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  ルイがリドウィンに連れられて入った部屋には、王太子とエルバルトが既に来ており、仕立て屋の手によってありとあらゆる赤とワインレッドの色見本の生地が並べられていた
  
  「殿下方は今回赤のドレスを贈られるのですか?」

  「いや?それぞれの藍色のドレスを贈るよ」

  「ここにある生地は、赤に見えますが?」

  「うん。赤い生地を並べてもらっているからね」

  ルイの問い掛けに飄々とした王太子が答える
  王太子達が贈るドレスはもう決まっていた、今回はリーザロッテがエルバルトの婚約者だと印象づける為に、濃藍の生地を全面に使ったドレスのデザインをエルバルトに譲り、王太子が贈るドレスは王太子の髪色であるゴールドと濃藍のバイカラーのデザインにした
  アクセサリーをリーザロッテにはゴールデンダイヤを使い、セレスティアにはブルーサファイアで、ドレスの裾にも縫い込んであしらわれている
  アイリスにはシルバーのドレスで、スカートの裾に濃藍の刺繍を施した、アクセサリーはダイヤモンドを用いている
  
  そういったわけで、今回は辺境伯令嬢にルイが贈るドレスの打ち合わせの為に仕立て屋に来てもらっているのだ

  「え、何故俺が辺境伯令嬢にドレスを贈ると·····」

  「うん、態度が分かりやす過ぎだから」

  「いや、でもいきなりでサイズなども分かりませんし·····」

  「大丈夫、そこは抜かりないから」

  王太子がそう言うが早いか、扉をノックする音がしてドレスを抱えた侍女が入ってきた

  「申し訳ないとは思ったんだけど、着替えたドレスの手入れをするからと侍女に言って持ってきてもらったんだよ」

  侍女が仕立て屋の女性にドレスを預けて寸法を測りはじめている

  準備の良さにルイは呆気に取られていたが

  「うーん、やっぱりワインレッドにするとあからさま過ぎて引かれちゃうかな?」

  と言う王太子の言葉が聞こえて我に帰る

  「御令嬢の瞳は鮮やかな赤ですね」

  リドウィンが言うと、鮮やかな赤い生地をエルバルトが手に取って

  「この色のドレスに黒髪は映えるだろうね」

  ルイを置いてけぼりにして三人は話している
  ふと、ルイが一枚の生地を手に取って見ていると、話しながらルイの様子を伺っていた三人は

  「ああ、その色はいいね。綺麗だし落ち着きのある色味だ」

  ルイが手にしていた色は、深みのあるワインレッドに近い落ち着いた赤の生地で、正しくルイの髪の色に近いものだった

  「いっいえ、そちらの鮮やかな赤の方が·····」

  焦ったルイが仕立て屋に助けを求めるように視線を向けると、仕立て屋がルイのもとに移動してルイが手にした生地を手に取ると

  「いいですね。この生地で作れば素晴らしいドレスが仕上がるでしょう」

  光沢のある絹で、厚みもありしっかりとした生地なのに柔らかな肌触りである
  
  「ルイ、辺境伯令嬢は、ルイから見てどんな女性かな?」

  王太子が問い掛けると、ルイは出会ったばかりの頃からの辺境伯令嬢を思い浮かべながら

  「落ち着いた、しっかりとした芯のある強さを持った女性だと、思います」

  「うんうん、そう思いながらルイが一番初めに選んだこの色と生地がいいんじゃないかな」

  「俺がこのドレスを贈ったら、辺境伯令嬢に押し付けに感じられるのではないかと」

  「着てもらえるかどうかは、辺境伯令嬢の意思に任せたら良いんじゃないかな。君が、ちゃんと伝えればいい。家の事とか領の事とか、関係なく、令嬢の気持ちだけで考えてほしいと」

  黙って考えたルイはゆっくりと頷き

  「自分なりに、しっかりと伝えたいと思います」

  「うん、エルバルトよりは潔いね」

  「何故俺が引っ張り出されるのですか」

  「いやぁ、ロットナー夫人に出てもらわずに済んだからねぇ」

  発破をかけるパワフルな母親を思い浮かべてルイはゾッと背中が寒くなり、あの日を思い出したエルバルトは項垂れ、それを想像したリドウィンは堪えきれずに笑いだした

  デザインを話し合い決定すると、仕立て屋は満足そうに太鼓判を押す

  「四着共、素晴らしいドレスが仕上がると思います。我が工房のお針子達が張り切って腕によりをかけますので、お任せ下さい」

  「少し急がせるかもしれないけど、よろしく頼む」

  「これだけのドレスを四着も作れるとは、腕がなります」

  そう力強く言って帰っていった

  
  
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