに手ぶらっていうのもね」とスタイラスはニッコリ微笑んだ。

(知らぬ間にお土産買ってるとか、どんだけできる子なの!私なんてキャンディー見てる時、お腹が空いてお腹が鳴ったらどうしようなんてことしか考えてなかったのに、恥ずかしすぎじゃない?!)

「開けてもいい?」

「どうぞ」

「わあ、かわいい!美味しそう!」

包みを開くと、星型の一口サイズキャンディーがこぼれ落ちそうなほど出てきた。リリスは友人の気持ちが嬉しくて「ありがとう!」と満面の笑顔でお礼を言った。
そしてリリスも鞄の中から何かを手に取り、スタイラスの手に落とした。スタイラスの手の中には、なな色のキャンディーが一粒あった。

「これは?」

「さっき私が話した楽しい夢が見られるキャンディーよ。あのお婆さんは"夢見のキャンディー"と呼んでたわ。生憎、私はいい夢じゃなかったけど、ヘンリー様は楽しい夢を見られたようだから、きっとスタイラス様もいい夢が見られるわ。今日のお礼だと思って、受け取って。ねっ」

そう、なないろのそれはお婆さんから貰った夢見のキャンディーだった。朝、屋敷を出るときに、キャンディーが引き出しの中に一粒残っていたのを思い出し、鞄に入れてきたのだった。
「それは楽しみだな。ありがとう」とスタイラスは言うと、視線を小窓から見える外の景色に移した。リリスも視線を目の前の彼から小窓へ移す。
そうして視線が逸したリリスは、スタイラスの顔に出た寂しそうな一瞬の表情に気付かないのだった。
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