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Scene15 驚きの連続です

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「なるほど、分かりました。これは風紀の乱れ。即刻対応しなくてはいけませんね」

そう言って静かに憤慨しているのは、メイド長だ。シャーロット達から髪留めとワンピースの事を聞いたのだ。

「あのメイド長、鍵を変えてもらうことはできますか?」

シャーロットの願いに思案するメイド長。するとすぐに険しい表情から微笑むと、「それは後ろにいらっしゃる方に言いなさい」と言った。

「後ろ?」とシャーロットが振り返ると、セリウスが立っていた。こちらも不機嫌そうで、宰相のアベルもいる。

「セリウス殿下!」

慌てて頭を下げるシャーロットに対し、セリウスは思いもよらないセリフを告げる。

「容疑者を連れてきた」

その言葉とともにセリウスが合図すると、背後から三人のメイドが姿を見せた。不意打ちすぎる言葉にシャーロットは「えっ!?」と顔を上げる。その表情は、狐につままれたようだ。

「私のメイドの部屋に侵入という重罪を犯した容疑者だ」

(私のメイドの部屋に侵入・・・えっと、今メイド長に話したばかりなのに、何で知ってるの?)

そんなシャーロットの思考をよんだのか、セリウスはアベルが衛兵たちの“付近で見かけた”という目撃証言から、この三人に絞ったと説明した。三人ともシャーロットが見たことない顔だ。

そしてセリウスが一人一人に何をしていたのか尋問する。その表情は、シャーロットが見たことがないほど険しい。少し怖くなり、メイド長をちらっと見ると、こちらも一段と眉間のシワが深くなっていた。

(何だか申し訳ないくらい大事になってるんだけど・・・まさか殿下だけでなく、宰相様まで出てくるなんて)

セリウスの質問に皆は当然「仕事です」と答える。シャーロットは、証拠がないと犯人を絞るのは困難だと思っていたが、セリウスは険しい表情から一転余裕の笑みを浮かべる。この場な不釣り合いなその笑顔に、シャーロットは寒気を感じた。

そして、彼の口からとんでもない言葉が出る。

「素直に話せば寛大な処分もあり得た。被害者である私のメイドは、心根が優しいからね。だがその機会を踏みにじったそんなバカでゴミな奴が、この城にいるなんて残念だよ。それでは、往生際の悪い犯人に証拠を突きつけるとしようか」

するとアベルが、見覚えのある品を皆の前に披露した。透明な羽の生えた動物の置物で、瞳には紫の石が光っている。

「「あっ!」」

シャーロットとローラが揃って驚きの声を上げた。二人が声を上げるのも無理はない。シャーロットの部屋の棚に飾ってあった置物だからだ。毎夜、移動していると直していたそれだ。

そしてセリウスは、シャーロットに部屋の鍵を渡すよう言い、鍵を手渡した。その時、気付く。置物の瞳の石と鍵の石が同じことを。

セリウスは、受け取った鍵を置物の口に差し込んだ。すると驚くことに、瞳の石から、映像が壁に映し出されたのだ。

そこに映るのは、地味な顔立ちの赤毛の女が髪留めを花瓶に入れたり、ワンピースに刃物で切りつけるものだった。

映像が終わると、部屋は更に重い空気に包まれ、皆の視線が一人のメイドに集まる。その視線の先には映像で見たばかりの地味な女がいた。肩をワナワナと震わせ、唇は真っ青だ。

「私ではありません!その女の陰謀です!私は何も知りません!」

そう叫ぶと、赤毛の女は脱兎だっとのごとく逃げ出した。しかし、扉を開けたところで、衛兵に取り押さえられる。

「離してください!!」

それでも必死に暴れて抵抗する光景に皆が呆然と眺めていると、予想外の出来事が起こった。

女から何かが飛んできたのだ。シャーロットの身体にもそれは当たり、床に落ちたそれを拾い上げると、ボタンが手の中にあった。そしてボタンから視線を上げると、信じられないことに女のブラウスの前がはだけ、肌があらわになっていた。どうやら暴れた際に、ボタンが弾け飛んだようだ。

「キャァッ!!!」

女は悲鳴を上げ、はだけたブラウスで肌を必死に隠す。その姿にシャーロットは絶句し、目を疑った。

(どういうこと!?)

肌があらわになったこともそうだが、何よりさっきまで小さかったはずの胸が、白い布から豊満な膨らみが覗いていたのだ。身体に巻かれた白い布が女の胸を押しつぶしていたことが想像できる。

(まあ!なんて見事なお胸。まるでシーラ様みたいだわ)

そしてこの場にいた男性陣の反応は様々だった。セリウスは侮蔑の視線を送り、アデルは眉一つ動かさず、衛兵たちは顔を赤くする者に忌々しげに見る者と色々だ。

「畜生っ!全部お前のせいだ!ルーカス様がやっと私のものになったと思ったのにっ!それなのに彼は、『ロッティ、ロッティ』って・・・何なのよっ!!」

それは女からシャーロットに浴びせられたセリフだった。女は髪を振り乱し、酷い姿だ。するとセリウスがシャーロットとの間に立ちはだかり、女の頬を平手打ちした。

パンッ!!とかわいた音が響き、シャーロットは息をのむ。

「黙れ!この下衆め」

セリウスの冷たい声が響いた。

「貴様のようなクズが、彼女に声をかけるな!彼女の視界に入るな!」

「ひっ・・・」

女は、セリウスの威圧感に怯えた表情を見せる。そしてセリウスが「もういい。見てられない。連れて行け」と言うと、シャーロットが我に返り、それを止めた。

「殿下、お待ち下さい。何故彼女がこんなことをしたのか、私には聞く権利があります。それに彼女の口からいまコーネリアス様の名前が出ましたよね?はっきりさせなければなりません」

その言葉にセリウスは手を上げ許可を出すと、シャーロットは女の前に歩み出た。

「あなた誰?コーネリアス様とどういう関係?彼はバーガンディ男爵家のシーラ様と婚約するはずだけど・・・」

「はっ!!何言ってるのよ。私がシーラよ!あなたの目、曇ってるんじゃないの?」

シーラと名乗った女は、床にぞんざいに座り込むと、そう吐き捨てた。
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