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61. 放たれた想いの刃-6
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裕樹の手を奈央が乱暴に振り払う。
「……私に妹なんていない」
拒絶する奈央を視界の端に置き、口を挟んだ。
「裕樹、妹っていくつだ?」
「6歳です」
……やっぱり。
「同い歳だったんだな? はなちゃんと」
裕樹に置いたままだった奈央の瞳が揺れた。
あの砂浜で、はなちゃんの歳を尋ねその顔を見つめていた奈央を思い出す。
お前は、どんな気持ちでいた?
話した事のない半分だけ血を分けた妹に思いを馳せ、その姿に重ね合わせてたんじゃないのか?
「裕樹、もう此処はいいぞ。こっちは俺が見とくから、な?」
まだこの場に気持ちを残しながらも、係の仕事へ向かって行った裕樹。その背中を目を細め見送った奈央は、今度は苛立たし気な眼差しを俺へと移した。
「いつの間に名前で呼ぶほど仲良しになったんだか。お節介もいい加減にして」
「妹の面倒、そんなにみたくないか?」
「妹なんていないって言ってるでしょ!」
「奈央にとってみれば受け入れ難いことだったよな? でもな、もがいても変えられないものもある。それから逃げて欲しくなかった」
そう、これが現実。
幼い頃に離婚した奈央の両親。離婚したとは言え、奈央の負担が少ないようにと、奈央も母親も父親の姓を名乗り、週末には家族三人で会い一緒に過ごしていたという。それが中学へ上がる少し前、突然告げられた父親との別れ。それから奈央は荒れ、中学三年の時には母親が再婚し『水野奈央』となった。
その頃、知り合った裕樹もまた、早くに父を亡くし、母子家庭で育った後に母親が再婚したという、奈央と似た境遇を辿っていた。
そんな裕樹に心を開き、徐々に落着きを取り戻しっていった奈央。それでも水野家に馴染めないでいた奈央に、裕樹は気持ちを理解しながらも何度も話したと言う。
『今は幸せ』だと。皆、幸せそうに笑っていると。例え、血が繋がらない父親とでも、家族になれたんだと。
その父親こそが奈央の実の父とも知らず、奈央にも幸せになって欲しいと願いながら何度も伝えたと、裕樹は昨日、資料室で俺に全てを吐き出した。
『真実を知った時、俺が言ってきた言葉が奈央を余計に傷付けた』
最後に付け加えたその顔は、苦痛で歪んでいた。
「奈央……」
奈央は、窓の外に目を向け黙り込む。自分を落ち着かせようとしているのかもしれない。
裕樹と奈央の三者面談があったあの日。急いで帰ろうとした俺を待っていたのは、奈央の実の父親でもあり裕樹の義父だった。
この数日で、その父親と裕樹本人から語られ、知り得た奈央の生い立ち。両親の離婚だけでも、子供にとってのダメージは量りしれないのに、奈央を最大限に奈落の底へ突き落したのは、知らぬ間にいた『妹』の存在だったろうことは想像に難くない。
何も知らずに裕樹に連れられ初めて訪れた恋人の家の近くで、幼い女の子を抱いた父親を見た時。最悪な形で真実を知った奈央の胸中は、いかばかりだったか。どれほど傷ついただろう。どれだけ一人涙を流しただろう。
「もう一人で泣くなよ?」
「泣くわけないでしょ」
こうやって強がることで自分を支え、憎むことでこれ以上傷つかないように、その身を守って来たんだろ?
奈央も裕樹も全てを知り得ても父親には打ち明けられず、数日後、次に奈央を待ち受けていたのは、裕樹から突き付けられた突然の別れだ。
その傷心の自分を救う為に、憎むことを糧とし防御とするしかなかった哀しい選択に、一体誰が責められると言うのか。そんな選択をしながら、今も傷を受け、もがき苦しんでいるとしか思えない奈央に……。
裕樹との再会だって、人知れず神経を尖らせていただろう。母親姓を名乗っていた裕樹が、うちの学校に戻って来た時には、養子縁組をし芹沢姓になっていたのだから、どれだけ奈央の心を乱したか知れない。
更なるダメージの決定打が、あの三者面談だ。
裕樹の面談の会話が、廊下で順番を待っていた奈央に漏れ聞こえていたとしたら。そう考えれば、突発的な暴挙に出てしまったのだろうと想像がつく。
血の繋がらない息子を心配する父親の話を、どんな気持ちで耳にしていたか。挙げ句、羨ましい親子関係だと、俺までが口にして……。
恐らくそれら全てが、憎しみに縋る奈央の精神的圧迫に追い討ちをかけた。
でも、奈央?
