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聖女ととんでもアイテム

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 「火炎魔法ファイア!!」

 リィナさんの放った黒魔法が的から大きく逸れて飛んで行きます。

 「防御陣プロテクション

 訓練場の外に飛んで行った火球がノルンの防御陣プロテクションに阻まれ消滅しました。

 「……大体わかりました。魔力制御の訓練方法を教えてあげますけど、それでもちょっと来週の戦技実習には間に合いそうもありませんね」
 「そんな……」

 ノルンのその言葉にリィナさんは泣きべそをかきます。

 「リィちゃん。泣かなくても大丈夫ですよ。私が何とかしてあげますから」
 「本当ですか?お姉様」
 「はい。シルフィアーナ様、リィちゃん、アイラさん。明日のお休みはなにかご予定はありますか?」
 「私は特にないが……」
 「わたしもありません」
 「わたくしも大丈夫です」
 「なら、明日一日私に付き合っていただけますか?きっと有意義な一日になる事をお約束します」

 ノルンのその言葉に三人は一も二もなく頷くのでした。

 ーー翌日の朝九時。

 ミリシャル神殿前広場の噴水で四人は落ち合いました。

 「さあ。それでは行きましょうか」

 ノルンは三人を連れて、知り合いの工房へ向かいました。

 「おや。ノルンちゃんじゃないか。こんな朝早くから珍しいな」
 「こんにちは。ガルムおじさま」

 ノルンが挨拶をしたのは、ラギアン王国の騎士団が使う装備を作っている工房主のガルムさん。ドワーフ族です。
 ガルムさんは王宮に良く出入りしているので、ノルンが幼い頃からの知り合いです。

 「実はお願いがあって来たんです」
 「なんだ?また戦隊ロボとか言うゴーレムの人形でも作ればいいのか?」
 「それはまた今度。今日は剣の柄と組み立て前の短銃一式と鞭の柄が欲しいんです。出来ればミスリル製の物で」
 「それなら三つとも丁度在庫があるが……」
 「本当ですか!?良かった。それじゃそれを売ってください」

 そう言ってノルンは財布を取り出そうとします。

 「ああ。いい、いい。この前うちの若いのが怪我した時治療してくれたろ。そんくらいタダでやるよ」
 「ありがとうございます。おじさま」
 「よせやい。しかしこんなもんどうするんだ?」

  ガルムさんが持ってきた、剣の柄と組み立て前の短銃一式と鞭の柄を受け取り、ノルンは答えました。

 「ちょっと改造しようと思いまして。あ、ちょっとだけ工房お借りしていいですか?すぐ終わりますから」
 「ああ。今は休憩時間だから構わねえよ」
 「ありがとうございます」

  ノルンはそう言ってシルフィアーナ姫達を連れて工房に入ります。

 「聖女殿。いったい何をするつもりなんだ?」

 シルフィアーナ姫の問いにニッコリと笑うと、ノルンは剣の柄を手にして魔法を発動しました。

 「防御陣プロテクションソード」

 剣の柄に防御陣プロテクションで出来た刀身が装着されました。

 「付与エンチャント

 剣の柄に刀身状の防御陣プロテクションが付与されます。

 「魔力吸入マナドレイン付与エンチャント

 続けて大気中や自然界に存在する魔素マナを魔力として吸収する魔法を付与します。

 「姫。こちらへ。このまま、姫専用の契約をしちゃいますから」
 「え?う、うん……」

 ノルンは剣の柄をシルフィアーナ姫に握らせると、剣の柄に人差し指と中指を当てながら姫に言いました。

 「私が頷いたら、こう叫んでください。“つるぎよ”、と」
 「わ、わかった」
 「では行きます。契約魔法コントラクト。発現キーワードは」

 ノルンが頷きます。

 「つるぎよ!!」

 ノルンの指先が光り次の瞬間、シルフィアーナ姫の言葉に応え、剣の柄が光輝きました。

 「お疲れ様でした。これでシルフィアーナ姫専用の剣の完成です」
 「私専用の剣……」
 「はい。姫の言霊で付与した防御陣プロテクションの刀身が出現します。刀身を維持する魔力は魔石のように外部の魔素マナで賄いますから、魔力は必要ありません。刀身を消す時は消えるように念じてください」
 「……剣よ!!」

 ーーブオン…。

 姫の言葉に応え、光り輝く刀身が発生しました。

 「これはまた、とんでもねえもん作ったなあ……」

 黙って作業を見ていたガルムさんが驚きの声を上げました。

 「それの切れ味を試すなら、あれなんかどうだい?」

 そう言って、工房の隅に置かれているミスリルの原石を指差しました。

 「姫。試し斬りを」

 ノルンに促され、シルフィアーナ姫はミスリルの原石に近付くと、剣を振るいました。するとザンっと小気味良い音を立てて、ミスリルの原石が真っ二つになりました。

 「中々良い切れ味に出来ましたね」

 ノルンが誇らしげにそう言うと、シルフィアーナ姫はわなわなと震えながらこちらへ振り向きました。

 「せ、聖女殿……。これ、下手な魔剣や聖剣なんかよりすごい物なんじゃ……。私にはまだ斬鉄なんて出来ないはず……。ましてや、ミスリルなんて…」

 姫の言うとうり、確かにとんでもないシロモノです。
 重量のない防御陣プロテクション製のおそろしい切れ味の刃を持つこの剣なら、シルフィアーナ姫が使っていた鉄の剣のように、剣の重さに振り回される事もないでしょう。

 「私自慢の最高位防御陣エクス・プロテクション製の刃ですから」
 「い、いやいやいや!!これはいくらなんでも私が持つには分不相応すぎる!!」
 「そんな事はありません。私はシルフィアーナ様にならそれを託しても良いと思いました。民の為に努力するシルフィアーナ様なら、きっと良い行いの為に使ってくださると信じております」

 ノルンは狼狽えている姫の顔を見ながら、キッパリとそう言い放ちました。

 「……もし、私がこれを間違った事に使ったらどうするんだ?」
 「その時は私が全力でお止めしますよ。防御は得意ですから」

 ノルンのその言葉にシルフィアーナ姫はふっと微笑みました。

 「……わかった。聖女殿の期待を裏切らないよう、この剣に誓う。私は必ずこの剣に相応しい使い手になって、力なき人々を守れる剣になってみせる!!」
 「はい。信じていますよ。シルフィアーナ様」
 「……ルフィアだ」

  シルフィアーナ姫はノルンの目を見て、そう言いました。

 「家族や近しい者は皆、私の事をルフィアと呼ぶ。聖女殿には、そう呼んで欲しい……」
 「……わかりました。ルフィア」
 「……ありがとう。ノルン。私は生涯の友に出会えて幸せだ」

 こうして、ノルンはシルフィアーナ姫とお友達になれたのでした。
 それにしても、さらっととんでもない物を作りましたね、ノルン……。
 これはノルンが今後暴走しないよう、ちゃんと目を光らせないといけません……。
 下手にこんなとんでもアイテムを量産されたりでもしたら洒落になりませんよ……。
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