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第18話 リリス 悶々と悩む
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アリーナの屋敷から戻ったリリスは、ヘンリーの到着を待っていた。自分の心臓がドクドクとうるさい事を自覚しながら、待つのは初めてだ。緊張の原因はアリーナとエリーゼだ。二人が言った言葉。
『ヘンリー様を労ってあげなさいよ』
『とにかくキスぐらいしてあげなさいよ。ヘンリー様、すごく我慢してると思うわ』
言われたセリフを思い出したリリスは、それを頭から追い出すようにブンブンと頭を振る。
(キス・・キスってどうやるんだっけ・・・“今からキスします”とか言ったほうがいいの?・・いやいや、それはないよね。雰囲気と流れよね。
大体、前世でも経験ないのに、ハードル高くない!?・・・・うん、高い。めっちゃ高い。棒高跳びの世界記録を超えちゃうぐらい高いわ。いや、エベレスト級かもね・・・いやいや、それは高すぎっ!せめて富士山級ね。
そうよ!こういうことは男性に任せておけば、いいのよ。人は人うちはうちよね・・・・・あっ、でもヘンリー我慢してるって・・キス“ぐらい”してあげなって、言ってたしなぁ。“ぐらい”って何!?そんなに簡単なものなの?キスって!?)
表情が目まぐるしく変わるリリスの様子に侍女のマリーが怪訝な顔で聞いてきた。
「お嬢様?大丈夫ですか?帰って来てから、様子が変ですよ」
「へっ?・・あー、うん、平気!全然大丈夫だからっ!ホントに何にも考えてないからっ・・・いつもと何にも変わらないから・・・」
早口で捲し立てるリリスは、誰がどう見ても怪しい。マリーの言うとおり、帰宅した際も階段は踏み外しそうになるわ、自室と間違えて隣のアシュリーの部屋へ入ろうとするわ、ひどい有様だった。しかし、そんな事を気にする余裕のないリリスは「平気」と言いながら、その返事すら上の空だ。そんな彼女の様子にマリーはため息交じりに言う。
「お嬢様・・・いつも言っておりますよね?お嬢様の“大丈夫”は全く大丈夫ではないと・・・一体何があったのですか?今からヘンリー様がお見えになるというのに・・」
ガシャンッ
持ち上げようとしたカップをテーブルに落としそうになり、マリーが駆け寄る。“ヘンリー”という単語にリリスの身体が敏感に反応してしまった結果だ。慌てた様子で「火傷はないか」とリリスを心配する侍女の姿にリリスは申し訳なくなった。
(まさかキスのことで悩んでるなんて思ってもないだろうな、マリーは・・・)
リリスは小さくため息をつくと「ごめんなさい、マリー」と謝る。まるで幼い子供のように謝るリリスにマリーは微笑むと、優しく語りかける。
「お嬢様、僭越ながら何か心配事がおありでしたら、私でよろしければ相談にのります。例え簡単に答えの出ない悩みでも、誰かに話してしまえば気が楽になるものです。それに案外お嬢様が悩むほど、深刻なものではないかもしれませんよ」
その言葉にジーンと胸が熱くなり、ウルっときてしまったリリスは「マリーが優しい・・・・」と消え入りそうな声を出す。それにマリーはリリスの手を取り、そっと包むと頼もしい笑顔で言った。
「お嬢様、マリーは“いつも”優しいのですよ。それで?何をそんなにお悩みなのですか?」
(うぅ・・・そうなの、貴女が思ってるような深刻な悩みじゃないのよ。でもこう言ってくれてるし、どうする?聞く?聞かない?・・思い切って聞いちゃうか?・・・いやいや、こんなに真剣に打ち明けられるのを待ってるマリーに、まさか“キスはどうやってするの”なんて、聞けないよぉ)
今度はマリーに話すべきかどうか頭を悩ませるリリスがうんうん唸っていると、ドアをノックする音がし、執事がヘンリーの到着を告げに来た。「リリスお嬢様、ヘンリー様がご到着されました」という言葉に「はひぃぃぃ」と声を裏返らせ答えたリリス。それを見たマリーは眉間に指を当て渋い顔をしているという目も当てられない光景が部屋に広がっている。
「はははっ・・・はぁぁ・・」
リリスは、取り乱したことを今更ごまかすように乾いた笑いをこぼすと、ため息をつく。そして「マリー、ありがとう。心配かけてごめんね。大丈夫だから」と笑顔を見せた。それにマリーは少し残念そうに微笑むと「分かりました」とだけ返す。
そしてリリスはヘンリーの待つ客間へと向かった。彼のもとへ向う足は重しをつけてるかのように重く、心臓はうるさく鳴り心を乱す。
(落ち着け、落ち着けぇ。いつも通り夕食を共にして、楽しく会話をするだけじゃない・・・・息を吸ってぇ・・吐いてぇ・・・ヒッヒッフーヒッヒッフー・・ヒッヒ・・あっ、これ違った。これじゃあ、赤ちゃん生まれちゃうじゃないのよ。まったく私ったら・・・・とにかく、もう成るように成れっ!運否天賦(うんぷでんぷ)よっ!)
