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路上ライブ
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「さむっ…」
バイト先を出ると、すっかり暗くなっていた。
本当なら明るいうちに帰れたはずなのに、欠勤の人が出て残業になった。おかげで閉店作業までやってから変えることになってしまった。
本当なら、帰りに書店によってからゆっくり帰る予定だったのに、とはいえいかない選択もなく、急いで車を走らせた。
仕事場から近くの書店は駅近くのファッションビルの中にあり、駐車場から広く長い通路を通って駅ビルの脇を進む。
お目当ての本が購入して 建物を出た。
気がつくとそこそこ良い時間になっていた。
そろそろ帰ろうと、駐車場へ繋がる通路に戻る階段をのぼっていると、つけていたイヤホンから音が聴こえなくなった。どうやら充電が切れたらしい。
と、どこかからギターの聞こえてくる。路上ライブかぁ、と思う。この辺りでも時々やっている人を見かけることもある。
その音は、階段登った先から聞こえていた。そこにはギターを弾いている女性がいた。見た感じ若そうな雰囲気に思えた。
彼女は歌手のYUIの曲を弾いていた。機材もなく、ギターだけだった。
誰も見向きもせず素通りしていたが、一生懸命に歌う姿やその声に惹き付けられていた。
近づくにつれて、はっきりと演奏している姿が見えてくると、なんだか違和感を覚え始める。見覚えがある気がした。そう思うと、声も聞いた事がある気がしてきた。
「あ」
よく見れば、それは同じ軽音サークルの神園えるさんだった。通りで見覚えがあったのだ。
わかる前に去っておこう、僕のことを覚えているか分からないけど。
『あ』
しかし、不意に目が合ってしまった。
覚えているのか、やばい、そんな風に思ったように思えた。
とはいえ僕も、ここでいなくなるのは逃げているよう見えると思って、僕はそのまま、しばらく彼女の歌を聴いていた。いや、むしろ早くいなくなって欲しいのだろうか。
と、考えている間に曲も終わり、彼女は片付けを始めた。
丁度いいから、そのまま帰ろうと思って振り返った時、誰かに手を掴まれていた。
「あの」
掴んだのは神園さんだった。
「時間、大丈夫ですか?」
僕はただ、黙って頷いていた。
片付けを終えた神園さんと駐車場まで歩いた。
「いつもここでやってるんですか?」
とりあえず何か話をしないと、と思って話題を振ってみる。
「いえ、今日がはじめてで」
そうなんですね、と返したまま、その後はお互いに黙っている時間が続いた。
はじめて話すわけでないのに、学校外で会うとなんだかぎこちなくなってしまう。
しかし、このまま二人とも何も話さないままだと車まで辿り着いてしまうなと思った。だけど、何を話したらいいか思いつけなくて、もやもやしたままだった。
「あの」
駐車場が目の前まで来たところで、 神園さんの方から口を開いた。
「今日のことは秘密にしておいてもらえませんか」
神園さんは、不安そうな眼差しで僕を見ていた。
「誰にも話してないんです。誰にもみらえないつもりだったので」
そうだったのか。
だとしたら、偶然とはいえ居合わせてしまったことに申し訳なさも覚えてしまう。
「あ、別にあなたに見られたからどうとか、それに対しての嫌味とかではなくて」
「大丈夫ですよ、わかりました」
とはいえ、むしろ、こうして秘密を共有できることが、ちょっと嬉しかったりもした。
「あ、でももし」
僕はちょっとずるい提案をする。
「またライブやるときは、教えてくれますか」
はじめは驚きや戸惑いのような反応だったけれど、しばし逡巡のあと、
「いいですよ」
と、ぎこちないけれど笑ってくれた。
バイト先を出ると、すっかり暗くなっていた。
本当なら明るいうちに帰れたはずなのに、欠勤の人が出て残業になった。おかげで閉店作業までやってから変えることになってしまった。
本当なら、帰りに書店によってからゆっくり帰る予定だったのに、とはいえいかない選択もなく、急いで車を走らせた。
仕事場から近くの書店は駅近くのファッションビルの中にあり、駐車場から広く長い通路を通って駅ビルの脇を進む。
お目当ての本が購入して 建物を出た。
気がつくとそこそこ良い時間になっていた。
そろそろ帰ろうと、駐車場へ繋がる通路に戻る階段をのぼっていると、つけていたイヤホンから音が聴こえなくなった。どうやら充電が切れたらしい。
と、どこかからギターの聞こえてくる。路上ライブかぁ、と思う。この辺りでも時々やっている人を見かけることもある。
その音は、階段登った先から聞こえていた。そこにはギターを弾いている女性がいた。見た感じ若そうな雰囲気に思えた。
彼女は歌手のYUIの曲を弾いていた。機材もなく、ギターだけだった。
誰も見向きもせず素通りしていたが、一生懸命に歌う姿やその声に惹き付けられていた。
近づくにつれて、はっきりと演奏している姿が見えてくると、なんだか違和感を覚え始める。見覚えがある気がした。そう思うと、声も聞いた事がある気がしてきた。
「あ」
よく見れば、それは同じ軽音サークルの神園えるさんだった。通りで見覚えがあったのだ。
わかる前に去っておこう、僕のことを覚えているか分からないけど。
『あ』
しかし、不意に目が合ってしまった。
覚えているのか、やばい、そんな風に思ったように思えた。
とはいえ僕も、ここでいなくなるのは逃げているよう見えると思って、僕はそのまま、しばらく彼女の歌を聴いていた。いや、むしろ早くいなくなって欲しいのだろうか。
と、考えている間に曲も終わり、彼女は片付けを始めた。
丁度いいから、そのまま帰ろうと思って振り返った時、誰かに手を掴まれていた。
「あの」
掴んだのは神園さんだった。
「時間、大丈夫ですか?」
僕はただ、黙って頷いていた。
片付けを終えた神園さんと駐車場まで歩いた。
「いつもここでやってるんですか?」
とりあえず何か話をしないと、と思って話題を振ってみる。
「いえ、今日がはじめてで」
そうなんですね、と返したまま、その後はお互いに黙っている時間が続いた。
はじめて話すわけでないのに、学校外で会うとなんだかぎこちなくなってしまう。
しかし、このまま二人とも何も話さないままだと車まで辿り着いてしまうなと思った。だけど、何を話したらいいか思いつけなくて、もやもやしたままだった。
「あの」
駐車場が目の前まで来たところで、 神園さんの方から口を開いた。
「今日のことは秘密にしておいてもらえませんか」
神園さんは、不安そうな眼差しで僕を見ていた。
「誰にも話してないんです。誰にもみらえないつもりだったので」
そうだったのか。
だとしたら、偶然とはいえ居合わせてしまったことに申し訳なさも覚えてしまう。
「あ、別にあなたに見られたからどうとか、それに対しての嫌味とかではなくて」
「大丈夫ですよ、わかりました」
とはいえ、むしろ、こうして秘密を共有できることが、ちょっと嬉しかったりもした。
「あ、でももし」
僕はちょっとずるい提案をする。
「またライブやるときは、教えてくれますか」
はじめは驚きや戸惑いのような反応だったけれど、しばし逡巡のあと、
「いいですよ」
と、ぎこちないけれど笑ってくれた。
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