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第14話 あまい休日

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アルミーダの店を後にしたリリスとヘンリーは、これからデートだ。まだランチまで少し時間があったので、街を歩くことにした。

雲に覆われた空とは違い、二人の心は軽い。夏が目前に迫った今の時期は太陽が顔を覗かせれば暑い為、今日のように曇っていたほうが過ごしやすい。

ヘンリーはリリスの手を取り、どこへ向かうでもなく歩き始める。手を引かれるリリスは彼を見上げ、隠れている太陽の代わりにお日様のような笑顔を見せた。ヘンリーはその笑顔に心を鷲掴みにされる。

二人が歩く姿は、すれ違う人々の視線を独占した。ヘンリーは彼女に視線を向ける男たちに氷の視線を御見舞する。すると男たちは途端に萎縮し、居心地悪そうに背を向けた。
ヘンリーは本当はリリスを誰の目にも触れさせたくなかった。しかし心の奥では、彼女を周りの男たちに見せびらかしたいとも思っていた。相反する二つの想いを抱える矛盾だらけの自分の心に、彼は静かにため息をついた。

街を歩いていると、ふとリリスの足が止まる。目の前には、色とりどりの花が迎える花屋があった。たくさん並ぶ花の中で、彼女の目を引いたのは華やかな香りを放つバラだった。リリスが一本バラを手に取ると、香りが鼻をくすぐる。ヘンリーが「綺麗だね」と言葉をかけると、リリスは「うん、いい香り」と笑った。ヘンリーは彼女の笑顔に目を細め、甘い声でリリスの耳元で囁いた。

「綺麗なのは、君だよ」

彼の吐息が耳をくすぐると、脳まで揺さぶられたような気がする。リリスはバラのように顔を真っ赤にし、誤魔化すようにまくしたてた。

「知ってる?昔は誕生花っていうのが、生まれた月によって決まってたの。六月はバラなのよ。バラってキレイだよね。香りもいいし、大好きよ」

リリスの言う“昔”というのは、前世のことだ。人目のある場所では、そう例えている。ヘンリーは「へえ、誕生花か。面白い考えだね。アルバート家の庭も見頃だろう?」と尋ねる。彼の言うとおり屋敷の庭にはバラが植えられていて、赤や白など見事な花を咲かせていた。

そしてヘンリーの提案で一本ずつバラを送りあうことにした。花言葉を意識したそれは、リリスの帽子には赤が、ヘンリーの胸元にはピンクのバラが飾られた。満足そうにヘンリーは微笑むと「リリィからピンクのバラを貰うのは、僕の今の気持ちと一緒だよ」と言った。そして彼は自身の腕にリリスの手を絡ませると、再び歩き出す。リリスは、そっと彼の様子をうかがった。

(バラが似合う男って・・やっぱりイケメン強いわね。曇りのないブロンドに透き通るような青い瞳・・・・それに比べて私のこのカラスみたいな黒い髪・・キレイなブロンドになりたかったな・・)

リリスの思考は、彼の視線と交差したことで止まる。リリスの瞳をとらえたブルーの瞳は、愛おしさという名の色を溢れさせていた。リリスは微笑むと、彼もまた微笑み返した。

お昼も近い時間になり、二人はレストランへと入る。昔から貴族の間で人気の店で二人は何度も訪れていた。店に入った二人を馴染みの店主が案内したのは、庭に面した眺めの良い席だった。この時期、日差しが降りそそぐこの席は晴れた日には暑いが、今日のように雲が主役の日にはなかなかの特等席だ。庭の花々が料理のアクセントとなり、客を楽しませるのだ。お昼前だった為、運良くいい席が空いていた。

二人はそれぞれコース料理を頼み、舌鼓をうつ。美味しそうに料理を口に運ぶリリスを、ヘンリーは向かいから楽しそうに見つめ微笑むいつもの光景だった。

「食べる?」

リリスがメインの肉をひと切れ刺したフォークを手に聞くと、ヘンリーは人目を気にせず口を開けた。半分冗談で聞いたリリスは一瞬ひるんだが、すぐに彼の口へフォークを運ぶ。満足そうに口を動かし、飲み込んだヘンリーは「美味しいね」と言うと、彼の皿から魚をひと切れ切り分ける。そしてお返しとばかりにフォークを差し出した。

「うぐ・・・」 

躊躇するリリスにヘンリーは「ほら、美味しいから」とおしてくる。諦めたリリスは、パクっと魚を口に入れた。柑橘の香りが鼻に抜けるソースが、魚の美味しさを引き立てていた。

「美味しい・・」

そう呟いたリリスに、ヘンリーは「だろう?」と笑った。

こうしてデザートまで満喫した二人は、美味しい食事で満たされたお腹と心と共に店を後にした。
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