神の愛し子

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第1章  〜 運命 〜

出逢い

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二人が進む奥への道は、霊石の一部となった人間達で出来ていた。
それを見た闘鬼は苦虫を噛み潰した様な顔で言う。

『.....一体この先に何があるってんだ...?』

『解らん......行けば危険があるのかもしれない。
 だが、危険の有無に関わらず、俺達神は異次元空間いじげんくうかんが人間界にあれば確認しなければならない。
 そして、場合によってはその異次元空間を創った者にそれ相応の対処をしなければならない…生きていればだが』

彼ら神々の法律の様な物で、いくつもの決まり事があるのだ。
その一つが龍鬼の言っている、異次元空間の確認である。
“人間界に異次元、もしくは異空間が創られていた場合、それが人間が創った物か、別の何かが創った物か確認をすべし。
 人間が創ったにせよ、人間ではない何かが創ったにせよ、それ相応の処罰をすべし”…と。
どちらにしろ、罰せなければならないと言う事だ。
二人は注意深く奥に進んだ。
するとそこには一つの檻がポツンとあった。
その檻からはほんのわずかだが、人の気配がした。
龍鬼と闘鬼は警戒しながらその檻に近付く。
すると、

「だ...れ......?」

と声が発せられた。
声がした瞬間、二人は戦闘態勢にはいったが、龍鬼は直ぐ様態勢を崩した。
その声には幼さがあり、とても弱々しいものだったからだ。
そして檻に近付き中を確認する。
そこには一人の傷だらけな幼子が鎖に繋がれていた。

『(子供?
 何故子供が...?
 それにこの子供の無数の傷とおびただしい数の札は一体..........)』

子供の体には幾つもの切り傷や、むちや棒などで叩かれた後があり、檻には無数の札が外側だけでなく、中の方にも貼られていた。
龍鬼は確認する為に柵にそっと触れてみる。
案の定何かの術がほどこされており、少し痺れが応じた。

『......』

この札が貼られた檻をどうするかどうか考えていると、いつの間にか側に来ていた闘鬼が声をかける。

『おい龍鬼、どうすんだ?
 この空間を消すとしても、こいつをほっておくわけにも行かねーし...
 それに札が貼られてるって事は、この子供は危険って事だろ?
 だったらいっその事こいつも始末した方が....』

『...いや、そう結論付けるのは早いだろう。
 取り敢えずこの子供を連れて此処から出る。
 それからこの空間を閉じる。
 この子供の事はそれからだ』

そう言うと龍鬼は腰に刺していた小型の剣を抜き、横に振る。
すると柵は横一字に札ごと綺麗に切れ、封印は解かれる。
そして中に入り、子供を縛っていた鎖も切ると、子供に一声掛け抱き上げ元来た道を戻る。
子供は触れた瞬間体を強張らせたが、大人しく龍鬼に抱き上げられていた。
数分後、三人は入って来た扉の前に着いた。
そして龍鬼は抱えていた子供を少し離れた場所に下ろし、此処で待つ様言うと創られた空間を消す為、再び扉の前へ行き詠唱を始めた。
それを見ていた闘鬼は、まだ子供への警戒を解かずに横に並び、横目で観察する。

『(.....どっからどう見てもただの子供だよな?
 けどあの空間と言い、檻や札と言い、やっぱ危険なんじゃねーのか?)』

そんなこんなを考えていると、空間を消し終えた様で、龍鬼が闘鬼達の方へと歩いて来る。

『さて、空間は消した。
 後はその子供をどうするかだが.....』

そう言って考えていると、闘鬼が意見する。

『なぁ....思ったんだが、親の所に連れて行きゃーいいんじゃねーのか?
 そうすりゃ万事解決じゃねーか!』

うんうんと一人で納得し、満足している闘鬼。
だがそれは龍鬼の言葉で消える。

『いや、それは出来ない。
 .....考えてもみろ
 親が居るなら、心配して探しに来るはずだろうし、親戚が居ても同じ事だ。
 それが探しに来ないと言う事は、親も親戚も居ない、もしくは.....』

