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chrono-30:女子力は、タップ…回れ廻れ/運命生命も所詮螺旋のダンス!の巻
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【集中力】はダイブ……
真正面から頭蓋骨を放り込んでいったが、それは数センチほどいなしズラされて。そのまま相手の右鎖骨につんのめるようにしてなだれ込んでいったものの、結構な衝突衝撃に長大な両腕の中で盛大にのけぞらされてしまう。覆いかぶさられるようにして、背中側の深いところを掴まれてしまう感覚。そこを搾り上げられるだけで、両踵が浮きそうになる。何て力だよ本当に。本当に腕力で解決しようとしてやがんな何も忖度とかは要らなかったってわけだそうだよそうだよな……
「フフフフフ……まだまだだねぇ……脆弱極まりないキミが独り立ちするなんざぁ、ちゃんちゃらおかしい話さぁ……」
何かのキャラでも演じてんのか、くらいの軽薄な言葉は、だがそれを承知で放ってるんだろ? 自分を、本当の自分を掴ませないように。
「……!!」
あんたはいつだってそうだった。真っ向から俺に、アスカに、アシタカに向かい合ってはきてくれなかったもんなぁッ!! 一段上みたいなところから見下し見下ろしてきやがってよぉぉぉ、何サマのつもりだっつぅんだぁぁぁああッ!!
組み合いで勝てるわけがないのはよく分かった。このままの体勢だと簡単に投げを打たれてしまうことも。
【判断力】はクイック……ッ!!
ならばと俺はもう芝生から離れかけている両足を軽く突くと、そのまま地面と平行に倒れ込むようにして膝を真っすぐに伸ばし、相手の左脛を狙って踵を打ち込む。
「……!!」
少し、向かって右に流れた巨体。勢いで自分の体を時計回りに思い切り捻ると、眼前に迫ってくる地面。相手の左腕に両腕を巻き付けるようにして潰れるのを防ぐ。案の定、反発するように少し持ち上げてくれた。この一瞬を、逃すな。
【直感力】はスパーク……ッ!!
「おおおおおおッ!!」
右脚を胸元くらいまで引き付けつつ、振り上げた勢いをそのままに地面に杭を打つかの如く軸として突き入れる。背後方面に自然と宙に浮いた左脚で、流れのまま相手の足元を探る。どこか、どこかに引っかかってくれたのなら。
【胆力】はハード……ぉぉぉぉおッ!!
実際に使ってるわけじゃない。が、何かを思い出そうとするかのように、忘れないように体にも刻み付けようとするかのように「能力」を使うイメージをしてみるたびに、逆に何かがひとつずつ失われていくようにも感じた。いや、そんな場合じゃあない。感じるな考えろ。
左の爪先が、ほんのわずか相手の左膝裏をはすった。それから逃れようとして左脚を浮かせて広げた巨体のバランスが、少し、ほんの少しだけズレた。ここしか無い。
「!!」
相手の突き出された左腕に両腕でぶらさがるような恰好の俺は、そのまま上体を極限まで丸め込む。左踵は大股開いて曝け出されただろう急所目掛けて突き込みながら。あとは気力しか無い。
【気力】はヒート……だぁぁぁあああッ!!
