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Scene7 下っ端がいきなり大役を

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「メイド就任おめでとう」

「ありがとうございます、殿下。これからよろしくお願いします」

「早速だが、君たちの過ごす部屋を案内するよ」

そう言ってセリウスに連れて来られたのは、彼の部屋と同じフロアの一角だった。入ると、広い部屋に豪華な家具が置かれている。天蓋付きのベッドにソファセット、化粧台などが置かれ、棚には置物が規則正しく並んでいた。中でも目を引くのは、馬に羽の生えた生き物のオブジェだ。透明なガラスのような素材でできたそれは、瞳には紫の石がはめ込まれている。

そして、ローラの部屋もこの隣に用意してあるそうだ。

「こんなに豪華なお部屋・・・やっぱりすごいですね~。王城のメイドは」

「君の場合は、特別だよ。何と言っても第二王子の担当だからね」

「第二王子・・って、セリウス殿下のお世話を私が?」

「そう。言ってなかった?私が誘ったんだ。当然だろう?」

ソファーに座り、ご機嫌な様子のセリウスにいきなり担当だと言われ、戸惑うシャーロットが尋ねる。

「・・よろしいのですか?私はメイドとしては、下っ端の下っ端でおまけにド素人です。そんな自分がいきなり殿下の担当なんて」

そんなシャーロットの様子を見たセリウスは、徐ろに立ち上がると、ローラに何やら耳打ちする。いきなり美丈夫の王子から囁かれたローラの顔は、一瞬で真っ赤に染まった。そして早口で「お嬢様、自分のお部屋が気になるので、ここで失礼します」と言葉を残して、足早に部屋から出て行った。

そして、あまりに突然の行動に呆気にとられたシャーロットの「あっ、ローラ!」と呼び止めるセリフは、パタンと閉まる扉に遮られてしまった。

部屋に二人きりになったシャーロットは、面白そうな表情を浮かべて見つめてくるセリウスに問いかけた。

「殿下、いまローラに何を言ったんですか?」

そう聞いたが、まともな答えが返ってこないことは分かっていた。

「うん?何でも明かしてしまったら、窮屈な城暮らしが楽しくないだろう?それより下っ端なんて、言わないこと。私が君を見初めたんだ。第二王子の担当は私だ!って胸を張れ」

ではなく、ではありせんか?私は殿下のお相手ではなく、ただの新人メイドなんですから・・・それに気持ち一つで、殿下の言うつまらない城暮らしも見方が変わるんですよ」

「私は窮屈と言ったんだ。つまらないとは、言ってない。それにこれからは、確実に忙しく、楽しくなるよ。君が来たからね」

そう言ってニヤリと笑うその顔は、獲物を見つけた肉食獣のようにも見える。さながら獲物の小動物は、シャーロットだ。

「あ~、もしかして新人メイドのドジっぷりを期待されてるのでしたら、お生憎様です。それなりにそつなくこなす自信はありますから」

シャーロットは、冗談交じりにそう言ったのだが、セリウスはその言葉に「へぇ~・・それは楽しみだ」笑った。

得意げな表情をするシャーロットを見て、面白いものを見るような彼は、一歩ずつゆっくりとシャーロットに向かって歩き出す。近づいてくるセリウスに後退りするシャーロットだったが、やがて壁際まで追い詰められてしまった。無駄に愛想のいい笑顔が怖い。

「君は私の担当なんだよね?」

「はい・・・」

「なら、ルールを決めよう」

「ルールですね。かしこまりました」

セリウスの手が伸びてきて、シャーロットの顎を掴む。そのまま顔を上に向かされると、彼の瞳に囚われてしまう。セリウスはシャーロットの顔を見ると、満足そうな笑みを浮かべ、こう続けた。

「私に嘘をつくな」

「はい。もちろんです!」

「それから私以外の男には近づかないこと。それから私のことは名前で呼ぶこと。敬語は禁止だ。信頼関係を早く築くために、これは絶対だ」

「あの、それってメイドに必要ですか?さすがに最後の敬語だけは、お許しいただけないでしょうか」

シャーロットがそう躊躇するが、セリウスの言葉ではなく無言の笑顔が“ダメに決まってるだろう”と語っていた。これにシャーロットは、内心ため息をつくと、「分かりまし・・・分かったわ。えっと、セリウス様」と口にした。そしてシャーロットの返事を聞いたセリウスは、嬉しそうに微笑んでみせ、顎に添えた手を離すと、扉に手を掛ける。

「仕事は明日からでいいから、今日はゆっくり休め」

そう振り返らずに言うと、セリウスの姿は扉から外に消えた。


◇◇◇◇◇


セリウスから自由時間をもらったシャーロットは、ローラを誘って城の中を歩いていた。

「お嬢様、疲れてきましたぁ」

「あら、もう疲れたの?」

「グルグルと回ってばかりで、一向にメイド長の気配すらありません。それに、まるでこの城は迷路のようです」

二人は、挨拶をしようとメイド長の元へ向かっているのだが、教えられた部屋にいない。他のメイドに聞き、居そうな場所を教えてもらい城の中を探し回るが、一向に捕まらなかった。

“さっきまで居たんですが、洗濯室へ行った”と言うから洗濯室に行ってみれば、“来てない”と言われ、また居そうな場所を聞くという、さっきからこんなやり取りばかりだった。まるでメイド長と鬼ごっこでもしてる気分である。

「挨拶は、明日でよろしいのではありませんか?」

ローラが疲れきった表情でそう尋ねるが、シャーロットは頑として譲らない。

「これからお世話になるんですもの。最初が肝心よ。それにここは王城。子爵家の頃とは違って規律も厳しいのよ、きっと。だからちゃ~んと挨拶だけは済ませておきましょうね」

シャーロットの言葉に「うぅ・・分かりました」とローラの顔の情けないこと。しかしローラが愚痴を吐いてしまうほど、ぐるぐると、迷路のような城を歩いているのだから、仕方がない。

そんな会話をしているうちに、二人は厨房へとたどり着いた。厨房からは美味しそうな匂いが漂ってきていて、二人は空腹を思い出す。

(ああ、お腹空いたな。お城の料理も美味しそうだわ)

その時シャーロットのお腹が鳴り、ローラから「お嬢様・・」と残念な眼差しを向けられてしまった。

「あっ!そう言えば、鞄の中に焼菓子があるの。夕食まで時間もあるし、少しつままない?」

「!!はい!」

「フフッ・・セバスチャンが焼いてくれたお菓子だから、美味しいわよ」

セバスチャンとは、子爵家の料理長だ。屋敷を出るシャーロットに、菓子を焼いてこっそり持たせてくれたのだ。

「料理長の料理は、最高ですからね。早速戻りましょう。お嬢様」

そう言って踵を返すローラに苦笑したシャーロットも部屋へ戻ろうとしたその時、厨房から楽しげな会話が聞こえてきた。

「クスクスッ・・見た?あの連れの疲れた顔。ざまあみろよね。たかが子爵家の小娘が偉そうにしてるからよ」

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