もう一つの可能性を考えたが、まさかと思い、口に出すのは止めた。

『兎に角、このまま我らが連れ回しても仕方がないだろう』

そう思い、子供に話をしようとした瞬間、

「あのね.....ボク...生きてちゃいけないって.....
 うまれてきちゃいけないそんざいだって...............」

彼らの話してる内容が雰囲気で分かった様で、龍鬼の服のすそを掴み、声を押し殺し、に涙を浮かべながら話した。
それを聞いた龍鬼は一瞬驚いたが、人間へ対し嫌悪感がまさった。

『......ちっ...
 人間ってのは勝手だな.....』

それは闘鬼も同じだった様で、拳を握り締め、ぶつけ様の無い怒りを堪えていた。
少しして龍鬼は、まだ自分の裾を掴んだまま声を出さずに泣いている子供の頭をひと撫でし抱き上げる。

『(恐らくこの子供はその意味を分かってはいないだろう...
 だが、大人達が話す雰囲気で自分が否定されている事を察したのだろうな...)』

そして再び頭を撫でながら、優しい声音でその子供に語りかけた。

「もう我慢をしなくていい。
 それにお前は生きていていいんだ。
 お前は産まれて来るべくして産まれて来た。
 だから胸を張ればいい」

そう言って微笑んだ。
それを見た子供は安心したのか、

「.....ほんとうに?
 ほんとうにボク.......生きてて.........いいの?」

と聞く子供に対し龍鬼は、

「嗚呼、いいんだ」

と応えた。
それを聞いた子供は、今まで中に閉じ込めていた感情が爆発したかの様に大声を出して泣き出した。
そんな子供をあやすかの様に龍鬼は背中を優しく叩いていた。
その様子を見ていた闘鬼はかなり驚いていた。
龍鬼とはこの世界に生を受けた時から一緒にいるが、闘鬼はいまだかつて龍鬼の笑う顔を見た事が無かったからだ。

『(..........マジかよ...
 あの龍鬼が笑うとか...
 うわー...何だよあの顔......
 それよりも、あいつってあんな子供あやすの上手かったかぁ??)』

などと龍鬼の意外な一面を見た闘鬼は思ったのであった。
暫くして、子供は泣き疲れたのか、抱き抱えている龍鬼の肩で眠っていた。

『.....で、そいつどうすんだ?』

と、眠っている子供を指差し闘鬼が話し出す。

『......そうだな...どうするか..........』

まだどうするか考えあぐねていた。
すると闘鬼がとんでもない事を言い出す。

『なぁ...まだどうするか決まってねーんだったら、俺らの所に置いておけばいいんじゃねーのか?
 そいつもお前に懐いてるみたいだし』

『・・・・・・は?』

目を丸くし、思わず間の抜けた声を出してしまう。
聞き間違えたのかと思いもう一度聞き直そうとしたが、その必要はなかった。

『だ~か~ら~、俺ら二人でそいつを育てたらどうだって言ってるんだよ!』

更に目を丸くし数秒固まり龍鬼は言った。

『......馬鹿は馬鹿でも底無しの馬鹿だった様だ』

大きな溜息をつく。
その言葉に闘鬼は怒る。

『誰が底無しの馬鹿だ!!?
 てか、こいつがもし危険な目にあっても俺達が守れば安全だろ!
 何せ俺達は神だからな!!』

腰に手を当て、自慢気に胸を張って言う闘鬼を見た龍鬼は、何を言っても無駄だとさとった。

『最後まで警戒していた奴がよく言う...
 仮に我らの側に置くとしても、我らが住むは天神界てんしんかい
 人間であるこの子供を連れて行くのは他の神が許さないだろう』

本来神は人間の生活に関与してはいけない。
昔ある神が人間に関与したばかりに、一度世界は滅びかけ、それを防ぐ為でもあるのだった。
しかも龍鬼達二人はその神に深く関わりがある為、他の神々から忌み嫌われ、数人の神からは迫害されていた。