自分も空中で前転する勢いで相手も巻き込み、なに背負いか分からなかったが、とにかく巨体を浮かし、回転させて背中から地面に叩きつけた。空を見上げた体勢のまま鼻から息が漏れる。力を出し切った体を投げ出すと、その下敷きになっていた親父の呻き声を接した背中で感じた。ばかやろうが、と切れ切れに言われたような気もしたが、それはもう充分承知しているよ。
静寂の中、男ふたりの荒げた息の音だけ響く。終わった……
「……」
もう後は、別れの言葉どころか、誰の顔も目に入れたくなかった。何か言おうと近寄ってきた明日奈を無視してから、芝生に投げ出されたままだった通帳とか諸々を掴み上げると、荷物とか何も用意するのも面倒だったのでそのままの勢いで殊更何事も無い、くらいの素っ気なさで庭から出ていこうとする。と、
ぽつりぽつりと頭に感じた粒は、次の瞬間、嘘くさいくらいの勢いで視界も遮るくらいの簾になっていた。いやなタイミングだな。まるで俺を引き留めようとしたように思えて逆に依怙地に、通帳を腹に突っ込むと背を丸めそのまま門に向かって今度こそ歩き去ろうとしたのだったが。
刹那、だった。
【聴力】は……ニードル……
途切れない雨音の中に、ぺちゃり、べちゃり、と不自然な音が混ざる。何だ? とか思って振り向いてしまった。その音の主は、
「……!!」
おふくろだった、わけで。掃き出し窓からいつの間にか裸足で、雨でぬかるみ始めた芝生の上に出ていたのはまだしも、そこでエプロン姿のまま、不格好な四股みたいなのを踏んでいるのは何でだ。と、
「倒スべき親はまだ一人いますのネー。ゾンブンにかかって来ルガいいですネ、ボーイ……ッ!!」
アホか。そういうのはもういいんだよ。どこで覚えたんだか知らねえ怪しいキャラ付けがそれに不相応な整った顔から放たれると相当な違和感だよいや本当に勘弁してくれ……
「やめろよ、俺、今いろいろ斟酌できるような状態じゃねえんだよ……ッ!! 入れどころ間違って怪我でもしたらどうすんだよやめろってば……ッ!!」
もういいって。どすこいどすこいとか言いながら張り手みたいなのを中空に繰り出さなくてもいいんだよ、とか躊躇していた。
その刹那、だった……
「!!」
突然、細い人影が水のカーテンの中でゆらと動いて見えた。と次の瞬間には立ち合いもクソも無く、不意をつかれて一気に間合いを詰められていた。油断……ッ!! 足が揃ったまんまの素立ちのまま、既に完全に懐に入られつつある。思ってたよりも素早い挙動。真っすぐに向かってきたその鳶色の瞳は普段ぽんやりしてる人とは思えないほどに、見たこともない真剣の光を帯びていた。
が、
とりあえず後ろに一歩でも二歩でも下がっていなせるか? やべえ万が一でもこのまま倒されでもしたら面倒くせえことになりそうだぞ……とかを考えてた俺は、本当に馬鹿野郎だ。
たたらを踏んだ次の瞬間、俺は。
「……!!」
……身体ごとぶつかられてきた衝撃と一緒に、抱きしめられていた。おふくろの、胸の中に。俺の頭は抱え込まれるような恰好で。そのままぐいぐいとぐしょ濡れになってきたエプロンに擦り付けられるように。すげえ力で。押し殺したようなおふくろの声が、胸を伝ってくる。
「ドコにも行かセマセンネー……ワタシのそばカラ、もうコレ以上子供タチを、離サセは、しませんデスネー……ッ!!」
身体に力は、巡ってはいかなかった。あの時と同じだった。
緑色の観光バスの、割れた窓の、ひしゃげたフレームの、隙間から引きずり出され、濡れた路面に折れた左脚から、倒れ込んでいった幼い俺の身体を、抱き留めてくれたのも、この人だった。この腕だった。ああ……
あの時の、いちばん思い出したくない光景も一緒にフラッシュバックしてきそうだった。意識を閉じる暇も無かった。腹の中で空気の塊が爆発したように、その勢いで、俺の声帯は揺さぶるかのように震わされ、
