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Scene9 メイドの仕事が楽なんです
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シャーロットの問いに「気になる?」と、楽しげに返すセリウス。
「もちろん気になるわ。何を聞いて、私をメイドに誘ったのか。それによって、セリウス様が私に何を求めてるのか分かるでしょう?」
真面目の答えるシャーロットの言葉にセリウスは「へぇ・・仕事熱心だね」と笑う。そして、徐ろにテーブルの上のクッキーを手に取ると、無言でシャーロットの口に差し出した。顔には楽しげな笑顔を貼り付けている。
「んぐ・・・」
(何?急に?)
突然のことに驚きつつも、シャーロットは差し出されたクッキーを素直に口に入れる。サクッと小気味よい音を立てながら、飲み込んだ。
「どうだい?」
「うん・・・甘くて美味しい」
するとセリウスは、二枚三枚と次から次へとクッキーをシャーロットに食べさせていく。流石に四枚目を飲みこんだところで、口を挟むシャーロット。
「セリウス様・・クッキーくらい自分食べられるわ。これではまるで餌付け・・・さては丸々と太らせて食べるつもり?」
その冗談交じりの彼女の言葉に、セリウスはニヤリと笑うと、意味深なセリフを吐く。
「太らせるつもりはないが、食べるつもりというのは、当たってるな。いずれ必ずそうなるはずだよ」
その自信たっぷりなセリフにシャーロットは、震え上がる。
「セリウス様はイジワルね。女性に対して食べるだなんて・・・やっぱりセリウス様は獲物を狙う肉食動物、私はそれに怯える小動物ね」
プイッとそっぽを向いたシャーロットを見て、セリウスは楽しげな笑いを漏らす。
「クックッ・・イジワルな肉食動物とは心外だなぁ。君を誰よりも大切にしたいと思っているのに・・今の流れの中に君の質問の答えも隠れている」
そう口にしながらセリウスは、シャーロットの後ろでまとめたふわふわの茶色の髪を手に取り、指に絡めて遊び始める。
(私の髪は、おもちゃじゃないんだけど・・・)
自分のコンプレックスである髪を弄ばれ、少しムッとした表情を浮かべるシャーロットに気付いたセリウスは、手を離すと「君は噂どおり素直だね」と言うと、ようやく噂について話し始める。
シャーロットは自分の容姿に自信がなかったが、実はその清楚な雰囲気と可愛らしさが男性には人気だった。おまけに素直で、貴族令嬢であることを鼻にかけず、率先して領民の手伝いもする。そう社交界でシャーロットの噂が囁かれているというのだ。両親のコールマン子爵夫妻や兄ギルバートを見れば、その噂が真実であると皆疑わないそうだ。
「そんな噂が・・それなら、そんな噂ニセモノだって分かったでしょう?」
「ニセモノ?とんでもない。噂以上だと言っただろう?私はこの髪も気に入っているよ。ふわふわで触っていると、雲に触れているみたいだ。それに少しおっちょこちょいなところも、楽しめそうだし、さっきは私が差し出したクッキーを素直に食べた。普通の令嬢なら、あそこは食べないよね」
「食いしん坊みたいだわ」
赤くなり、膨らませた頬を押さえるシャーロットの手にそっと自分の手を添える。「ひゃっ」と思わず声を上げたシャーロットだが、セリウスの手を振り払うことはない。
赤い瞳にシャーロットのピンクの瞳が映り、セリウスはゆっくりと顔を近づける。こんなに近い距離で男性と顔を合わせるのは、初めてだったシャーロットは、胸を高鳴らせた。
(思えば、殿下は最初から距離が近いのよね。初対面でいきなり手を引かれて連れて行かれたし・・そういう方なのね。でもこれはメイドとの距離ではないわ)
そんなことを考えていると、セリウスは
「可愛いなぁ」と呟き、額をコツンと合わせてきた。
突然のことに驚いたシャーロットは、慌ててセリウスの手を振りほどき、立ち上がる。その顔は、真っ赤に染まっていた。
