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9. 微妙な関係-2
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IHヒーターに乗っかってる鍋の蓋を取る。カレーそのものに関しては言えば、まともなごく普通と言えるものだ。
……が、責任の意味だけは分かった気がした。
他人の家の慣れないキッチンで、戸惑いながらも何とか用意を済ませカレーを運ぶ。
「何処置けばいい? カウンターか?」
「ううん、こっちがいい」
言われた通りに大理石のテーブルに並べると、ソファーから下りた奈央はラグの上にペタンと座った。
2人向かい合わせに座り食事を摂る。
「おっ、旨い」
「当たり前でしょ。誰が作ったと思ってんのよ」
「ま、カレーで失敗する奴は少ないだろうけどな」
「悪いけど、料理は得意なの」
学校内の奈央だけしか知らなかったら、料理が得意と言われても不思議には思わないが、小悪魔奈央の上にお嬢様だろうと予測すると、料理が得意と言う事に驚きを隠しきれない。
「何、その意外そうな顔は」
「いや、別に……。それより、奈央はいつから此処に住んでんだよ」
「言っとくけど、私の方が先だから。うちの学校に転入してしてからずっと此処に住んでる」
俺は、今年の春からだ。
「俺、何回か挨拶に来たんだぞ? いつもお前いなかったじゃん」
「そんなの居留守に決まってんでしょ」
「はっ?」
人が菓子折り持って、わざわざ挨拶しに来たっていうのに。
「失礼な奴だな。何で居留守なんて使うんだよ」
「だってイヤじゃん。教師と隣同士なんて遣りづらい」
「自分の素行がばれるのが嫌だったって訳か?」
図星か?
奈央は、何も答えずキッチンへと向かってしまった。
戻って来たその手には、ウーロン茶とビール。そのビールを俺に手渡し、奈央はウーロン茶を一口飲むと、図星の訂正をしてきた。
「素行が悪いのは敬介でしょ。マンションの前で女性とキスしてたり、バーでは見る度に相手が違うし。あそこのバーね、私も行きつけなの」
──バレてたのは俺の方だったか。
そう言えば、部屋に上がりたいと言って聞かない女を黙らせるのに、マンション前で口を塞いだことがあったような……。
よりによって生徒である奈央に見られてたのかよ。しかも、バーでも何度も見掛けられていたとは。
「ガキのくせに、あんな店に出入りすんな! っつうか、何で未成年の家にビールが置いてあんだよ!」
「見られてたからって動揺して怒んないでくれる? ばれるようなヘマをする敬介が悪い。実際、私は今まで敬介にばれなかった訳だし」
何で俺は気付かなかったんだ。マンションでもバーでも、コイツの気配すら感じたことはない。
まさか隣に住んでるなんて想定外もいいとこだし。それに隣とは言っても、防音もしっかりしてるこのマンションでは、物音一つ届かない。
静かなこのマンションに、奈央が住んでたなんて分かるはずがない。
でも……、と僅かに生まれた心配が頭を掠め、思わず訊かずにはいられなくて口を開いた。
「こんな広い部屋に一人なんて、お前寂しくねぇの?」
「別に。そう言う敬介だって一人じゃん」
「俺は男だから寂しくなん───」
「敬介、お替りは? お替りしてよ、ね?」
俺の言葉に被せて話す奈央は、空になった皿を見て、あっさりと話題をすり替えた。
「……それにしてもよぉ」
空になった俺の皿を取り、立ち上がろうとした奈央を手で制して自分でよそりに来たキッチンで、思わず溜息混じりの独り言が漏れ落ちる。
2杯目のカレーをよそり奈央の元へ戻ると
「沢山食べてね」
こういう時だけ可愛らしい顔で笑いかけてくる奈央に最大の疑問を投げつけた。
「奈央、聞いてもいいか?」
「何?」
「今夜、俺以外に客でも呼んでんのか?」
「誰も来ないけど? 私、人呼ぶの嫌いだし」
「そうか……。じゃあ、何でだろうな。あの、量は……。10人前はありそうだよな?」
「うん……何でだろうね」
「どうすんだ、アレ?」
「えへ」
──えへ、ってお前、そんなキャラじゃないだろ!
昨夜、しっかりメイクアップされ大人びた綺麗な顔を見たせいか、スッピンの今日は学校で見る姿より、ほんの少しだけ幼く見える。
──頼むから、それ以上そんな顔すんな! 迂闊にも、可愛いと思っちまったじゃねぇか!
