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第17.5話 幕間 アリーナ・エリーゼ視点

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ヘンリーを迎える準備のため、先に帰って行ったリリス。残されたアリーナとエリーゼが、お茶を飲みながら話をしている。

「ねえ、どうなると思う?」

「えっ?何が?」

「・・もう!この後のリリスとヘンリー様に決まってるじゃない!キスよ、キス!」

エリーゼが前のめりに話してくるのに対し、アリーナは落ち着き払って言う。

「あー、リリスは無理だと思うわ」

「なに、断言しちゃうの?」

アリーナの言葉にエリーゼは少し残念そうに視線を揺らす。幼い頃からリリスを見てきたアリーナは、確信のある様子でカップを口に運ぶと喉を潤した。

「そうね。昔から無垢なのよ、あの子。それがリリスらしいところなの」

「まあ、私もさっきは少し誂いすぎたとは、反省してるわ」

「でも、あの二人は周りが押さないと、進展しないかもね。ヘンリー様はリリスが嫌がることや本気で動揺することは絶対にしないし、下手したらキスすら結婚するまで待つわよ」

「紳士よねぇ」

首を軽く振り、感心したようにエリーゼが言うと、アリーナが表情を変える。エリーゼをニヤけ顔で見ると、楽しそうに聞いてくる。

「ねえ、リリスにああ言ってたけど、エリーゼも済ませてるのよね?キス」

面白そうに聞いてくるアリーナに、エリーゼは努めてポーカーフェイスで答える。

「ええ、婚約してもうすぐ2年だもの。最初の頃は第一印象悪かったし、この人と結婚できるのか不安しかなかったけれど、よく知ってみるとステキな方だったの。アリーナも、年下の婚約者と済ませてるのよね?」

「まあね」と艷やかなピンクブロンドの巻き髪を指に巻きつけ、答えるアリーナは大人っぽく見える。クルクルと髪で遊びながら、話題を変える。

「そう言えば、ヘンリー様を狙う令嬢もいたんでしょう?勇気あるわね」

「そうね。でもヘンリー様の氷の厚い壁で木っ端微塵だったみたいよ。心も凍らされちゃったみたいで、学園休んでるって聞いたわ。わざわざ私のところに教えに来た暇な生徒の情報だけど・・・
全く少し考えれば、あの二人が婚約破棄するわけないって分かりそうなものなのに、私たちが流した噂に騙されて・・・騙されるのはあの子だけでいいのよ」

腹ただし気に吐き捨てるエリーゼに、アリーナも苦笑する。

「まあ、あの類の噂にはみんな飛びつくとこ分かってて、流したのは私たちだしねぇ。でもそのお陰で想定より早くあの子が針にかかったじゃない。結果オーライよ」

「あっ、またそんな言葉使って・・」と呆れるエリーゼに、アリーナは「まあまあ」と笑う。楽しい会話が繰り広げられているサマリー侯爵家の一方、くしゃみを連発するリリスを侍女が「風邪ではありませんか?」と心配するアルバート公爵家であった。
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