リリスは覚悟を決めると、開かれた扉を通り『作戦名 キス完遂』の攻略対象の前へと姿を現したのだった。
『ヘンリー様を労ってあげなさいよ』
『とにかくキスぐらいしてあげなさいよ。ヘンリー様、すごく我慢してると思うわ』
言われたセリフを思い出したリリスは、それを頭から追い出すようにブンブンと頭を振る。
(キス・・キスってどうやるんだっけ・・・“今からキスします”とか言ったほうがいいの?・・いやいや、それはないよね。雰囲気と流れよね。
大体、前世でも経験ないのに、ハードル高くない!?・・・・うん、高い。めっちゃ高い。棒高跳びの世界記録を超えちゃうぐらい高いわ。いや、エベレスト級かもね・・・いやいや、それは高すぎっ!せめて富士山級ね。
そうよ!こういうことは男性に任せておけば、いいのよ。人は人うちはうちよね・・・・・あっ、でもヘンリー我慢してるって・・キス“ぐらい”してあげなって、言ってたしなぁ。“ぐらい”って何!?そんなに簡単なものなの?キスって!?)
表情が目まぐるしく変わるリリスの様子に侍女のマリーが怪訝な顔で聞いてきた。
「お嬢様?大丈夫ですか?帰って来てから、様子が変ですよ」
「へっ?・・あー、うん、平気!全然大丈夫だからっ!ホントに何にも考えてないからっ・・・いつもと何にも変わらないから・・・」
早口で捲し立てるリリスは、誰がどう見ても怪しい。マリーの言うとおり、帰宅した際も階段は踏み外しそうになるわ、自室と間違えて隣のアシュリーの部屋へ入ろうとするわ、ひどい有様だった。しかし、そんな事を気にする余裕のないリリスは「平気」と言いながら、その返事すら上の空だ。そんな彼女の様子にマリーはため息交じりに言う。
「お嬢様・・・いつも言っておりますよね?お嬢様の“大丈夫”は全く大丈夫ではないと・・・一体何があったのですか?今からヘンリー様がお見えになるというのに・・」
ガシャンッ
持ち上げようとしたカップをテーブルに落としそうになり、マリーが駆け寄る。“ヘンリー”という単語にリリスの身体が敏感に反応してしまった結果だ。慌てた様子で「火傷はないか」とリリスを心配する侍女の姿にリリスは申し訳なくなった。
(まさかキスのことで悩んでるなんて思ってもないだろうな、マリーは・・・)
リリスは小さくため息をつくと「ごめんなさい、マリー」と謝る。まるで幼い子供のように謝るリリスにマリーは微笑むと、優しく語りかける。
「お嬢様、僭越ながら何か心配事がおありでしたら、私でよろしければ相談にのります。例え簡単に答えの出ない悩みでも、誰かに話してしまえば気が楽になるものです。それに案外お嬢様が悩むほど、深刻なものではないかもしれませんよ」
その言葉にジーンと胸が熱くなり、ウルっときてしまったリリスは「マリーが優しい・・・・」と消え入りそうな声を出す。それにマリーはリリスの手を取り、そっと包むと頼もしい笑顔で言った。
「お嬢様、マリーは“いつも”優しいのですよ。それで?何をそんなにお悩みなのですか?」
(うぅ・・・そうなの、貴女が思ってるような深刻な悩みじゃないのよ。でもこう言ってくれてるし、どうする?聞く?聞かない?・・思い切って聞いちゃうか?・・・いやいや、こんなに真剣に打ち明けられるのを待ってるマリーに、まさか“キスはどうやってするの”なんて、聞けないよぉ)
今度はマリーに話すべきかどうか頭を悩ませるリリスがうんうん唸っていると、ドアをノックする音がし、執事がヘンリーの到着を告げに来た。「リリスお嬢様、ヘンリー様がご到着されました」という言葉に「はひぃぃぃ」と声を裏返らせ答えたリリス。それを見たマリーは眉間に指を当て渋い顔をしているという目も当てられない光景が部屋に広がっている。
「はははっ・・・はぁぁ・・」
リリスは、取り乱したことを今更ごまかすように乾いた笑いをこぼすと、ため息をつく。そして「マリー、ありがとう。心配かけてごめんね。大丈夫だから」と笑顔を見せた。それにマリーは少し残念そうに微笑むと「分かりました」とだけ返す。
そしてリリスはヘンリーの待つ客間へと向かった。彼のもとへ向う足は重しをつけてるかのように重く、心臓はうるさく鳴り心を乱す。
(落ち着け、落ち着けぇ。いつも通り夕食を共にして、楽しく会話をするだけじゃない・・・・息を吸ってぇ・・吐いてぇ・・・ヒッヒッフーヒッヒッフー・・ヒッヒ・・あっ、これ違った。これじゃあ、赤ちゃん生まれちゃうじゃないのよ。まったく私ったら・・・・とにかく、もう成るように成れっ!運否天賦(うんぷでんぷ)よっ!)
リリスは覚悟を決めると、開かれた扉を通り『作戦名 キス完遂』の攻略対象の前へと姿を現したのだった。
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