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第29話 贈られた謎の道具
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翌日、学園でアーサーを捕まえたリリスは、昨日目撃したサリーの様子を話す。それを聞いたアーサーは、思い出すように言った。
「ああ、確か君の話では、彼女が子供たちに歌やお話をしているのを、王子が見かけて自分の気持ちを自覚するんだったな」
「はい。ただ昨日見た彼女は、子供たちにからかわれているようで、流石にあれでは不憫です。なので、殿下が見かけたことにし、彼女に伝えてほしいのです。彼女の姿に“心を打たれた”と・・そうすれば、彼女はあの馬鹿げた行動を止めるはずなので」
「ふーん・・・でも、それって嘘をつくってことだよねぇ。リリス嬢は僕に嘘をつかせるんだ」
「殿下・・その点は、お詫び申し上げます。しかし、私もあの姿を見てしまっては、引き下がれません。夏休み前、最後のお願いです」
頭を下げるリリスのお願いにアーサーは小さくため息をつくと「分かったよ」と言う。その返事を聞いたリリスは、パッと頭を上げると、嬉しそうに微笑んだ。そして「では、なるべく早めにお願いしますね」と言葉を残して立ち去ろうとする。その様子にアーサーはしてやられたことを悟り、負けじと声をかけた。
「ねえ、あれから魔石問題は解決したのかい?」
痛いところをつかれたリリスだったが、ゆっくりと振り返り、にっこりと余裕の笑顔を見せる。アーサーの申し出を断った手前、行き詰まっていることを知られたくなかったし、また意地でも頼りたくなかった。昨日フェクターに会い、魔石と使い道の分からない道具を託されたことは、黙っていることにした。
「余裕のよっちゃんですわ!それより殿下、よろしくお願いしますね」
そう言葉と笑顔を残し、リリスはアーサーの元を去った。残されたアーサーは、頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「また姫君は勝手なことを言って・・しかも“よゆうのよっちゃん”って、何だよ・・・」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夏休み前に済ませておく茶番劇の仕込みを済ませたリリスは、魔石作りに専念することにした。放課後、魔法資料室を訪れると、魔石の本を読みながら待ち人が現れるのを待った。半刻ほど経った時、扉を開け姿を見せたのは、リリスの待ち人アルバスだった。
「おや、ここ最近見かけないと思ったら、今日は懐かしい顔が見えるね」
「先生、そう言われるほど、足が遠のいていたわけではありませんが・・」
「アハハッ・・冗談だよ。それより、何か相談があって来たんだろう?」
(先生鋭い・・・)
リリスは上手くいかない魔石作りの相談に来たのだ。ヘンリーとの2回目のキス問題を解決して、心のモヤモヤを晴らすより、アルバスに相談することを選んだのだ。
「先生、魔石を簡単に作れる方法はありませんか?」
「魔石?ああ、魔法道具作りだね。魔石を簡単にか・・・それは難題だね。あれはそもそも流す魔力のコントロールもそうだけど、作り手の集中力が必要だからね。上手く作らないと、力を付与する際の妨げになるし・・・集中力を上げる方法なら、授業で教えてるよね?」
予想通りのアルバスの答えに落胆の色を隠さないリリスは「道具でもいいんです」と食い下がる。しかし、アルバスの答えは期待したものではなかった。仕方がないので、リリスは次の質問に移る。鞄からフェクターに貰った謎の道具を取り出すと、アルバスの前に置いた。
「これは?」
「ある方に頂いたのですが、何に使う物なのか分からないんです。先生なら分かるかとお見せしたんですが、どうでしょう」
目の前に置かれた道具を手に取り、まじまじと見るアルバス。リリスは、無言でその様子を見つめている。
フェクターから魔石と一緒に貰ったそれは、魔石作りに使える道具ではないかとリリスは考えていた。形はシンプルだ。トランペットの先・・いや、ロートのような形をしている。周りには不思議な文字が刻まれているが、どこの文字なのか分からなかった。リリスは試しにそれを使って石に魔力を流してみたが、全く変わらなかったのだ。
「これ貰ったの?」
「はい」
「誰に?」
「それは言えません」
「初めて見たけど・・・恐らく・・」
アルバスがそう言うと、謎の道具はあっという間に手の中で光りだす。目の前の光景を呆気にとられ見つめるリリスは、口をポカンと開けている。そんなリリスをよそに、アルバスは近くの本を取り、光った道具を表紙に当てる。そして口の広い側から、そっと息を吹き込んだ。吹き終わると、光は止みアルバスは顔を上げる。すると、もっと不思議なことが起こった。アルバスに息を吹き込まれた本が、喋りだしたのだ。“喋る”というと語弊があるかもしれないが、しかしリリスにはそう見えた。本の中程のページでパカパカと開き、それが口のように見えた。そして、そこから声が聞こえてきたのだ。聞こえてくるのは、耳障りの悪いダミ声で、『第一章』とか言っている。恐らく、本の内容を朗読しているのだろう。
心底驚いたリリスは「せっ、先生!これ!?何なんですか!?この道具!」と半分叫ぶように聞いた。するとアルバスは、笑いをこらえた様子で答える。
