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第16話 解けた呪い
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同時に聞こえてきたセリフは、リーベルトとオーランドだった。
二本の後ろ足で立ち上がり小さな体を大きく見せるネズミと、腰に手を当て生まれ持った華やかなオーラを放つ王子。
ヒロインを助けに来た一人と一匹のヒーローの後ろでは、エリーが両手を合わせ祈るように成り行きを見つめている。
『何でお前がいるんだよ!』
「どう見てもネズミだが、この聞こえる声は幻聴か!?」
顔を見合わせ威嚇するリーベルトに、僅かに眉を上げ小さな生き物を見下ろすオーランド。傍から見ると、なかなかシュールな光景である。
そこに「オーランド殿下ぁ~」と、纏わりつくような声がする。頬を染め、ご丁寧に瞳を潤ませたケイシーがオーランドにすごい速さで歩み寄る。そして足元にいた小さなリーベルトを邪魔だと言わんばかりに、蹴り上げようとしたその時、それは滑り込むように間に入ってきた身体に遮られた。
『あっ!』
「エリーッ!」
頭から滑り込むように突っ込んできたのは、エリーだった。背中にケイシーの蹴りをくらい僅かに顔を歪めるが、腕に大事そうに小さな体を包むと「ルト様、大丈夫ですか?」と微笑んだ。
『“大丈夫ですか”じゃないっ!なんて無茶をするんだ!』
「私はルト様が痛い思いをするほうが、耐えられませんので」
『俺は女に守られるほど、腰抜けじゃねえ』
リーベルトがそう言うと、小さな体が突然光り出す。目の前の信じられない光景に皆が驚愕の表情を浮かべる中、その光りはどんどん大きくなり、やがて人の形となる。そこまで大きくなると、光は身体に吸い込まれるように消え、残されたのは黒髪に黒い瞳の端正な顔立ちの男だった。その姿が誰かに似ていると思ったメリルの頭に浮かんだのは、リーベルトたちと喧嘩別れする前に見たマレフィクの王子だ。
「ルト・・?」
「ルト様?」
メリルとエリーの呼ぶ声にリーベルトは、照れくさそうに笑うと「やっと本来の姿に戻れたな」と言った。
「ちょっと、ルト!どういうことなの?説明しなさいよ。貴方の姿、マレフィクの王子に似てるじゃない」
「ああ、だろうな。だって、あれの弟だからな」
「「えっ!!」」
メリルとエリーの声が揃い、傍らで見守るオーランドは、眉をひそめた。するとケイシーのウザい猫なで声が、辺りに響き渡った。
「貴方、マレフィクの王子様ですの!?どおりで気品があると思いましたのよ」
しかしそんなケイシーの声を「黙れ」とリーベルトの低いトーンの声が遮った。そして同時にオーランドが彼女の後頭部に手刀をいれ、意識を取り除く。崩れ落ちたその身体を横たえると「これで静かになったな」と微笑んだ。気付くと、ゴロツキたちの姿は消え、メリルをここへ誘い出した男と女だけが顔を真っ青にし、立ちすくんでいた。
リーベルトが足元に座り込むエリーを助け起こすと「エリー、ありがとう」と礼を言う。それにエリーは、いまにも泣きそうな瞳で破顔した。
「イチから説明しなさいよ」
このメリルの言葉にリーベルトは「話せば長いから、とりあえず別邸に戻ろう」と提案する。
「でしょうね。長かろうと、聞いてあげるわよ。だって今まで私たちを騙していたんだものね」
チクリと言うメリルにリーベルトは苦笑すると、「ルーらしいな」と返した。
怯える男女は、聞けば子爵家の兄弟だという。サーヴァリ伯爵家に借金があり、それを帳消しにする代わりにケイシーにメリルを襲う手伝いをさせられたそうだった。二人に襲われたわけでもないメリルは、救いの手を差し伸べる。
「伯爵家とは縁を切りなさい。代わりにアーセンティア公爵家が借金なんて、チャラにしてあげるわ。私みたいな脳筋爪弾き者の言うことが、不満なら断ってくれて構わないけど」
メリルの提案に抱き合って喜ぶ兄弟。
「ありがとうございます!アーセンティア様には、ひどいことをしたのにお許し頂いだ上に助けていただけるなんて!先程の剣さばきもお見事でした!ねえ、お兄様もそう思うわよね?あの・・“お姉様”とお呼びしても構いませんか?」
「お姉様・・?」
「あっ!調子のいいことを申しました。申し訳ありません!」
「べっ、別に呼びたければ、構わないわよ」
頬を染め、嬉しそうなメリルにリーベルトが尋ねる。
「脳筋爪弾き者って、お前のことか?」
「えっ?あー、そうみたいよ。まあ、当たらずも遠からずでいいんじゃない?言いたい人には言わせておけばいいのよ」
細かいことを気にしないメリルに、みな苦笑した。
そして別邸へ戻ったメリルたちは、リーベルトの話を聞くため、ソファーに腰掛けている。子爵家の兄弟は、意識のないケイシーの見張り役で、隣の部屋にいた。