「か、かーを、かーをたすけてッ!! かーが、かーがまだイスの下に、下にいるのッ!! かーがッ!! かーが……ッ!!」
気づけば大声で叫んでいた。自分の顔の筋肉が攣るほどに。断続的に撥ねるように暴れる俺の身体は、それでも華奢な二本の腕にしっかりと絡め取られていた。
ダイジョブデスネー、ダイジョブダイジョブーと、あの時と同じ声で、優しく諭すように、そう言われて。大丈夫なことなんて、何一つ無えのに。無かったのに。
気が付くと、俺の背中にはもう一組の抱き着く腕があって。あぁーんあぁーんと耳元で子供のように泣き声を上げる、明日奈のぬくもりがあったわけで。
意識はもう、飛んではくれなかった。すべてを、受け止めなくてはならねえんだ、と自分に言い聞かせながら、俺は外れそうになっていた顎を何とか戻す。
雨が、上がっていた。
真正面から頭蓋骨を放り込んでいったが、それは数センチほどいなしズラされて。そのまま相手の右鎖骨につんのめるようにしてなだれ込んでいったものの、結構な衝突衝撃に長大な両腕の中で盛大にのけぞらされてしまう。覆いかぶさられるようにして、背中側の深いところを掴まれてしまう感覚。そこを搾り上げられるだけで、両踵が浮きそうになる。何て力だよ本当に。本当に腕力で解決しようとしてやがんな何も忖度とかは要らなかったってわけだそうだよそうだよな……
「フフフフフ……まだまだだねぇ……脆弱極まりないキミが独り立ちするなんざぁ、ちゃんちゃらおかしい話さぁ……」
何かのキャラでも演じてんのか、くらいの軽薄な言葉は、だがそれを承知で放ってるんだろ? 自分を、本当の自分を掴ませないように。
「……!!」
あんたはいつだってそうだった。真っ向から俺に、アスカに、アシタカに向かい合ってはきてくれなかったもんなぁッ!! 一段上みたいなところから見下し見下ろしてきやがってよぉぉぉ、何サマのつもりだっつぅんだぁぁぁああッ!!
組み合いで勝てるわけがないのはよく分かった。このままの体勢だと簡単に投げを打たれてしまうことも。
【判断力】はクイック……ッ!!
ならばと俺はもう芝生から離れかけている両足を軽く突くと、そのまま地面と平行に倒れ込むようにして膝を真っすぐに伸ばし、相手の左脛を狙って踵を打ち込む。
「……!!」
少し、向かって右に流れた巨体。勢いで自分の体を時計回りに思い切り捻ると、眼前に迫ってくる地面。相手の左腕に両腕を巻き付けるようにして潰れるのを防ぐ。案の定、反発するように少し持ち上げてくれた。この一瞬を、逃すな。
【直感力】はスパーク……ッ!!
「おおおおおおッ!!」
右脚を胸元くらいまで引き付けつつ、振り上げた勢いをそのままに地面に杭を打つかの如く軸として突き入れる。背後方面に自然と宙に浮いた左脚で、流れのまま相手の足元を探る。どこか、どこかに引っかかってくれたのなら。
【胆力】はハード……ぉぉぉぉおッ!!
実際に使ってるわけじゃない。が、何かを思い出そうとするかのように、忘れないように体にも刻み付けようとするかのように「能力」を使うイメージをしてみるたびに、逆に何かがひとつずつ失われていくようにも感じた。いや、そんな場合じゃあない。感じるな考えろ。
左の爪先が、ほんのわずか相手の左膝裏をはすった。それから逃れようとして左脚を浮かせて広げた巨体のバランスが、少し、ほんの少しだけズレた。ここしか無い。
「!!」
相手の突き出された左腕に両腕でぶらさがるような恰好の俺は、そのまま上体を極限まで丸め込む。左踵は大股開いて曝け出されただろう急所目掛けて突き込みながら。あとは気力しか無い。
【気力】はヒート……だぁぁぁあああッ!!