「こっ、これはメイドの職務外です!誂って、遊ばないでください!」
動揺丸出しのシャーロットを前にセリウスは「なるほどね。元婚約者とは何もなかったとみえる。ちょっと性急すぎたな」と呟くと、悪びれた様子もなく「悪かった」と謝る。
「でもいま敬語使ったよね?それならお相子だ。そうだろう?」
セリウスの言葉に、シャーロットは「あっ」と口を手で押さえると、また座りなおす。そして「え~と・・・」と困ったように眉を下げるシャーロットは、「分かった」と頷いた。そんな彼女の様子に、セリウスは破顔したのだった。
◇◇◇◇◇
その後、セリウスから夕食まで休憩をもらったシャーロットは、城内を把握するためウロウロと歩いていた。
(今のところ拍子抜けするほど、メイドとして楽な仕事しかしてないんだけど、ローラは今頃何してるのかしら・・・それにしても朝食も昼食も豪華だったわ)
何故か朝食も昼食もセリウスと二人きりだった。シャーロットが、部屋に運ばれてきた二人分の料理の給仕をし、セリウスとテーブルを共にしたのだ。
彼との食事は楽しかった。他愛もない話だが、それを面白おかしく話す彼はとても話し上手だった。シャーロットは、セリウスの話にクスリと笑ったり、相槌を打ったりと聞き役に徹していた。しかしそんな時もシャーロットの心には、セリウスに対する疑問が・・
(私みたいなメイド風情に殿下は何を考えてるんだろう・・・)
その疑問の答えが出る日がくるのか・・シャーロットは、第二王子セリウス・イグリデュールという青年の不思議な魅力に惹かれ始めていることに気づいていなかった。
そんな考えごとをしながら歩いているシャーロットの鼻を甘い香りがくすぐる。
(何の香りかしら・・知っているような気がするんだけど)
香りに誘われるまま足を進めると、庭園に出る。花の香りかとシャーロットが思った瞬間、彼女の瞳に見覚えのある人物が映った。
「嗚呼、神は私を見捨てなかった。ロッティ・・会いたかったんだ」
そう言って駆け寄ってきたのは、シャーロットの元婚約者ルーカスだった。
「もちろん気になるわ。何を聞いて、私をメイドに誘ったのか。それによって、セリウス様が私に何を求めてるのか分かるでしょう?」
真面目の答えるシャーロットの言葉にセリウスは「へぇ・・仕事熱心だね」と笑う。そして、徐ろにテーブルの上のクッキーを手に取ると、無言でシャーロットの口に差し出した。顔には楽しげな笑顔を貼り付けている。
「んぐ・・・」
(何?急に?)
突然のことに驚きつつも、シャーロットは差し出されたクッキーを素直に口に入れる。サクッと小気味よい音を立てながら、飲み込んだ。
「どうだい?」
「うん・・・甘くて美味しい」
するとセリウスは、二枚三枚と次から次へとクッキーをシャーロットに食べさせていく。流石に四枚目を飲みこんだところで、口を挟むシャーロット。
「セリウス様・・クッキーくらい自分食べられるわ。これではまるで餌付け・・・さては丸々と太らせて食べるつもり?」
その冗談交じりの彼女の言葉に、セリウスはニヤリと笑うと、意味深なセリフを吐く。
「太らせるつもりはないが、食べるつもりというのは、当たってるな。いずれ必ずそうなるはずだよ」
その自信たっぷりなセリフにシャーロットは、震え上がる。
「セリウス様はイジワルね。女性に対して食べるだなんて・・・やっぱりセリウス様は獲物を狙う肉食動物、私はそれに怯える小動物ね」
プイッとそっぽを向いたシャーロットを見て、セリウスは楽しげな笑いを漏らす。
「クックッ・・イジワルな肉食動物とは心外だなぁ。君を誰よりも大切にしたいと思っているのに・・今の流れの中に君の質問の答えも隠れている」
そう口にしながらセリウスは、シャーロットの後ろでまとめたふわふわの茶色の髪を手に取り、指に絡めて遊び始める。
(私の髪は、おもちゃじゃないんだけど・・・)
