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Jitoh-14:泡沫タイ!(あるいは、心の音/肝臓音アクァトロファッチエ)
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何がどうとなってそうなったかは分からなかったものの、
「……!!」
不自然な現状、思わせぶりな野郎の言動、そこから導かれることは明白……
「……随分いろいろカマしてくれるじゃねえかよ。そうまで勝ちを拾いたいっつうのか、この素人らに対して」
もはや機嫌すら良さげな断続的空気音をせわしなく繰り出しながら、横の車椅子までも小刻みに揺れてやがる。野郎……何かしらまた仕込んでやがったなっ。
<……はっは。メリットがあるならばそれを最大限盛る。躊躇とか遠慮とかは無縁の世界であれば、それは至極当然のこと>
……こいつの正体が掴めなくなってきた。「神聖」言うてたのが遥か昔のことに感じられるぜ……無法の暴君と化したかのような野郎の、しかし奥の奥の真意までは皆目、測れそうには無え。今はそれより、
「あの配置してた『緑球』も『重い』ってわけかよ」
同じ大きさのものが衝突した場合、軽い方が重い方に弾き飛ばされる、そいつぁ世の理だ。俺の放った赤球は、的とした白球に重なるぴったり軌道で転がっていったものの、強めに放っていたもんだから白球に衝突して跳ね返されたと。もちろん白球自体は俺が投げた奴から変わってないはず。だから重さは赤とそうは変わらねえ。だがその後ろに控えていた三つの「緑球」……それらが白球を後押しするかのようにその場に結構な重量をもって鎮座していたのなら……? そういうことだったわけだ。
<ああ、いや、色々と見せたいと思ってだね、あれらは『スティック』だ>
上機嫌そうな声色は結構だが、まったくもって意味が分からねえんだよ……俺をイラつかせるという戦略ならとっくにハマっちまってるけどよぉ……この怒りを集中力に絶対転化してやるからなぁ……!!
ガラにも無く憤怒の形相を隠さず俺は野郎に詳細説明を促すが。
<静置されることにより、徐々に自重により床面に吸着されるというわけさ……>
こ、この余裕かまし、殴りてへぇぇぇ……いやそれより何だそのマジックボールはッ。搦め手が過ぎやしねえか?
<材質の異なる手球を使い分けることなどは、正当なるボッチャでもやられていることだ。まあ勾配具の寸法は最大展開時に二・五メートルかける一メートルに収まる寸法と定められているが、その辺は気にするな。それよりもその程度のハンデがあるだけで屈するのかね? まあまあ自由に動く身体がある分際で。ええ?>
この野郎……論点をすり替えうやむやの内に正当化させちまう話術は俺の専売だコラぁッ!! とイキりたいとこだがいや落ち着け。承服しかねる不当な事態だが、その上でこれを受け入れ、さらにさらにのその上で勝利をもぎ取ることが出来たのなら……? 先ほどから驚きの表情を浮かべっぱなしでいながら、それを上書いてくるようなキラキラした目で俺らの一挙手に熱く着目してくれている天使は、
ひょっとしたらこの勝者に惚れてまうかも知れない……
あまりジトーの事をとやかくは言えないメンタルだが、ふっ……そう言えばこの場に来た最大にして唯一の目的を忘れるところだったぜ……野郎の含んだような物言いには本当に腹が立つが、もぉぉぉいいッ、完璧投球で黙らせてやるぜぇぁあッ!!
と思ったが、
三度唐突に、やっぱり俺の視界やら意識やらの埒外から、やって来るよね……蒼の衝撃は……!!