「俺は知ってるから……」
「……また意味の分からないこと言わないで」
夏に会ったあの女の子に向けた柔らかい表情。未だ机の上に飾ってある貝殻。
心底、憎みきれたら、奈央は楽になれたかもしれないけど、それが出来ない優しすぎる奴なんだって知っているから。
だから今も、憎みたい気持ちと、そう出来ない狭間で葛藤しているように俺には見える。
でもな、それじゃお前の幸せには繋がらない。憎んでも苦しいなら、幸せになる道を進め。
「現実から逃げてばかりじゃ駄目だ」
「笑わせないで。自分だって逃げて教師になった癖に」
確かに逃げてきた。自分の宿命から。
目も合わさず、俺を寄せ付けようとしない奈央の手に、自分のを手を重ねた。
「俺はもう逃げない。だから───」
「あれ? お邪魔だった?」
言い掛けた言葉は、惚けた声に阻まれた。
仕切りで周りの目から遮られてるとはいえ、此処は学校だ。ざわつく声に掻き消され、俺達が交わしていた小さな声は誰も拾えないにしても、この場でする話じゃない。それなのに、そんなことも一瞬忘れ想いを伝えてしまいそうになった。
狙ったかのようなタイミングで林田が邪魔してくれたのは、かえって良かったのかもしれない。
「邪魔なはずないだろ」
「へぇー」
疑わしさ満載の林田の目つき。
その目が俺の右手でピタリと止まり、再び俺と合わせた林田の目は『場所を考えろ!』と訴えていた。
「あっ、飲み物サンキューな」
誤魔化すようにお礼を言い、奈央の手に乗せたままだった自分の右手をそっと外して、林田の視線から逃れるように、買って来て貰った買い物袋を漁る。
「これ、買いすぎじゃねぇか?」
十本以上ある飲み物と、頼んでもいない沢山のお菓子達。そこから缶コーヒーを一本取った俺の前に、林田はジャラジャラと釣銭を渡してきた。
「ケチ臭いこと言うな」
偉そうに言い放った林田は、ビニール袋を引ったくり、同じく缶コーヒーを抜き取って、黙って奈央の前へと置いた。
「りおちゃんはカルピスでいい? あとね、このノートにお絵描きしていいからね!」
そっぽを向いた奈央をそのままに、甲斐甲斐しく妹の面倒を見る林田の言葉に思わず聞き返した。
「名前、りおちゃんって言うのか?」
林田の隣に座るりおちゃんは、大きな澄んだ目で俺を見ると、林田の渡したノートに自分の名前を書きだした。
『芹沢莉央』
……一字違いの奈央の妹。
「凄いな莉央ちゃん。もう漢字書けんだな」
褒められたのが嬉しかったのか、ニコリと笑う。
その妹とは対照的に、ちらりとそのノートを一瞥しただけの奈央は、無の表情を貼り付けたまま、直ぐにその目を窓へと戻した。
“水野“ より長い間 “芹沢” だった奈央。その芹沢姓を名乗る、たった一字しか違わない妹と、決して視線を合わそうとはしない。
はなちゃんのように遊んでやるなど、やはり奈央にとっては酷なことだったか。そう思っていた時、莉央ちゃんが咳込み、奈央の視線がそれを捉えた。
「大丈夫か?」
俺は新たに取り出した水を手渡し、林田はその小さな背中を擦る。
奈央はイライラするのか眉間に皺を寄せながらも、莉央ちゃんを黙って見ていた。
暫くして落ち着きはしたが、ノートに絵を書いている莉央ちゃんは、それから何度も咳込んだ。
その度に、奈央の視線は窓から莉央ちゃんに移り、イラつくままに険しさを表情に刻む。
「みんな腹減ったろ? 焼きそばでも食うか!」
「いいね。働いたら腹減った!」
「林田が働くなんて滅多にないしな!」
「そうそう。しかもタダ働きなんて有り得ないしね!」
「「………」」