『だったらさ、俺達がこっちに住めばいいんじゃね?』

いい考えと思った闘鬼は、またもや一人で納得する。
それを見た龍鬼は、もう闘鬼と組むのは辞めようかと考え始めるのであった。

『............闘鬼よ、少しは考えてから話せ。
 神がそうやすやすと人間世界に住める筈が無いだろう...
 馬鹿な事を言ってないでこの子供をどうするかきちんと考えろ』

少し強めな口調で言う。
しかし闘鬼は言う。

『心外な!?
 ちゃんと考えた結果だよ!
 それに俺達は他の奴らから迫害されてるしよ......
 何か言いたい事があるならハッキリ俺達に言えっての!!
 影でコソコソと...鬱陶しいだよ!!』

途中から声を荒らげ近くにあった木を殴る。
その声と音に吃驚びっくりして目を覚ました子供は、「.......ごめんなさい.....ごめんなさい...」と何度も謝りながら泣き出した。
龍鬼はそれを「お前の事ではない。だから謝らなくていいし泣かなくてもいい」と言葉をかけながらあやした。
それを見た闘鬼はバツが悪そうな顔をし、子供の頭を撫で「大きな声を出して悪い」と謝った。
それを聞いて子供は安心し、闘鬼に「だい.....じょうぶ」と返す。

「そう言えば、お前名前は?」

思い出したかの様に闘鬼が子供に聞く。
キョトンとした顔で子供は小首をかしげる。

「なま...え?」

名前と言う意味を理解していないのか、「なまえってなーに?」と聞いて来た。
それを聞いて二人は顔を見合わせ、龍鬼が質問を変えた。

「大人達にお前は何と呼ばれていた?」

「えっとね、《バケモノ》とか《カイブツ》ってよばれてた。
 それがボクのなまえっていうものなのかな?」

純粋無垢な子供に対し、何故“化け物”や“怪物”と呼んだのか。
再び龍鬼は嫌悪感と共に怒りも抱いた。
だが、それを表に出さず子供に言った。

「それは名前ではない。
 名前と言うのは......
 んー、何と言ったらいいのだろうな...
 掛け替えの無い大切な人に付ける
 ただ一つの大切な物とでも言えばいいのか...」

うーんと考えながら名前についてどう説明をすればいいのか悩みながら言った後に、しまったと思った。

「たいせつな...もの......」

そう呟き下を向く子供。
それを見た闘鬼が言う。

「名前が無いんだったら俺達がつけてやるよ!
 そうだなぁ.....あの名前も良いなぁ...いや、こっちの名前の方がいいか?
 あぁでもあれも捨てがたい...」

と、子供の名前を考え出すのだった。
すると子供が闘鬼の裾を掴み言った。

「えっと...これであってるのかな.....?
 えっと......えっと.............あり...がとう?」

小首を傾げ、戸惑いながらもニコッと微笑む姿に二人の神はドキッとした。
だがこれが何なの今の二人には解らないでいた。

『さて、名前もそうだが、我々が住む場所も探さなければならないだろう』

すると龍鬼の格好が一瞬にしてスーツ姿へと変わった。

『え!?
 りゅ、龍鬼!?』

それを見た闘鬼が驚き一歩後ずさった。

『人間界に留まるのなら、それ相応の格好でいなければならないだろう。
 闘鬼もその格好を変えろ。
 あぁ、そう言えば.........』

そう言って龍鬼は子供に近づき、そして身体に手をかざす。
するとみるみるうちに傷が消えて行く。
体中の痛みが消えたからか、自分の身体をあちこち見回りながら、くるくると回る。
その仕草に龍鬼は微笑み言った。

「まだ何処か痛むか?」

それに対し子供は首を横に振り、

「いたく...ないよ?
 えっと......えっと...ありがと」

と笑顔で答えた。
その様子を遠巻きに見ていた闘鬼が服を変え近くに来る。

『で、どうすんだ?
 取り敢えず俺もお前と同じ様にその服装にしてみたが...』

『そうだな.....
 まずは家を捜すか。
 後の事はそれからだ』

そうして三人は家へを捜す為、ヘヴンズロウへと歩き出した。
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