上 下
21 / 21

Scene21 最終話

しおりを挟む
領地には入ると、お祝いムード一色に染まっていた。それはそうだろう。自分たちの愛する子爵令嬢が、王子の婚約者になったのだから・・

馬車には、次々に花とともにお祝いの言葉が贈られる。

「やっぱりすごいな。君の人気は・・」

「人気ですか?どこの領地から殿下の婚約者が出ても同じだと思うけど?」

このシャーロットの返答にセリウスは、「当たり前じゃないよ」と言った。国内の領地がどんな現状なのか詳しく話そうかと言われたが、シャーロットは辞退した。

領地から戻ったら、大量の王子妃教育が待っているのだ。他の領地がどうとか、構っている余裕はない。アベルが手ぐすね引いて待っている姿が目に浮かぶと、シャーロットはブルッと身震いした。

そんな彼女の考えが分かるのか、セリウスはクツクツと笑いを漏らすと、シャーロットの髪を撫でる。

「大丈夫だよ。アベルが選んだ教師が気に入らなかったら、変えればいい。私に任せておけば、心配はいらないよ」

その言葉を聞いて、一瞬ホッとしたシャーロットだったが、すぐに思い直して首を振る。

「ううん、大丈夫!宰相様には“頑張る”と宣言しちゃったし、とにかく裏切らないよう頑張るわ」

彼女は、自分の意思を貫く覚悟を決めたようだ。セリウスは、彼女の髪に触れる手を頬に添えると、「無理しないでくれよ」と優しく呟いた。

その呟きにシャーロットは「大丈夫よ。私は体力だけあることを知ってるでしょう?」と笑って返す。するとセリウスからは、甘い言葉が返ってきた。

「ああ、知ってる。でも万が一君が倒れでもしたら・・・子爵が“やっぱり娘は嫁がせない”と言い出したら・・私は気が狂ってしまうよ。それ程までに、私は君を愛しているんだ。君を手放したら、私は正気ではいられないからね。もう一生、手放してあげないから覚悟しておいてくれ」

「フフッ、私も婚約破棄はもう懲りごりなの」

二人は顔を見合わせるとクスリと笑い合う。そして、セリウスが顔を近づけていくが、唇が触れる瞬間シャーロットが待ったをかけた。

「ちょっとセリウス様!ダメ!みんなが見てる!」

シャーロットの言葉通り、小窓から領民たちが馬車の中の様子をキラキラした瞳で見ている。流石に衆人環視の中、キスをする度胸はない。

「おあずけか・・」と残念がるセリウスに対し、シャーロットは内心安堵していた。ルーカスとは手も握ったことのなかった彼女にとっては、セリウスとの時間は初めてづくしで、ドキドキしっぱなしだった。

それにセリウスとの初めてのキスは、文字通りファーストキスだ。シャーロットにだって、夢見るシチュエーションというものがある。生涯に一度きりの初めては、大切にしたい。

シャーロットは、今度素直にそんな想いを打ち明けようと思った。きっとセリウスなら、自分の気持ちを大切にしてくれると思えるから・・

「仕方がない。今はここまでにしてあげるよ。その代わり屋敷についたら、たっぷり可愛がってあげるからね」

これには、シャーロットはひっくり返る寸前だった。


◇◇◇◇◇


やっとコールマン子爵邸に到着すると、使用人たちが勢ぞろいして二人を出迎えてくれた。フラワーシャワーなんてものまで用意されていて、シャーロットは目を丸くする。

「素敵!みんなありがとう!」

「喜んでくれたようで何よりです。さあ、中へどうぞ」

執事のセバスチャンに誘われて、玄関ホールに入る。これから明日までは、セリウスと二人きりのはずだった。しかし、ホールに見慣れた姿を見つけると、シャーロットとセリウスは声を揃えた。