現状局面、「的球から最も近くない」のはJ三郎の青球になっていたのを失念しとったよ……つうか本当にあいつはこの競技中しゃべらねえな……その分その投球に物を言わしているようで、いや……それが本件における奴の手かも知れねえ。今頃になっててめえの放つ一言一句が己に利を為さないことを学習し始めたのか……とのもう何かxyz軸に幾度もずれ動く思考を展開させてしまう俺の眼前で、青球は毎度のように迷いの無さそうな一直線の弾道にて、此度も的球着弾狙いで撃ち込まれていく。
「!!」
うまい……ッ!! 三つの緑球に包囲された白球に的確にぶつかった青球は、またしてもその上空にふわりと垂直に上がり、もう一度その直下の白球に力無く当たると、ころりと転げ落ちるようにしてまず六時方向にあった緑球にしなだれかかるようにしてから、周囲唯一「空席」だった九時方向にぽろり落ち込んだのであった。
なるほど、緑がおいそれと動かねえってんなら、それをも「的」プラス勢い殺す「緩衝材」として使っちまえってことか……そこまで深く考えているかは不明だが、それをこなせるコントロールを奴は持っている。と、横の車椅子の振動が激しくなってきたぞ……呑気に何喜んでやがるんだっつうの、本当によぉ。
とかもう鉄腕の挙動をいちいち拾い気にしている場合でも無え。俺の手番だ。勝負はもう相当な「接近」戦と化している。的球の四方を取り囲む緑三球と青一球。どれも接しては無さそうだが、緑を動かすのはおそらく俺には不可能だ。「スティック」とかのたまってた「吸着球」は先ほどのJ山君の猛球を受けてもほぼその包囲網を広げてはいねえ。転がすしか手段を持たない俺にそれ以上のパワー球は望めねえし、力いっぱい投げ放ったらどこ行くか分からねえよ……
精密投擲、それがどうやら俺に残されたというか、たったひとつ与えられた武器だ。それを最大限高めて、この状況を打破することは本当に出来ねえのか……?
白球をあの包囲網の外へ救い出す、ダメだ。例えJの青球を弾いて白球を露出させたところで他の三方を「動かない緑球」に囲われてんだ。それ以上はどうやっても無理……かといって「球で球を引っ張り出す」なんて芸当は、双方が強力な磁力を帯びてたりしねえと出来ねえよな……
しょうがねえ。出来ることはもうこれしか無え。青球を押しのけて白球に接するようなそんな球を放つ。相棒には悪いがこれも勝負……あ、いや元よりそんな共闘感は無かったか……
腹は決まった。第四投。だいぶ慣れて余計な力も入らなくなってきた前かがみの投球姿勢で、俺は赤球を放ち転がしていく。
「……」
直球はもうマスターしたと言っても過言じゃあねえな。開始からずっと真っすぐしか投げてねえが、今回もこれ以上は無い軌道で滑り寄せていけたぜ……まさに、青球を球一個分押しのけるようにして。よし。
またしても押し殺すかのような溜め息がこの大空間の空気を控えめに震わせる。割とこういう空気、悪くはねえな。いやいや考えてる場合か、局面の把握だ。
が、白球の周りに群がる三色の球。こいつぁもうどれが一番近くて遠いかとか、この角度この距離からじゃ分からねえな……とか思っていたら。
「……青の投球で、お願いします」
すっと可憐に、さくり機敏に車椅子を操り、腕を伸ばしてその混雑した球らの上部に端末を翳したエビノ氏が、そんな凛々しくも愛らしい声で告げてくれるわけで。球距離を測れるアプリとかあるのか、そして何とか俺はジトーを押し出せたわけだ。これも勝負だ悪く思うなよ……との心中で一応そう詫びのようなのたまいをしてみるのだが。
刹那、だった……
再三再四の無言唐突剛球は既にエビノ氏が離れるや否やの時点で撃ち放たれていたようで。そして今度の狙いはまごうことなく俺の今しがた絶妙に設置された赤球であったわけで。綺麗にそれに着弾し弾き飛ばしつつ、またも上空へのふわり浮き上がり……そしてさらに今回のは強烈なバックスピンもかけられていたようで、着地した瞬間、意思でも持ってんじゃねえかくらいの人為的っぽい動きで白球に擦り寄っていきやがったよコイツこうまで非情になれるんだね一瞬でもお前さんの事を気にかけ考えていた俺が逆に恥ずかしいわェ……
「三つ巴戦」。図らずも俺が最初にぶち上げた名称の通りに、場は進行しつつある……互いの意地のぶつかり合いというか、煩悩とか欲望とか劣情とかに代表される、良く言えば人間らしい、悪く言えばストレート無恥なる感情の迸りがこのフィールドの、さらに狭いひと区画において渦巻いておる……
球数は三者ともに残り二球ずつ。もつれもつれて膠着はなはだしい終盤戦……もう頼れるのは自分しかいねえ……やつらを出し抜くには……どうしたら。いったいどうしたらいいんだ……ッ!!
