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第21話 リリス 王子に絡まれる
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あれからリリスとアーサーの噂は順調に広がり、噂には当初の想定以上の尾ひれはひれが付いていた。ヘンリーとアーサーがリリスをめぐって決闘をしたとか、リュシェル王女はアーサーではなくヘンリーと婚約するために留学、シュトリーマと国境を隔てるセルジュ辺境伯家嫡男であるヘンリーに嫁ぎ、そこからプロメアを侵略するとか・・もはや外交問題である。
しかし、その噂とは別に学園ではヘンリーと親しく話す令嬢が噂されていた。その令嬢は、エステール男爵家のレイリーだ。レイリーから手渡された手紙を頬を染めた彼女の隣で、嬉しそうに読むヘンリーの姿が何度も目撃されていた。
彼女は一年生の時に出会ったリリスの大ファンであり、リリスと彼女は友人として親しくしていた。そして今回リリス直々の依頼で、協力者となったのだ。手紙はリリスからレイリーに密かに預けられたものであり、彼女はいわゆる伝書鳩だ。リリス欠乏症のヘンリーを不憫に思ったアリーナたちが、リリスに手紙を書くよう進言したのだ。なるべく甘い手紙を所望されたが、リリスはそういうことは大の苦手。しかしヘンリーのため、知恵を振り絞り、何とか微糖の手紙を書き上げていた。そんな手紙なのだから、ヘンリーが嬉しそうに読むのも当たり前だ。そして憧れの君であるリリスの役に立っているという自負が、レイリーの頬も染めるという相乗効果をもたらしていた。しかし事情を知らない周囲は、自分たちの都合のいいように想像し、その噂もまたあっという間に広がった。レイリーに探りを入れる生徒もいるようだったが、リリス信仰者のレイリーはそんなもの物ともせず、立派に役目を果たしていた。
放課後、魔法資料室には一人で本を読むリリスの姿があった。魔石に魔力を込め、動力とするというイメージの出来上がった魔法道具を具体的に考えるのだ。まずは絵本をと考えていたが、どんな話にするか、どこに魔石を埋め込むのかなど考えをまとめたかったのだ。いつもならヘンリーが一緒のこの部屋も、今はどこか殺風景にリリスの瞳に映る。ヘンリーが側に居なくなって、彼がリリスの世界の色を輝かせ、甘美な時間をくれることをリリスは思い知った。しかし自分で言い出したことに皆を巻き込んでいる今は、弱音を吐いてる暇も時間もない。とにかく自分のできることを精一杯やるだけだと、リリスは心に決めていた。
その時、資料室に賑やかさが加わる。アーサーと双子、側近のリベイラが現れたのだ。アーサーたちを見たリリスは立ち上がると、にこやかに挨拶の言葉を口にする。それにアーサーは片手を上げ制すると、向かいに腰を掛けた。双子もそれに続く。「どうされたのですか?」というリリスの問いに微笑みを浮かべるアーサーは言った。
「うん?君との友好を深めようと思ってね。何しろ今は、君との仲を周囲に見せつけないといけないのだろう?」
その声は実に楽しげだ。隣に座るグラム王子とリュシェル王女は、表情を変えずに座っている。
「殿下、恐れながらその言い方は、リュシェル王女に失礼ではありませんか?」
「何がだい?事実だろう?それに王女も君の計画に賛同してくれているんだし、問題はないよ」
グラムとリュシェルは、それに頷く。アーサーの言うことに、リリスは黙るしかなかった。アーサーは更に言葉を続ける。
「それで、この機会に教えてくれないか?君は以前からここで何をしているのか」
「・・大したことではありませんの。新しい魔法道具を思い付きまして、それを実現するための勉強ですわ」
「へえ、新しい魔法道具・・・それは何?」
興味を引かれた様子のアーサーに、リリスは内心ため息をつく。そして「まだ上手くいくか分からぬ話です。申し訳ございませんが、これ以上はご勘弁を」とリリスはこの話に幕を下ろそうとしたが、アーサーは食い下がった。「そんなツレないこと言わないでさ」とアーサーはニッコリ微笑んだ。そこらの令嬢なら、この王族スマイルにおとされるのだろうが、リリスは違う。
(くっ・・・しつこい・・面倒くさい・・)
そんな風に失礼なことを考えながらもリリスは微笑みを絶やさず「申し訳ございません」と断る。そこにグラムが助け舟を出してきた。
「アーサー、しつこい男は嫌われますよ」
「えー」と不満そうなアーサーと穏やかな笑みを浮かべるグラム、対象的な二人にリリスは笑いを漏らす。そして観念したリリスは、言った。
「フフフッ・・仕方ありませんね。グラム王子とリュシェル王女にお礼も兼ねて、少しだけお話させていただきますわ」
言葉の意味が理解できない双子は、首を傾げる。リリスは説明を続けた。
「以前、お二人が屋敷にいらした際に、伺った話をヒントに思い付いた道具なのです。埋め込んだ歯車で人形が動くという話でしたわ」
その言葉に当時を思い出す様子の二人。アーサーだけは、ぐっと言葉を飲み込んだ様子だったが、すぐに口を開く。
「それは君一人で考えているのかい?アドバイザーみたいな者はいないのかい?」
「一応、ある方にアドバイスをいただく約束は頂いておりますの」
「ふーん・・じゃあ、もう一人アドバイスを貰ったら?僕に仕える特別な人を紹介してあげるからさ。いい?王家でなく、僕個人に仕えてる優秀な奴なんだよ」
リリスは「滅相もない」と断るが、アーサーも「こんな機会がないと、きっと会えない人物だよ。興味ない?」と引く気配がない。リリスは、その誘い文句に心がぐらついた。
(誰だろう。殿下個人に付くなんて・・・ちょっと興味あるなぁ。でも、ここで誘いにのったら、メチャクチャ面倒なことになりそうだしなぁ。うーん・・・・よし、決めた!)