奈央が醸し出す雰囲気の悪さを払拭しようと、俺と林田で明るく振る舞うも、姉妹揃って無言。悲しいくらいに俺達の会話は宙に浮いている気がする。
莉央ちゃんは恥ずかしがっているだけのようだが、目の端に映る奈央は、言うまでもなく不機嫌そのものだ。
「うわ~、結構美味しいじゃん! これならいくらでも食べられるよねー!」
生徒達が作った焼きそばを買って食べれば、いつもの林田からは想像もつかないほど、めげずにハイテンションで頑張ってくれているというのに。全く持って、その努力は報われない。
風邪気味のせいか、莉央ちゃんはあまり食欲がないようだし、奈央に至っては箸すら持とうとしない。
「水野も食えよ」
予想通り無視を決め込む奈央にはそれ以上何も言わず、箸を置いてしまった莉央ちゃんに話し掛ける。
「莉央ちゃん、もう食べられないか?」
小さく頷いた莉央ちゃんは、自分の持ってきた鞄から折り紙を取り出し何やら作り始めた。
「何折ってるの?」
食べ終えた林田が、片付けながら莉央ちゃんを見る。
「ツル。ママにあげるの」
聞き逃してしまいそうなほどの声に
「きっと直ぐにママは元気になるからな。じゃあ、先生も一緒に折ろうかな!」
母親の入院は心細く、幼心に心配しているのだろうと元気づけるつもりが、
「うん!」
力を入れすぎたせいだろうか。元気よく返事をした莉央ちゃんは、また乾いた咳をする。
そんな莉央ちゃんを観察するようにジーッと見ていた奈央は、頑なまでに閉ざしていたその口を開いた。
「………………ねえ」
「……私に妹なんていない」
拒絶する奈央を視界の端に置き、口を挟んだ。
「裕樹、妹っていくつだ?」
「6歳です」
……やっぱり。
「同い歳だったんだな? はなちゃんと」
裕樹に置いたままだった奈央の瞳が揺れた。
あの砂浜で、はなちゃんの歳を尋ねその顔を見つめていた奈央を思い出す。
お前は、どんな気持ちでいた?
話した事のない半分だけ血を分けた妹に思いを馳せ、その姿に重ね合わせてたんじゃないのか?
「裕樹、もう此処はいいぞ。こっちは俺が見とくから、な?」
まだこの場に気持ちを残しながらも、係の仕事へ向かって行った裕樹。その背中を目を細め見送った奈央は、今度は苛立たし気な眼差しを俺へと移した。
「いつの間に名前で呼ぶほど仲良しになったんだか。お節介もいい加減にして」
「妹の面倒、そんなにみたくないか?」
「妹なんていないって言ってるでしょ!」
「奈央にとってみれば受け入れ難いことだったよな? でもな、もがいても変えられないものもある。それから逃げて欲しくなかった」
そう、これが現実。
幼い頃に離婚した奈央の両親。離婚したとは言え、奈央の負担が少ないようにと、奈央も母親も父親の姓を名乗り、週末には家族三人で会い一緒に過ごしていたという。それが中学へ上がる少し前、突然告げられた父親との別れ。それから奈央は荒れ、中学三年の時には母親が再婚し『水野奈央』となった。
その頃、知り合った裕樹もまた、早くに父を亡くし、母子家庭で育った後に母親が再婚したという、奈央と似た境遇を辿っていた。
そんな裕樹に心を開き、徐々に落着きを取り戻しっていった奈央。それでも水野家に馴染めないでいた奈央に、裕樹は気持ちを理解しながらも何度も話したと言う。
『今は幸せ』だと。皆、幸せそうに笑っていると。例え、血が繋がらない父親とでも、家族になれたんだと。
その父親こそが奈央の実の父とも知らず、奈央にも幸せになって欲しいと願いながら何度も伝えたと、裕樹は昨日、資料室で俺に全てを吐き出した。
『真実を知った時、俺が言ってきた言葉が奈央を余計に傷付けた』
最後に付け加えたその顔は、苦痛で歪んでいた。
