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第2章
第35話 リリス13 歳 甘酸っぱい時間
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「今日はお天気がよくて良かったです」
「そうだね。まさかこんな用意をしてくれているとは思わなかったな」
ヘンリーは嬉しそうに言った。
今日はヘンリーがアルバス家を訪れていた。リリスは外が思いのほか気持ちよかったので、マリーに頼んで庭にピクニックの用意をしていたのだ。そこには美味しそうなサンドイッチやスコーンなどがあった。もちろん先程、焼いていたクッキーもカゴに入っていた。
二人は敷物の上に座り、気持ちよさそうにしている。もうすぐ夏休みという季節にもかかわらず、今日は普段より涼しく風も穏やかだった。
リリスはクッキーの入ったカゴを彼にすすすめる。もちろん中身はセバージョスの焼いたものだ。
ヘンリーがそれを美味しそうに食べている傍らでリリスはモジモジと落ち着かなかった。やがてなにか悩んだ末、後ろに置いてあったカゴに手を伸ばすと中からなにやら取り出した。
「ヘンリー様、これっ・・・」
リリスはリボンがかわいらしい包みをおずおずと彼に差し出す。
「僕に?リリスからプレゼントなんて嬉しいなぁ。何かな」
ヘンリーはこれ以上ないくらいの笑顔で受け取り、嬉しそうに包みを開けた。
(あー、出しちゃった。そんなに笑顔で受け取られると、開けた時の衝・・・)
・・・・
ボロッ
ヘンリーが開けた瞬間に中のものが崩れた。
「リリス、これって」
(マシなものだけ包んだのに、また割れちゃうなんて。ヘンリー様も言葉が出ないくらいひいてる。やっぱり渡すんじゃなかった)
「わっ、私が焼いたクッキーです。ヘンリー様に食べてもらいたくて・・コックに手伝ってもらって作ったんだけど、上手くいかなくて・・その、本当は渡そうか迷ったんだけど、セバージョスがせっかく手伝ってくれたのに、渡さないのは失礼だし、それにウサギはウサギに見えないし、ハートは割れちゃうしぃぃぃ」
リリスは泣きそうな声で早口に喋りながら、クッキーすら焼けない自分が情けなくなって、涙が溢れそうになるのを瞬きをしてごまかした。
そんなリリスの様子にヘンリーは、手の中の包み丁寧に置くと、リリスとの間を詰めてすぐ側に座りなおした。
そしてリリスの手を両手で包み、愛おしそうに見つめ、そして手の甲にキスをした。
「リリスが僕のために作ってくれたんだよね。嬉しいな。だから今日リリスから甘い匂いがするんだね。すごくいい匂い」
そう言って微笑むと、さらに言葉を続ける。
「どうしよう。リリスが美味しそうなんだけど」
(美味しそう?!うんっ?私が美味しそうって言った?!どっ、どっ、どういう意味?!ヘンリー様、なんだか色気だだ漏れなんですけどぉぉ)
ヘンリーの言葉にリンゴのように顔が真っ赤になるリリス。
その反応に満足した彼はイタズラな笑みを見せ、「僕、嬉しすぎて明日死んじゃうかもしれないな。責任とってくれないとね」と言うと、リリスの頬に触れるか触れないか分からないぐらい、微かな優しいキスをした。
甘酸っぱい空気がふたりを包む。
「・・・・ほっぺにキス」
微かに呟くリリス。
ボンッ!
リリスは恥ずかしさで頭から噴火した。
そんなやりとりをしていると、リリスの
涙は引っ込んでいた。
「君に涙は似合わないからね。リリスは上手くできなかったと言ったけど、僕にはどのクッキーよりも美味しそうに見えるよ」
ヘンリーはそう言うと、彼女が焼いたクッキーを口に運んだ。美味しそうに食べる彼を見て、リリスは心から安堵した。
「そうだね。まさかこんな用意をしてくれているとは思わなかったな」
ヘンリーは嬉しそうに言った。
今日はヘンリーがアルバス家を訪れていた。リリスは外が思いのほか気持ちよかったので、マリーに頼んで庭にピクニックの用意をしていたのだ。そこには美味しそうなサンドイッチやスコーンなどがあった。もちろん先程、焼いていたクッキーもカゴに入っていた。
二人は敷物の上に座り、気持ちよさそうにしている。もうすぐ夏休みという季節にもかかわらず、今日は普段より涼しく風も穏やかだった。
リリスはクッキーの入ったカゴを彼にすすすめる。もちろん中身はセバージョスの焼いたものだ。
ヘンリーがそれを美味しそうに食べている傍らでリリスはモジモジと落ち着かなかった。やがてなにか悩んだ末、後ろに置いてあったカゴに手を伸ばすと中からなにやら取り出した。
「ヘンリー様、これっ・・・」
リリスはリボンがかわいらしい包みをおずおずと彼に差し出す。
「僕に?リリスからプレゼントなんて嬉しいなぁ。何かな」
ヘンリーはこれ以上ないくらいの笑顔で受け取り、嬉しそうに包みを開けた。
(あー、出しちゃった。そんなに笑顔で受け取られると、開けた時の衝・・・)
・・・・
ボロッ
ヘンリーが開けた瞬間に中のものが崩れた。
「リリス、これって」
(マシなものだけ包んだのに、また割れちゃうなんて。ヘンリー様も言葉が出ないくらいひいてる。やっぱり渡すんじゃなかった)
「わっ、私が焼いたクッキーです。ヘンリー様に食べてもらいたくて・・コックに手伝ってもらって作ったんだけど、上手くいかなくて・・その、本当は渡そうか迷ったんだけど、セバージョスがせっかく手伝ってくれたのに、渡さないのは失礼だし、それにウサギはウサギに見えないし、ハートは割れちゃうしぃぃぃ」
リリスは泣きそうな声で早口に喋りながら、クッキーすら焼けない自分が情けなくなって、涙が溢れそうになるのを瞬きをしてごまかした。
そんなリリスの様子にヘンリーは、手の中の包み丁寧に置くと、リリスとの間を詰めてすぐ側に座りなおした。
そしてリリスの手を両手で包み、愛おしそうに見つめ、そして手の甲にキスをした。
「リリスが僕のために作ってくれたんだよね。嬉しいな。だから今日リリスから甘い匂いがするんだね。すごくいい匂い」
そう言って微笑むと、さらに言葉を続ける。
「どうしよう。リリスが美味しそうなんだけど」
(美味しそう?!うんっ?私が美味しそうって言った?!どっ、どっ、どういう意味?!ヘンリー様、なんだか色気だだ漏れなんですけどぉぉ)
ヘンリーの言葉にリンゴのように顔が真っ赤になるリリス。
その反応に満足した彼はイタズラな笑みを見せ、「僕、嬉しすぎて明日死んじゃうかもしれないな。責任とってくれないとね」と言うと、リリスの頬に触れるか触れないか分からないぐらい、微かな優しいキスをした。
甘酸っぱい空気がふたりを包む。
「・・・・ほっぺにキス」
微かに呟くリリス。
ボンッ!
リリスは恥ずかしさで頭から噴火した。
そんなやりとりをしていると、リリスの
涙は引っ込んでいた。
「君に涙は似合わないからね。リリスは上手くできなかったと言ったけど、僕にはどのクッキーよりも美味しそうに見えるよ」
ヘンリーはそう言うと、彼女が焼いたクッキーを口に運んだ。美味しそうに食べる彼を見て、リリスは心から安堵した。
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