「分かりましたわ、殿下」
好奇心と言う名のメーターの針が、振り切った瞬間だった。
しかし、その噂とは別に学園ではヘンリーと親しく話す令嬢が噂されていた。その令嬢は、エステール男爵家のレイリーだ。レイリーから手渡された手紙を頬を染めた彼女の隣で、嬉しそうに読むヘンリーの姿が何度も目撃されていた。
彼女は一年生の時に出会ったリリスの大ファンであり、リリスと彼女は友人として親しくしていた。そして今回リリス直々の依頼で、協力者となったのだ。手紙はリリスからレイリーに密かに預けられたものであり、彼女はいわゆる伝書鳩だ。リリス欠乏症のヘンリーを不憫に思ったアリーナたちが、リリスに手紙を書くよう進言したのだ。なるべく甘い手紙を所望されたが、リリスはそういうことは大の苦手。しかしヘンリーのため、知恵を振り絞り、何とか微糖の手紙を書き上げていた。そんな手紙なのだから、ヘンリーが嬉しそうに読むのも当たり前だ。そして憧れの君であるリリスの役に立っているという自負が、レイリーの頬も染めるという相乗効果をもたらしていた。しかし事情を知らない周囲は、自分たちの都合のいいように想像し、その噂もまたあっという間に広がった。レイリーに探りを入れる生徒もいるようだったが、リリス信仰者のレイリーはそんなもの物ともせず、立派に役目を果たしていた。
放課後、魔法資料室には一人で本を読むリリスの姿があった。魔石に魔力を込め、動力とするというイメージの出来上がった魔法道具を具体的に考えるのだ。まずは絵本をと考えていたが、どんな話にするか、どこに魔石を埋め込むのかなど考えをまとめたかったのだ。いつもならヘンリーが一緒のこの部屋も、今はどこか殺風景にリリスの瞳に映る。ヘンリーが側に居なくなって、彼がリリスの世界の色を輝かせ、甘美な時間をくれることをリリスは思い知った。しかし自分で言い出したことに皆を巻き込んでいる今は、弱音を吐いてる暇も時間もない。とにかく自分のできることを精一杯やるだけだと、リリスは心に決めていた。
その時、資料室に賑やかさが加わる。アーサーと双子、側近のリベイラが現れたのだ。アーサーたちを見たリリスは立ち上がると、にこやかに挨拶の言葉を口にする。それにアーサーは片手を上げ制すると、向かいに腰を掛けた。双子もそれに続く。「どうされたのですか?」というリリスの問いに微笑みを浮かべるアーサーは言った。
「うん?君との友好を深めようと思ってね。何しろ今は、君との仲を周囲に見せつけないといけないのだろう?」
その声は実に楽しげだ。隣に座るグラム王子とリュシェル王女は、表情を変えずに座っている。
「殿下、恐れながらその言い方は、リュシェル王女に失礼ではありませんか?」
「何がだい?事実だろう?それに王女も君の計画に賛同してくれているんだし、問題はないよ」
グラムとリュシェルは、それに頷く。アーサーの言うことに、リリスは黙るしかなかった。アーサーは更に言葉を続ける。
「それで、この機会に教えてくれないか?君は以前からここで何をしているのか」
「・・大したことではありませんの。新しい魔法道具を思い付きまして、それを実現するための勉強ですわ」
「へえ、新しい魔法道具・・・それは何?」
興味を引かれた様子のアーサーに、リリスは内心ため息をつく。そして「まだ上手くいくか分からぬ話です。申し訳ございませんが、これ以上はご勘弁を」とリリスはこの話に幕を下ろそうとしたが、アーサーは食い下がった。「そんなツレないこと言わないでさ」とアーサーはニッコリ微笑んだ。そこらの令嬢なら、この王族スマイルにおとされるのだろうが、リリスは違う。
(くっ・・・しつこい・・面倒くさい・・)
そんな風に失礼なことを考えながらもリリスは微笑みを絶やさず「申し訳ございません」と断る。そこにグラムが助け舟を出してきた。
「アーサー、しつこい男は嫌われますよ」
「えー」と不満そうなアーサーと穏やかな笑みを浮かべるグラム、対象的な二人にリリスは笑いを漏らす。そして観念したリリスは、言った。
「フフフッ・・仕方ありませんね。グラム王子とリュシェル王女にお礼も兼ねて、少しだけお話させていただきますわ」
言葉の意味が理解できない双子は、首を傾げる。リリスは説明を続けた。
「以前、お二人が屋敷にいらした際に、伺った話をヒントに思い付いた道具なのです。埋め込んだ歯車で人形が動くという話でしたわ」
その言葉に当時を思い出す様子の二人。アーサーだけは、ぐっと言葉を飲み込んだ様子だったが、すぐに口を開く。
「それは君一人で考えているのかい?アドバイザーみたいな者はいないのかい?」
「一応、ある方にアドバイスをいただく約束は頂いておりますの」
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リリスは「滅相もない」と断るが、アーサーも「こんな機会がないと、きっと会えない人物だよ。興味ない?」と引く気配がない。リリスは、その誘い文句に心がぐらついた。
(誰だろう。殿下個人に付くなんて・・・ちょっと興味あるなぁ。でも、ここで誘いにのったら、メチャクチャ面倒なことになりそうだしなぁ。うーん・・・・よし、決めた!)
「分かりましたわ、殿下」
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