始めた時とはだいぶ様相が変わって来た坩堝のような鉄火場のド真ん中で、俺は必死で思考を巡らすのであるが。
「……!!」
不自然な現状、思わせぶりな野郎の言動、そこから導かれることは明白……
「……随分いろいろカマしてくれるじゃねえかよ。そうまで勝ちを拾いたいっつうのか、この素人らに対して」
もはや機嫌すら良さげな断続的空気音をせわしなく繰り出しながら、横の車椅子までも小刻みに揺れてやがる。野郎……何かしらまた仕込んでやがったなっ。
<……はっは。メリットがあるならばそれを最大限盛る。躊躇とか遠慮とかは無縁の世界であれば、それは至極当然のこと>
……こいつの正体が掴めなくなってきた。「神聖」言うてたのが遥か昔のことに感じられるぜ……無法の暴君と化したかのような野郎の、しかし奥の奥の真意までは皆目、測れそうには無え。今はそれより、
「あの配置してた『緑球』も『重い』ってわけかよ」
同じ大きさのものが衝突した場合、軽い方が重い方に弾き飛ばされる、そいつぁ世の理だ。俺の放った赤球は、的とした白球に重なるぴったり軌道で転がっていったものの、強めに放っていたもんだから白球に衝突して跳ね返されたと。もちろん白球自体は俺が投げた奴から変わってないはず。だから重さは赤とそうは変わらねえ。だがその後ろに控えていた三つの「緑球」……それらが白球を後押しするかのようにその場に結構な重量をもって鎮座していたのなら……? そういうことだったわけだ。
<ああ、いや、色々と見せたいと思ってだね、あれらは『スティック』だ>
上機嫌そうな声色は結構だが、まったくもって意味が分からねえんだよ……俺をイラつかせるという戦略ならとっくにハマっちまってるけどよぉ……この怒りを集中力に絶対転化してやるからなぁ……!!
ガラにも無く憤怒の形相を隠さず俺は野郎に詳細説明を促すが。
<静置されることにより、徐々に自重により床面に吸着されるというわけさ……>
こ、この余裕かまし、殴りてへぇぇぇ……いやそれより何だそのマジックボールはッ。搦め手が過ぎやしねえか?
<材質の異なる手球を使い分けることなどは、正当なるボッチャでもやられていることだ。まあ勾配具の寸法は最大展開時に二・五メートルかける一メートルに収まる寸法と定められているが、その辺は気にするな。それよりもその程度のハンデがあるだけで屈するのかね? まあまあ自由に動く身体がある分際で。ええ?>
この野郎……論点をすり替えうやむやの内に正当化させちまう話術は俺の専売だコラぁッ!! とイキりたいとこだがいや落ち着け。承服しかねる不当な事態だが、その上でこれを受け入れ、さらにさらにのその上で勝利をもぎ取ることが出来たのなら……? 先ほどから驚きの表情を浮かべっぱなしでいながら、それを上書いてくるようなキラキラした目で俺らの一挙手に熱く着目してくれている天使は、
ひょっとしたらこの勝者に惚れてまうかも知れない……
あまりジトーの事をとやかくは言えないメンタルだが、ふっ……そう言えばこの場に来た最大にして唯一の目的を忘れるところだったぜ……野郎の含んだような物言いには本当に腹が立つが、もぉぉぉいいッ、完璧投球で黙らせてやるぜぇぁあッ!!
と思ったが、
三度唐突に、やっぱり俺の視界やら意識やらの埒外から、やって来るよね……蒼の衝撃は……!!