「奈央……」
奈央は、窓の外に目を向け黙り込む。自分を落ち着かせようとしているのかもしれない。
裕樹と奈央の三者面談があったあの日。急いで帰ろうとした俺を待っていたのは、奈央の実の父親でもあり裕樹の義父だった。
この数日で、その父親と裕樹本人から語られ、知り得た奈央の生い立ち。両親の離婚だけでも、子供にとってのダメージは量りしれないのに、奈央を最大限に奈落の底へ突き落したのは、知らぬ間にいた『妹』の存在だったろうことは想像に難くない。
何も知らずに裕樹に連れられ初めて訪れた恋人の家の近くで、幼い女の子を抱いた父親を見た時。最悪な形で真実を知った奈央の胸中は、いかばかりだったか。どれほど傷ついただろう。どれだけ一人涙を流しただろう。
「もう一人で泣くなよ?」
「泣くわけないでしょ」
こうやって強がることで自分を支え、憎むことでこれ以上傷つかないように、その身を守って来たんだろ?
奈央も裕樹も全てを知り得ても父親には打ち明けられず、数日後、次に奈央を待ち受けていたのは、裕樹から突き付けられた突然の別れだ。
その傷心の自分を救う為に、憎むことを糧とし防御とするしかなかった哀しい選択に、一体誰が責められると言うのか。そんな選択をしながら、今も傷を受け、もがき苦しんでいるとしか思えない奈央に……。
裕樹との再会だって、人知れず神経を尖らせていただろう。母親姓を名乗っていた裕樹が、うちの学校に戻って来た時には、養子縁組をし芹沢姓になっていたのだから、どれだけ奈央の心を乱したか知れない。
更なるダメージの決定打が、あの三者面談だ。
裕樹の面談の会話が、廊下で順番を待っていた奈央に漏れ聞こえていたとしたら。そう考えれば、突発的な暴挙に出てしまったのだろうと想像がつく。
血の繋がらない息子を心配する父親の話を、どんな気持ちで耳にしていたか。挙げ句、羨ましい親子関係だと、俺までが口にして……。
恐らくそれら全てが、憎しみに縋る奈央の精神的圧迫に追い討ちをかけた。
でも、奈央?
「俺は知ってるから……」
「……また意味の分からないこと言わないで」
夏に会ったあの女の子に向けた柔らかい表情。未だ机の上に飾ってある貝殻。
心底、憎みきれたら、奈央は楽になれたかもしれないけど、それが出来ない優しすぎる奴なんだって知っているから。
だから今も、憎みたい気持ちと、そう出来ない狭間で葛藤しているように俺には見える。
でもな、それじゃお前の幸せには繋がらない。憎んでも苦しいなら、幸せになる道を進め。
「現実から逃げてばかりじゃ駄目だ」
「笑わせないで。自分だって逃げて教師になった癖に」
確かに逃げてきた。自分の宿命から。
目も合わさず、俺を寄せ付けようとしない奈央の手に、自分のを手を重ねた。
「俺はもう逃げない。だから───」
「あれ? お邪魔だった?」
言い掛けた言葉は、惚けた声に阻まれた。
仕切りで周りの目から遮られてるとはいえ、此処は学校だ。ざわつく声に掻き消され、俺達が交わしていた小さな声は誰も拾えないにしても、この場でする話じゃない。それなのに、そんなことも一瞬忘れ想いを伝えてしまいそうになった。
狙ったかのようなタイミングで林田が邪魔してくれたのは、かえって良かったのかもしれない。
「邪魔なはずないだろ」
「へぇー」
疑わしさ満載の林田の目つき。
その目が俺の右手でピタリと止まり、再び俺と合わせた林田の目は『場所を考えろ!』と訴えていた。
「あっ、飲み物サンキューな」
誤魔化すようにお礼を言い、奈央の手に乗せたままだった自分の右手をそっと外して、林田の視線から逃れるように、買って来て貰った買い物袋を漁る。