「それで?ルトの話は、どこから始まるのよ」
メリルのこの言葉に促され、リーベルトが隠していた秘密を明かす時間が始まった。
二本の後ろ足で立ち上がり小さな体を大きく見せるネズミと、腰に手を当て生まれ持った華やかなオーラを放つ王子。
ヒロインを助けに来た一人と一匹のヒーローの後ろでは、エリーが両手を合わせ祈るように成り行きを見つめている。
『何でお前がいるんだよ!』
「どう見てもネズミだが、この聞こえる声は幻聴か!?」
顔を見合わせ威嚇するリーベルトに、僅かに眉を上げ小さな生き物を見下ろすオーランド。傍から見ると、なかなかシュールな光景である。
そこに「オーランド殿下ぁ~」と、纏わりつくような声がする。頬を染め、ご丁寧に瞳を潤ませたケイシーがオーランドにすごい速さで歩み寄る。そして足元にいた小さなリーベルトを邪魔だと言わんばかりに、蹴り上げようとしたその時、それは滑り込むように間に入ってきた身体に遮られた。
『あっ!』
「エリーッ!」
頭から滑り込むように突っ込んできたのは、エリーだった。背中にケイシーの蹴りをくらい僅かに顔を歪めるが、腕に大事そうに小さな体を包むと「ルト様、大丈夫ですか?」と微笑んだ。
『“大丈夫ですか”じゃないっ!なんて無茶をするんだ!』
「私はルト様が痛い思いをするほうが、耐えられませんので」
『俺は女に守られるほど、腰抜けじゃねえ』
リーベルトがそう言うと、小さな体が突然光り出す。目の前の信じられない光景に皆が驚愕の表情を浮かべる中、その光りはどんどん大きくなり、やがて人の形となる。そこまで大きくなると、光は身体に吸い込まれるように消え、残されたのは黒髪に黒い瞳の端正な顔立ちの男だった。その姿が誰かに似ていると思ったメリルの頭に浮かんだのは、リーベルトたちと喧嘩別れする前に見たマレフィクの王子だ。
「ルト・・?」
「ルト様?」
メリルとエリーの呼ぶ声にリーベルトは、照れくさそうに笑うと「やっと本来の姿に戻れたな」と言った。
「ちょっと、ルト!どういうことなの?説明しなさいよ。貴方の姿、マレフィクの王子に似てるじゃない」
「ああ、だろうな。だって、あれの弟だからな」
「「えっ!!」」
メリルとエリーの声が揃い、傍らで見守るオーランドは、眉をひそめた。するとケイシーのウザい猫なで声が、辺りに響き渡った。
「貴方、マレフィクの王子様ですの!?どおりで気品があると思いましたのよ」
しかしそんなケイシーの声を「黙れ」とリーベルトの低いトーンの声が遮った。そして同時にオーランドが彼女の後頭部に手刀をいれ、意識を取り除く。崩れ落ちたその身体を横たえると「これで静かになったな」と微笑んだ。気付くと、ゴロツキたちの姿は消え、メリルをここへ誘い出した男と女だけが顔を真っ青にし、立ちすくんでいた。
リーベルトが足元に座り込むエリーを助け起こすと「エリー、ありがとう」と礼を言う。それにエリーは、いまにも泣きそうな瞳で破顔した。
「イチから説明しなさいよ」
このメリルの言葉にリーベルトは「話せば長いから、とりあえず別邸に戻ろう」と提案する。
「でしょうね。長かろうと、聞いてあげるわよ。だって今まで私たちを騙していたんだものね」
チクリと言うメリルにリーベルトは苦笑すると、「ルーらしいな」と返した。
怯える男女は、聞けば子爵家の兄弟だという。サーヴァリ伯爵家に借金があり、それを帳消しにする代わりにケイシーにメリルを襲う手伝いをさせられたそうだった。二人に襲われたわけでもないメリルは、救いの手を差し伸べる。
「伯爵家とは縁を切りなさい。代わりにアーセンティア公爵家が借金なんて、チャラにしてあげるわ。私みたいな脳筋爪弾き者の言うことが、不満なら断ってくれて構わないけど」
メリルの提案に抱き合って喜ぶ兄弟。
「ありがとうございます!アーセンティア様には、ひどいことをしたのにお許し頂いだ上に助けていただけるなんて!先程の剣さばきもお見事でした!ねえ、お兄様もそう思うわよね?あの・・“お姉様”とお呼びしても構いませんか?」
「お姉様・・?」
「あっ!調子のいいことを申しました。申し訳ありません!」
「べっ、別に呼びたければ、構わないわよ」
頬を染め、嬉しそうなメリルにリーベルトが尋ねる。
「脳筋爪弾き者って、お前のことか?」
「えっ?あー、そうみたいよ。まあ、当たらずも遠からずでいいんじゃない?言いたい人には言わせておけばいいのよ」
細かいことを気にしないメリルに、みな苦笑した。
そして別邸へ戻ったメリルたちは、リーベルトの話を聞くため、ソファーに腰掛けている。子爵家の兄弟は、意識のないケイシーの見張り役で、隣の部屋にいた。
「それで?ルトの話は、どこから始まるのよ」
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