自分のコンプレックスである髪を弄ばれ、少しムッとした表情を浮かべるシャーロットに気付いたセリウスは、手を離すと「君は噂どおり素直だね」と言うと、ようやく噂について話し始める。
シャーロットは自分の容姿に自信がなかったが、実はその清楚な雰囲気と可愛らしさが男性には人気だった。おまけに素直で、貴族令嬢であることを鼻にかけず、率先して領民の手伝いもする。そう社交界でシャーロットの噂が囁かれているというのだ。両親のコールマン子爵夫妻や兄ギルバートを見れば、その噂が真実であると皆疑わないそうだ。
「そんな噂が・・それなら、そんな噂ニセモノだって分かったでしょう?」
「ニセモノ?とんでもない。噂以上だと言っただろう?私はこの髪も気に入っているよ。ふわふわで触っていると、雲に触れているみたいだ。それに少しおっちょこちょいなところも、楽しめそうだし、さっきは私が差し出したクッキーを素直に食べた。普通の令嬢なら、あそこは食べないよね」
「食いしん坊みたいだわ」
赤くなり、膨らませた頬を押さえるシャーロットの手にそっと自分の手を添える。「ひゃっ」と思わず声を上げたシャーロットだが、セリウスの手を振り払うことはない。
赤い瞳にシャーロットのピンクの瞳が映り、セリウスはゆっくりと顔を近づける。こんなに近い距離で男性と顔を合わせるのは、初めてだったシャーロットは、胸を高鳴らせた。
(思えば、殿下は最初から距離が近いのよね。初対面でいきなり手を引かれて連れて行かれたし・・そういう方なのね。でもこれはメイドとの距離ではないわ)
そんなことを考えていると、セリウスは
「可愛いなぁ」と呟き、額をコツンと合わせてきた。
突然のことに驚いたシャーロットは、慌ててセリウスの手を振りほどき、立ち上がる。その顔は、真っ赤に染まっていた。
「こっ、これはメイドの職務外です!誂って、遊ばないでください!」
動揺丸出しのシャーロットを前にセリウスは「なるほどね。元婚約者とは何もなかったとみえる。ちょっと性急すぎたな」と呟くと、悪びれた様子もなく「悪かった」と謝る。
「でもいま敬語使ったよね?それならお相子だ。そうだろう?」
セリウスの言葉に、シャーロットは「あっ」と口を手で押さえると、また座りなおす。そして「え~と・・・」と困ったように眉を下げるシャーロットは、「分かった」と頷いた。そんな彼女の様子に、セリウスは破顔したのだった。
◇◇◇◇◇
その後、セリウスから夕食まで休憩をもらったシャーロットは、城内を把握するためウロウロと歩いていた。
(今のところ拍子抜けするほど、メイドとして楽な仕事しかしてないんだけど、ローラは今頃何してるのかしら・・・それにしても朝食も昼食も豪華だったわ)
何故か朝食も昼食もセリウスと二人きりだった。シャーロットが、部屋に運ばれてきた二人分の料理の給仕をし、セリウスとテーブルを共にしたのだ。
彼との食事は楽しかった。他愛もない話だが、それを面白おかしく話す彼はとても話し上手だった。シャーロットは、セリウスの話にクスリと笑ったり、相槌を打ったりと聞き役に徹していた。しかしそんな時もシャーロットの心には、セリウスに対する疑問が・・
(私みたいなメイド風情に殿下は何を考えてるんだろう・・・)
その疑問の答えが出る日がくるのか・・シャーロットは、第二王子セリウス・イグリデュールという青年の不思議な魅力に惹かれ始めていることに気づいていなかった。
そんな考えごとをしながら歩いているシャーロットの鼻を甘い香りがくすぐる。
(何の香りかしら・・知っているような気がするんだけど)
香りに誘われるまま足を進めると、庭園に出る。花の香りかとシャーロットが思った瞬間、彼女の瞳に見覚えのある人物が映った。
「嗚呼、神は私を見捨てなかった。ロッティ・・会いたかったんだ」
そう言って駆け寄ってきたのは、シャーロットの元婚約者ルーカスだった。
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