そんな思いを誤魔化すように、目の前の小悪魔を睨み見る。
「可愛く言っても、俺はあんなに喰えねーぞ」
「ちっ」
こら、舌打ちか? やっぱり、お前はそう言う奴だよ。一瞬でも可愛いと思った俺がバカだった。
「作りすぎなんだよっ!」
「いっぱい作った方が美味しく出来るの!」
「限度があんだろうがっ!」
「作っちゃったんだからしょうがないでしょ。責任とって食べてよね」
俺は家畜じゃない。だいたい、俺が責任取らされる事でもないはずだ。そう思うのに、抗えなかった。
当然、一晩で食べきれる筈もなく、それから俺達二人は、3日3晩かけて何とかこの量を食い切った。
これを機に、お互いの部屋を行き来するようになった俺達。学校では教師と生徒。家に戻れば普通の隣人関係とは微妙に違う、2人の奇妙な関係が始った。
……が、責任の意味だけは分かった気がした。
他人の家の慣れないキッチンで、戸惑いながらも何とか用意を済ませカレーを運ぶ。
「何処置けばいい? カウンターか?」
「ううん、こっちがいい」
言われた通りに大理石のテーブルに並べると、ソファーから下りた奈央はラグの上にペタンと座った。
2人向かい合わせに座り食事を摂る。
「おっ、旨い」
「当たり前でしょ。誰が作ったと思ってんのよ」
「ま、カレーで失敗する奴は少ないだろうけどな」
「悪いけど、料理は得意なの」
学校内の奈央だけしか知らなかったら、料理が得意と言われても不思議には思わないが、小悪魔奈央の上にお嬢様だろうと予測すると、料理が得意と言う事に驚きを隠しきれない。
「何、その意外そうな顔は」
「いや、別に……。それより、奈央はいつから此処に住んでんだよ」
「言っとくけど、私の方が先だから。うちの学校に転入してしてからずっと此処に住んでる」
俺は、今年の春からだ。
「俺、何回か挨拶に来たんだぞ? いつもお前いなかったじゃん」
「そんなの居留守に決まってんでしょ」
「はっ?」
人が菓子折り持って、わざわざ挨拶しに来たっていうのに。
「失礼な奴だな。何で居留守なんて使うんだよ」
「だってイヤじゃん。教師と隣同士なんて遣りづらい」
「自分の素行がばれるのが嫌だったって訳か?」
図星か?
奈央は、何も答えずキッチンへと向かってしまった。
戻って来たその手には、ウーロン茶とビール。そのビールを俺に手渡し、奈央はウーロン茶を一口飲むと、図星の訂正をしてきた。
「素行が悪いのは敬介でしょ。マンションの前で女性とキスしてたり、バーでは見る度に相手が違うし。あそこのバーね、私も行きつけなの」
──バレてたのは俺の方だったか。
そう言えば、部屋に上がりたいと言って聞かない女を黙らせるのに、マンション前で口を塞いだことがあったような……。
よりによって生徒である奈央に見られてたのかよ。しかも、バーでも何度も見掛けられていたとは。
「ガキのくせに、あんな店に出入りすんな! っつうか、何で未成年の家にビールが置いてあんだよ!」
「見られてたからって動揺して怒んないでくれる? ばれるようなヘマをする敬介が悪い。実際、私は今まで敬介にばれなかった訳だし」
何で俺は気付かなかったんだ。マンションでもバーでも、コイツの気配すら感じたことはない。
まさか隣に住んでるなんて想定外もいいとこだし。それに隣とは言っても、防音もしっかりしてるこのマンションでは、物音一つ届かない。
静かなこのマンションに、奈央が住んでたなんて分かるはずがない。
でも……、と僅かに生まれた心配が頭を掠め、思わず訊かずにはいられなくて口を開いた。
「こんな広い部屋に一人なんて、お前寂しくねぇの?」
「別に。そう言う敬介だって一人じゃん」
「俺は男だから寂しくなん───」
「敬介、お替りは? お替りしてよ、ね?」
俺の言葉に被せて話す奈央は、空になった皿を見て、あっさりと話題をすり替えた。
「……それにしてもよぉ」
空になった俺の皿を取り、立ち上がろうとした奈央を手で制して自分でよそりに来たキッチンで、思わず溜息混じりの独り言が漏れ落ちる。
2杯目のカレーをよそり奈央の元へ戻ると
「沢山食べてね」
こういう時だけ可愛らしい顔で笑いかけてくる奈央に最大の疑問を投げつけた。
「奈央、聞いてもいいか?」
「何?」
「今夜、俺以外に客でも呼んでんのか?」
「誰も来ないけど? 私、人呼ぶの嫌いだし」
「そうか……。じゃあ、何でだろうな。あの、量は……。10人前はありそうだよな?」
「うん……何でだろうね」
「どうすんだ、アレ?」
「えへ」
──えへ、ってお前、そんなキャラじゃないだろ!
昨夜、しっかりメイクアップされ大人びた綺麗な顔を見たせいか、スッピンの今日は学校で見る姿より、ほんの少しだけ幼く見える。
──頼むから、それ以上そんな顔すんな! 迂闊にも、可愛いと思っちまったじゃねぇか!
そんな思いを誤魔化すように、目の前の小悪魔を睨み見る。
「可愛く言っても、俺はあんなに喰えねーぞ」
「ちっ」
こら、舌打ちか? やっぱり、お前はそう言う奴だよ。一瞬でも可愛いと思った俺がバカだった。
「作りすぎなんだよっ!」
「いっぱい作った方が美味しく出来るの!」
「限度があんだろうがっ!」
「作っちゃったんだからしょうがないでしょ。責任とって食べてよね」
俺は家畜じゃない。だいたい、俺が責任取らされる事でもないはずだ。そう思うのに、抗えなかった。
当然、一晩で食べきれる筈もなく、それから俺達二人は、3日3晩かけて何とかこの量を食い切った。
これを機に、お互いの部屋を行き来するようになった俺達。学校では教師と生徒。家に戻れば普通の隣人関係とは微妙に違う、2人の奇妙な関係が始った。
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