「何でいるの?」

「何でいるんだ?」

驚くのも無理はない。そこに立っていたのは、父エルウィン、母レジーナ、兄ギルバートだったのだから・・

予定では一足先にシャーロットとセリウスがやって来て、シャーロットの家族は明日来るはずだった。それなのに今か今かと待ち受けているとは、一体どういことなのか。

そんな驚くシャーロットたちにエルウィンが口を開く。

「いやー、シャーロットのお祝いをしたくてね。明日まで待ってられないだろう」

「そうよ。私たち家族なんだから、お祝いくらいさせなさいよね」

「全くだ。兄として最大限のお祝いをするから、明日を楽しみにしてるんだよ」

我先にとそう話す家族の様子に、シャーロットは「明日?明日なにがあるの?」と聞き返す。それにギルバートが興奮した様子で答えた。

「そんなの決まってるじゃないか。領民たちも呼んで、パーティーだよ」

パーティーなど寝耳に水のシャーロットとセリウスは驚いた。

「お父様、パーティーなんてどうしたんですか?」

「殿下、城の豪華なパーティーもいいでしょうが、我が領地の心のこもったパーティーも捨てがたいですよ」

その誘いにセリウスは、「楽しみだ」と微笑んだ。

そうしてシャーロットは、セリウスの手を離れ、レジーナたちに連れ去られる。明日のドレスを選ぶそうだ。

あっという間に、エルウィンと共に取り残されたセリウスは、苦笑した。シャーロットと二人きりという当てが外れたのだから、内心ガッカリしていた。そんなセリウスの胸の内を知ってか知らずか、エルウィンが釘を刺した。

「殿下、恐れながら、娘はまだまだ子供です。それに婚約したばかりですので、あまり無理をさせたくありません。ですので、2人きりなのをいいことに、性急に事を進めないようくれぐれもお願いします」

男としての下心に図星を指され、微妙にバツの悪いセリウスは、口を尖らせ「分かってるよ」と言った。

そしてそんなセリウスの耳に楽しげなシャーロットたちの会話が届き、頬が緩む。そして、セリウスは、今夜は楽しい夜になりそうな予感がしていた。


◆◆◆◆◆


最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

次作でもお会いできましたら、嬉しい限りです。
ありがとうございました。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~

鈴宮(すずみや)
恋愛
 王族の秘書(=内侍)として城へ出仕することになった、公爵令嬢クララ。ところが内侍は、未来の妃に箔を付けるために設けられた役職だった。  おまけに、この国の王太子は未だ定まっておらず、宰相の娘であるクララは第3王子フリードの内侍兼仮の婚約者として王位継承戦へと巻き込まれていくことに。  けれど、運命の出会いを求めるクララは、政略結婚を受け入れるわけにはいかない。憧れだった宮仕えを諦めて、城から立ち去ろうと思っていたのだが。 「おまえはおまえの目的のために働けばいい」  フリードの側近、コーエンはそう言ってクララに手を差し伸べる。これはフリードが王太子の座を獲得するまでの期間限定の婚約。その間にクララは城で思う存分運命の出会いを探せば良いと言うのだ。  クララは今日も、運命の出会いと婚約破棄を目指して邁進する。

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

たとえあなたに選ばれなくても【本編完結 / 番外編更新中】

神宮寺 あおい
恋愛
人を踏みつけた者には相応の報いを。 伯爵令嬢のアリシアは半年後に結婚する予定だった。 公爵家次男の婚約者、ルーカスと両思いで一緒になれるのを楽しみにしていたのに。 ルーカスにとって腹違いの兄、ニコラオスの突然の死が全てを狂わせていく。 義母の願う血筋の継承。 ニコラオスの婚約者、フォティアからの横槍。 公爵家を継ぐ義務に縛られるルーカス。 フォティアのお腹にはニコラオスの子供が宿っており、正統なる後継者を望む義母はルーカスとアリシアの婚約を破棄させ、フォティアと婚約させようとする。 そんな中アリシアのお腹にもまた小さな命が。 アリシアとルーカスの思いとは裏腹に2人は周りの思惑に振り回されていく。 何があってもこの子を守らなければ。 大切なあなたとの未来を夢見たいのに許されない。 ならば私は去りましょう。 たとえあなたに選ばれなくても。 私は私の人生を歩んでいく。 これは普通の伯爵令嬢と訳あり公爵令息の、想いが報われるまでの物語。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 読む前にご確認いただけると助かります。 1)西洋の貴族社会をベースにした世界観ではあるものの、あくまでファンタジーです 2)作中では第一王位継承者のみ『皇太子』とし、それ以外は『王子』『王女』としています よろしくお願いいたします。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 誤字を教えてくださる方、ありがとうございます。 読み返してから投稿しているのですが、見落としていることがあるのでとても助かります。