「これ、買いすぎじゃねぇか?」
十本以上ある飲み物と、頼んでもいない沢山のお菓子達。そこから缶コーヒーを一本取った俺の前に、林田はジャラジャラと釣銭を渡してきた。
「ケチ臭いこと言うな」
偉そうに言い放った林田は、ビニール袋を引ったくり、同じく缶コーヒーを抜き取って、黙って奈央の前へと置いた。
「りおちゃんはカルピスでいい? あとね、このノートにお絵描きしていいからね!」
そっぽを向いた奈央をそのままに、甲斐甲斐しく妹の面倒を見る林田の言葉に思わず聞き返した。
「名前、りおちゃんって言うのか?」
林田の隣に座るりおちゃんは、大きな澄んだ目で俺を見ると、林田の渡したノートに自分の名前を書きだした。
『芹沢莉央』
……一字違いの奈央の妹。
「凄いな莉央ちゃん。もう漢字書けんだな」
褒められたのが嬉しかったのか、ニコリと笑う。
その妹とは対照的に、ちらりとそのノートを一瞥しただけの奈央は、無の表情を貼り付けたまま、直ぐにその目を窓へと戻した。
“水野“ より長い間 “芹沢” だった奈央。その芹沢姓を名乗る、たった一字しか違わない妹と、決して視線を合わそうとはしない。
はなちゃんのように遊んでやるなど、やはり奈央にとっては酷なことだったか。そう思っていた時、莉央ちゃんが咳込み、奈央の視線がそれを捉えた。
「大丈夫か?」
俺は新たに取り出した水を手渡し、林田はその小さな背中を擦る。
奈央はイライラするのか眉間に皺を寄せながらも、莉央ちゃんを黙って見ていた。
暫くして落ち着きはしたが、ノートに絵を書いている莉央ちゃんは、それから何度も咳込んだ。
その度に、奈央の視線は窓から莉央ちゃんに移り、イラつくままに険しさを表情に刻む。
「みんな腹減ったろ? 焼きそばでも食うか!」
「いいね。働いたら腹減った!」
「林田が働くなんて滅多にないしな!」
「そうそう。しかもタダ働きなんて有り得ないしね!」
「「………」」
奈央が醸し出す雰囲気の悪さを払拭しようと、俺と林田で明るく振る舞うも、姉妹揃って無言。悲しいくらいに俺達の会話は宙に浮いている気がする。
莉央ちゃんは恥ずかしがっているだけのようだが、目の端に映る奈央は、言うまでもなく不機嫌そのものだ。
「うわ~、結構美味しいじゃん! これならいくらでも食べられるよねー!」
生徒達が作った焼きそばを買って食べれば、いつもの林田からは想像もつかないほど、めげずにハイテンションで頑張ってくれているというのに。全く持って、その努力は報われない。
風邪気味のせいか、莉央ちゃんはあまり食欲がないようだし、奈央に至っては箸すら持とうとしない。
「水野も食えよ」
予想通り無視を決め込む奈央にはそれ以上何も言わず、箸を置いてしまった莉央ちゃんに話し掛ける。
「莉央ちゃん、もう食べられないか?」
小さく頷いた莉央ちゃんは、自分の持ってきた鞄から折り紙を取り出し何やら作り始めた。
「何折ってるの?」
食べ終えた林田が、片付けながら莉央ちゃんを見る。
「ツル。ママにあげるの」
聞き逃してしまいそうなほどの声に
「きっと直ぐにママは元気になるからな。じゃあ、先生も一緒に折ろうかな!」
母親の入院は心細く、幼心に心配しているのだろうと元気づけるつもりが、
「うん!」
力を入れすぎたせいだろうか。元気よく返事をした莉央ちゃんは、また乾いた咳をする。
そんな莉央ちゃんを観察するようにジーッと見ていた奈央は、頑なまでに閉ざしていたその口を開いた。
「………………ねえ」
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