自分も空中で前転する勢いで相手も巻き込み、なに背負いか分からなかったが、とにかく巨体を浮かし、回転させて背中から地面に叩きつけた。空を見上げた体勢のまま鼻から息が漏れる。力を出し切った体を投げ出すと、その下敷きになっていた親父の呻き声を接した背中で感じた。ばかやろうが、と切れ切れに言われたような気もしたが、それはもう充分承知しているよ。
静寂の中、男ふたりの荒げた息の音だけ響く。終わった……
「……」
もう後は、別れの言葉どころか、誰の顔も目に入れたくなかった。何か言おうと近寄ってきた明日奈を無視してから、芝生に投げ出されたままだった通帳とか諸々を掴み上げると、荷物とか何も用意するのも面倒だったのでそのままの勢いで殊更何事も無い、くらいの素っ気なさで庭から出ていこうとする。と、
ぽつりぽつりと頭に感じた粒は、次の瞬間、嘘くさいくらいの勢いで視界も遮るくらいの簾になっていた。いやなタイミングだな。まるで俺を引き留めようとしたように思えて逆に依怙地に、通帳を腹に突っ込むと背を丸めそのまま門に向かって今度こそ歩き去ろうとしたのだったが。
刹那、だった。
【聴力】は……ニードル……
途切れない雨音の中に、ぺちゃり、べちゃり、と不自然な音が混ざる。何だ? とか思って振り向いてしまった。その音の主は、
「……!!」
おふくろだった、わけで。掃き出し窓からいつの間にか裸足で、雨でぬかるみ始めた芝生の上に出ていたのはまだしも、そこでエプロン姿のまま、不格好な四股みたいなのを踏んでいるのは何でだ。と、
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アホか。そういうのはもういいんだよ。どこで覚えたんだか知らねえ怪しいキャラ付けがそれに不相応な整った顔から放たれると相当な違和感だよいや本当に勘弁してくれ……
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もういいって。どすこいどすこいとか言いながら張り手みたいなのを中空に繰り出さなくてもいいんだよ、とか躊躇していた。
その刹那、だった……
「!!」
突然、細い人影が水のカーテンの中でゆらと動いて見えた。と次の瞬間には立ち合いもクソも無く、不意をつかれて一気に間合いを詰められていた。油断……ッ!! 足が揃ったまんまの素立ちのまま、既に完全に懐に入られつつある。思ってたよりも素早い挙動。真っすぐに向かってきたその鳶色の瞳は普段ぽんやりしてる人とは思えないほどに、見たこともない真剣の光を帯びていた。
が、
とりあえず後ろに一歩でも二歩でも下がっていなせるか? やべえ万が一でもこのまま倒されでもしたら面倒くせえことになりそうだぞ……とかを考えてた俺は、本当に馬鹿野郎だ。
たたらを踏んだ次の瞬間、俺は。
「……!!」
……身体ごとぶつかられてきた衝撃と一緒に、抱きしめられていた。おふくろの、胸の中に。俺の頭は抱え込まれるような恰好で。そのままぐいぐいとぐしょ濡れになってきたエプロンに擦り付けられるように。すげえ力で。押し殺したようなおふくろの声が、胸を伝ってくる。
「ドコにも行かセマセンネー……ワタシのそばカラ、もうコレ以上子供タチを、離サセは、しませんデスネー……ッ!!」
身体に力は、巡ってはいかなかった。あの時と同じだった。
緑色の観光バスの、割れた窓の、ひしゃげたフレームの、隙間から引きずり出され、濡れた路面に折れた左脚から、倒れ込んでいった幼い俺の身体を、抱き留めてくれたのも、この人だった。この腕だった。ああ……
あの時の、いちばん思い出したくない光景も一緒にフラッシュバックしてきそうだった。意識を閉じる暇も無かった。腹の中で空気の塊が爆発したように、その勢いで、俺の声帯は揺さぶるかのように震わされ、
「か、かーを、かーをたすけてッ!! かーが、かーがまだイスの下に、下にいるのッ!! かーがッ!! かーが……ッ!!」
気づけば大声で叫んでいた。自分の顔の筋肉が攣るほどに。断続的に撥ねるように暴れる俺の身体は、それでも華奢な二本の腕にしっかりと絡め取られていた。
ダイジョブデスネー、ダイジョブダイジョブーと、あの時と同じ声で、優しく諭すように、そう言われて。大丈夫なことなんて、何一つ無えのに。無かったのに。
気が付くと、俺の背中にはもう一組の抱き着く腕があって。あぁーんあぁーんと耳元で子供のように泣き声を上げる、明日奈のぬくもりがあったわけで。
意識はもう、飛んではくれなかった。すべてを、受け止めなくてはならねえんだ、と自分に言い聞かせながら、俺は外れそうになっていた顎を何とか戻す。
雨が、上がっていた。
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