私、悪役令嬢ですが聖女に婚約者を取られそうなので自らを殺すことにしました

蓮恭
恋愛
 私カトリーヌは、周囲が言うには所謂悪役令嬢というものらしいです。  私の実家は新興貴族で、元はただの商家でした。    私が発案し開発した独創的な商品が当たりに当たった結果、国王陛下から子爵の位を賜ったと同時に王子殿下との婚約を打診されました。  この国の第二王子であり、名誉ある王国騎士団を率いる騎士団長ダミアン様が私の婚約者です。  それなのに、先般異世界から召喚してきた聖女麻里《まり》はその立場を利用して、ダミアン様を籠絡しようとしています。  ダミアン様は私の最も愛する方。    麻里を討ち果たし、婚約者の心を自分のものにすることにします。 *初めての読み切り短編です❀.(*´◡`*)❀. 『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載中です。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

〘完〙転生侯爵令嬢は、王子の失くした心を見つけるのに必死です!

hanakuro
恋愛
狭山尚は転生した。趣味で書いていた小説の中に・・ しかも、お気に入りキャラではなく、王国を魔女の呪いから救うその協力者の侯爵令嬢に・・・ どうせならお気に入りキャラが良かったなと思う尚だったが、そのお気に入りのキャラは小説と全く違った。 しかも、そのキャラにときめいちゃってるし・・まさかの百合の扉を開けちゃった!? しかし戸惑ってる暇はない。小説どおり王国の呪いから救わないといけないのだから・・・ こうなったら、ヤケクソだぁ! 王子の失くした宝物、全部見つけてやろうじゃないの!

【短編集】どうせ捨ててしまうんでしょう?

鈴宮(すずみや)
恋愛
 ざまぁ、婚約破棄、両片思いに、癖のある短編迄、アルファポリス未掲載だった短編をまとめ、公開していきます。(2023年分) 【収録作品】 1.どうせ捨ててしまうんでしょう? 2.全力で愛を叫ばせろ! 3.あなたは私じゃありません。私はあなたじゃありません。 4.男には、やらねばならぬ時がある。 5.殿下は殿下の心のままになさってください 6.生きててよかった(......いや、死んでよかった?)。 7.いい子にしていたって、神様はちっとも助けてくれないから 【1話目あらすじ】  ウィロウ・ラジェムはオシャレや買い物が大好きな伯爵令嬢。けれど、せっかくものを新調したところで、彼女はそれをすぐに手放してしまう。いとこで侯爵令嬢のエミュリアがウィロウの真似をしてくるためだ。  先に購入したのはウィロウでも、友人たちに気づかれ、褒められるのはいつもエミュリアのほう。エミュリアの真似をしていると思われたくなくて、ウィロウは今日もゴミ捨て場へ向かう。 「けれど、君のほうが彼女よりも先にこの髪留めをつけていたじゃないか」  ウィロウがお気に入りのものを捨てているとを知った侯爵令息ゲイルは、彼女に優しく声をかける。彼はその日以降、ウィロウがものを新調するたびに、クラスメイトたちの前で彼女のことを褒めてくれるように。それに伴い、エミュリアの真似癖も徐々におさまっていく。  そんななか、学園主催の夜会に参加したウィロウ。彼女はそこでゲイルをダンスに誘うことを決心していた。  しかし、エミュリアから『ゲイルはエミュリアと婚約をする』のだと聞かされて――?

さげわたし

凛江
恋愛
サラトガ領主セドリックはランドル王国の英雄。 今回の戦でも国を守ったセドリックに、ランドル国王は褒章として自分の養女であるアメリア王女を贈る。 だが彼女には悪い噂がつきまとっていた。 実は養女とは名ばかりで、アメリア王女はランドル王の秘密の恋人なのではないかと。 そしてアメリアに飽きた王が、セドリックに下げ渡したのではないかと。 ※こちらも不定期更新です。 連載中の作品「お転婆令嬢」は更新が滞っていて申し訳ないです(>_<)。

処理中です...