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第36話 いつからダンジョンゲームになった?1

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翌日、リリスたちは森の中を歩いていた。半ば強引にアーサーに連れ出されたのだ。グラムは少し気分が悪いということで、世話係に指名したダグラムと二人、屋敷で留守番させている。リリスたちがアーサーに目的地を尋ねても「分からん」の一言が返ってくるだけで、まるでミステリーツアーである。

ヘンリーによると、この森は普段から領地の人間はよく通るそうで、万が一にも迷うことはないとのことだ。楽しい夏休みに遭難などもってのほかなので、リリスたちは安心して歩いていた。

しかし、ここで不測の事態がリリスを襲う。小道から外れ奥へと進むアーサーを遅れて後を追うリリスたち。リリスの横を歩いていたヘンリーが、アーサーに呼ばれ渋々リリスの元を離れた。ヘンリーとアーサーが何やらコソコソと会話しているのを眺めているちょうどその時、リリスの身体が浮いた。浮いたというと、語弊がある。彼女の足元の地面が突然消えたのだ。リリスの身体は一瞬で下へと吸い込まれ、視界が真っ暗になる。

「きゃっ・・いったっっ・・・」

リリスは不意打ちの落下に尻餅をついた。「痛っぁ・・・何なのよ・・」と文句をたれながら見上げるが、あるのは暗闇だけだ。リリスは目の前に広がる見渡す限りの暗闇に立ち上がることを躊躇っていると、直ぐ側にフッと明かりが現れた。それに照らされたのは、フェクターとリュシェルだった。

「リュシェル様!フェクター様!」

明かりを持つフェクターが「だっ、大丈夫ですか?」とリリスを心配する。自分より王女を心配すべきじゃない?と思ったが、リリスは素直に答える。

「はい。それより一体、ここは」

そう言ってリリスが明かりに照らされた周囲を見回すと、洞窟の行き止まりのような場所に自分たちがいることが分かった。リリスたちは立ち上がり、周囲をうかがう。暗闇と静寂の中、リリスの足音だけが洞窟内に響く。

「洞窟みたいね。でも、私たちはどこから来たのかしら」

リュシェルが疑問に思うのも無理はない。落ちてきたはずの天井は、分厚い岩で覆われていたのだ。そうなると、道は一つしかない。

「・・とにかくここでジっとしてても、始まらないわ。 歩きましょうか」

つれない隣国の王女と無口な錬金術師。男性とはいえ、こういう時のフェクターの実力は未知数だ。彼なら役立つものを出してくれそうだが、リュシェルの前で力を披露させるわけにもいかない。とりあえず、リリスが率先して二人を引っ張っていく覚悟を決めた。

三人は誰も口を開くことなく、黙々と歩く。先が見えない暗闇をフェクターが持つ明かりだけが、頼りだった。無口な人と自分に冷たい人・・何となく気まずさを感じながらリリスが足を進めると、やがて分かれ道に辿り着いた。右は緩やかな上り坂、左は緩やかな下り坂。決断を迫られたリリスたちは立ち止まる。

「どちらが正解でしょうか・・」

「落ちてきたんだから、右が正解じゃないの?」

迷うリリスにリュシェルが当たり前のように答え、それにグラムも頷く。しかし、リュシェルの答えとは反対にリリスは左の道が気になる。なぜなら、そちらから僅かな風を感じたからだ。リリスはワンピースの胸元のリボンを外すと、手を伸ばしぶら下げる。すると、リボンは左から右に微妙に揺れた。

「リュシェル様、左から風を感じます。ですので、こちらへ進みませんか?」

リボンの揺れを見せられては否定できるはずもなく、リュシェルは「分かったわ」と同意を示した。再び3人の足が動き出し、フェクターを先頭にゆっくりと下っていく。暗闇に下りて行く感覚は、想像以上に恐怖心を煽った。

(どうしよう。さっきはああ言ったけど、このまま行き止まりだったら・・でもそれだったら、2人に間違ったことを素直に謝って右の道を行けばいいだけよ・・・でも・・もし天井が崩れて、戻れなくなったら?ダンジョンゲームさながらに怪物が出てきて、襲ってきたら?そうなったら、フェクター様と王女様の攻撃力は皆無だし、私がバンバン魔法撃って倒すしかないじゃーん・・・・・ダメダメ。二人を引っ張っていくんでしょ!プラス思考よ!いざとなったら、背に腹は代えられない!フェクター様にちょっとお願いして、道具でピンチ脱出するっていう手もありそうだし・・)

リリスが歩きながらそんなことを考えていると、前を歩くフェクターが「あっ」と声を漏らした。リリスが顔を覗かせ、道の先を見ると、小さな光が見える。

「外!?あれっ!外の光じゃない!?」

小さな光が眩しく見えるほど、希望という名の光が心の中の不安を隅へと押し退ける。

足早に進むと、小さかった光が徐々に大きくなり、やがて外へ通じる出口だとリリスに確信させた。出られる喜びを胸に光の中へ飛び出すと、望んだ通りリリスたちは外に出た。しかし、目に飛び込んできたのは、三方を高い岩の壁に囲まれた場所だった。そして、囲まれた広場の真ん中に渦を巻く空間が広がっていた。
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