「んー、名前を付けるなら『魔力注入器(初心者バージョン)』ってところかな」
(なに・・そのダッサいネーミング・・・)
「ああ、確か君の話では、彼女が子供たちに歌やお話をしているのを、王子が見かけて自分の気持ちを自覚するんだったな」
「はい。ただ昨日見た彼女は、子供たちにからかわれているようで、流石にあれでは不憫です。なので、殿下が見かけたことにし、彼女に伝えてほしいのです。彼女の姿に“心を打たれた”と・・そうすれば、彼女はあの馬鹿げた行動を止めるはずなので」
「ふーん・・・でも、それって嘘をつくってことだよねぇ。リリス嬢は僕に嘘をつかせるんだ」
「殿下・・その点は、お詫び申し上げます。しかし、私もあの姿を見てしまっては、引き下がれません。夏休み前、最後のお願いです」
頭を下げるリリスのお願いにアーサーは小さくため息をつくと「分かったよ」と言う。その返事を聞いたリリスは、パッと頭を上げると、嬉しそうに微笑んだ。そして「では、なるべく早めにお願いしますね」と言葉を残して立ち去ろうとする。その様子にアーサーはしてやられたことを悟り、負けじと声をかけた。
「ねえ、あれから魔石問題は解決したのかい?」
痛いところをつかれたリリスだったが、ゆっくりと振り返り、にっこりと余裕の笑顔を見せる。アーサーの申し出を断った手前、行き詰まっていることを知られたくなかったし、また意地でも頼りたくなかった。昨日フェクターに会い、魔石と使い道の分からない道具を託されたことは、黙っていることにした。
「余裕のよっちゃんですわ!それより殿下、よろしくお願いしますね」
そう言葉と笑顔を残し、リリスはアーサーの元を去った。残されたアーサーは、頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「また姫君は勝手なことを言って・・しかも“よゆうのよっちゃん”って、何だよ・・・」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夏休み前に済ませておく茶番劇の仕込みを済ませたリリスは、魔石作りに専念することにした。放課後、魔法資料室を訪れると、魔石の本を読みながら待ち人が現れるのを待った。半刻ほど経った時、扉を開け姿を見せたのは、リリスの待ち人アルバスだった。
「おや、ここ最近見かけないと思ったら、今日は懐かしい顔が見えるね」
「先生、そう言われるほど、足が遠のいていたわけではありませんが・・」
「アハハッ・・冗談だよ。それより、何か相談があって来たんだろう?」
(先生鋭い・・・)
リリスは上手くいかない魔石作りの相談に来たのだ。ヘンリーとの2回目のキス問題を解決して、心のモヤモヤを晴らすより、アルバスに相談することを選んだのだ。
「先生、魔石を簡単に作れる方法はありませんか?」
「魔石?ああ、魔法道具作りだね。魔石を簡単にか・・・それは難題だね。あれはそもそも流す魔力のコントロールもそうだけど、作り手の集中力が必要だからね。上手く作らないと、力を付与する際の妨げになるし・・・集中力を上げる方法なら、授業で教えてるよね?」
予想通りのアルバスの答えに落胆の色を隠さないリリスは「道具でもいいんです」と食い下がる。しかし、アルバスの答えは期待したものではなかった。仕方がないので、リリスは次の質問に移る。鞄からフェクターに貰った謎の道具を取り出すと、アルバスの前に置いた。
「これは?」
「ある方に頂いたのですが、何に使う物なのか分からないんです。先生なら分かるかとお見せしたんですが、どうでしょう」
目の前に置かれた道具を手に取り、まじまじと見るアルバス。リリスは、無言でその様子を見つめている。
フェクターから魔石と一緒に貰ったそれは、魔石作りに使える道具ではないかとリリスは考えていた。形はシンプルだ。トランペットの先・・いや、ロートのような形をしている。周りには不思議な文字が刻まれているが、どこの文字なのか分からなかった。リリスは試しにそれを使って石に魔力を流してみたが、全く変わらなかったのだ。
「これ貰ったの?」
「はい」
「誰に?」
「それは言えません」
「初めて見たけど・・・恐らく・・」
アルバスがそう言うと、謎の道具はあっという間に手の中で光りだす。目の前の光景を呆気にとられ見つめるリリスは、口をポカンと開けている。そんなリリスをよそに、アルバスは近くの本を取り、光った道具を表紙に当てる。そして口の広い側から、そっと息を吹き込んだ。吹き終わると、光は止みアルバスは顔を上げる。すると、もっと不思議なことが起こった。アルバスに息を吹き込まれた本が、喋りだしたのだ。“喋る”というと語弊があるかもしれないが、しかしリリスにはそう見えた。本の中程のページでパカパカと開き、それが口のように見えた。そして、そこから声が聞こえてきたのだ。聞こえてくるのは、耳障りの悪いダミ声で、『第一章』とか言っている。恐らく、本の内容を朗読しているのだろう。
心底驚いたリリスは「せっ、先生!これ!?何なんですか!?この道具!」と半分叫ぶように聞いた。するとアルバスは、笑いをこらえた様子で答える。
「んー、名前を付けるなら『魔力注入器(初心者バージョン)』ってところかな」
(なに・・そのダッサいネーミング・・・)
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