現状局面、「的球から最も近くない」のはJ三郎の青球になっていたのを失念しとったよ……つうか本当にあいつはこの競技中しゃべらねえな……その分その投球に物を言わしているようで、いや……それが本件における奴の手かも知れねえ。今頃になっててめえの放つ一言一句が己に利を為さないことを学習し始めたのか……とのもう何かxyz軸に幾度もずれ動く思考を展開させてしまう俺の眼前で、青球は毎度のように迷いの無さそうな一直線の弾道にて、此度も的球着弾狙いで撃ち込まれていく。
「!!」
うまい……ッ!! 三つの緑球に包囲された白球に的確にぶつかった青球は、またしてもその上空にふわりと垂直に上がり、もう一度その直下の白球に力無く当たると、ころりと転げ落ちるようにしてまず六時方向にあった緑球にしなだれかかるようにしてから、周囲唯一「空席」だった九時方向にぽろり落ち込んだのであった。
なるほど、緑がおいそれと動かねえってんなら、それをも「的」プラス勢い殺す「緩衝材」として使っちまえってことか……そこまで深く考えているかは不明だが、それをこなせるコントロールを奴は持っている。と、横の車椅子の振動が激しくなってきたぞ……呑気に何喜んでやがるんだっつうの、本当によぉ。
とかもう鉄腕の挙動をいちいち拾い気にしている場合でも無え。俺の手番だ。勝負はもう相当な「接近」戦と化している。的球の四方を取り囲む緑三球と青一球。どれも接しては無さそうだが、緑を動かすのはおそらく俺には不可能だ。「スティック」とかのたまってた「吸着球」は先ほどのJ山君の猛球を受けてもほぼその包囲網を広げてはいねえ。転がすしか手段を持たない俺にそれ以上のパワー球は望めねえし、力いっぱい投げ放ったらどこ行くか分からねえよ……
精密投擲、それがどうやら俺に残されたというか、たったひとつ与えられた武器だ。それを最大限高めて、この状況を打破することは本当に出来ねえのか……?
白球をあの包囲網の外へ救い出す、ダメだ。例えJの青球を弾いて白球を露出させたところで他の三方を「動かない緑球」に囲われてんだ。それ以上はどうやっても無理……かといって「球で球を引っ張り出す」なんて芸当は、双方が強力な磁力を帯びてたりしねえと出来ねえよな……
しょうがねえ。出来ることはもうこれしか無え。青球を押しのけて白球に接するようなそんな球を放つ。相棒には悪いがこれも勝負……あ、いや元よりそんな共闘感は無かったか……
腹は決まった。第四投。だいぶ慣れて余計な力も入らなくなってきた前かがみの投球姿勢で、俺は赤球を放ち転がしていく。
「……」
直球はもうマスターしたと言っても過言じゃあねえな。開始からずっと真っすぐしか投げてねえが、今回もこれ以上は無い軌道で滑り寄せていけたぜ……まさに、青球を球一個分押しのけるようにして。よし。
またしても押し殺すかのような溜め息がこの大空間の空気を控えめに震わせる。割とこういう空気、悪くはねえな。いやいや考えてる場合か、局面の把握だ。
が、白球の周りに群がる三色の球。こいつぁもうどれが一番近くて遠いかとか、この角度この距離からじゃ分からねえな……とか思っていたら。
「……青の投球で、お願いします」
すっと可憐に、さくり機敏に車椅子を操り、腕を伸ばしてその混雑した球らの上部に端末を翳したエビノ氏が、そんな凛々しくも愛らしい声で告げてくれるわけで。球距離を測れるアプリとかあるのか、そして何とか俺はジトーを押し出せたわけだ。これも勝負だ悪く思うなよ……との心中で一応そう詫びのようなのたまいをしてみるのだが。
刹那、だった……
再三再四の無言唐突剛球は既にエビノ氏が離れるや否やの時点で撃ち放たれていたようで。そして今度の狙いはまごうことなく俺の今しがた絶妙に設置された赤球であったわけで。綺麗にそれに着弾し弾き飛ばしつつ、またも上空へのふわり浮き上がり……そしてさらに今回のは強烈なバックスピンもかけられていたようで、着地した瞬間、意思でも持ってんじゃねえかくらいの人為的っぽい動きで白球に擦り寄っていきやがったよコイツこうまで非情になれるんだね一瞬でもお前さんの事を気にかけ考えていた俺が逆に恥ずかしいわェ……
「三つ巴戦」。図らずも俺が最初にぶち上げた名称の通りに、場は進行しつつある……互いの意地のぶつかり合いというか、煩悩とか欲望とか劣情とかに代表される、良く言えば人間らしい、悪く言えばストレート無恥なる感情の迸りがこのフィールドの、さらに狭いひと区画において渦巻いておる……
球数は三者ともに残り二球ずつ。もつれもつれて膠着はなはだしい終盤戦……もう頼れるのは自分しかいねえ……やつらを出し抜くには……どうしたら。いったいどうしたらいいんだ……ッ!!
始めた時とはだいぶ様相が変わって来た坩堝のような鉄火場のド真ん中で、俺は必死で思考を巡らすのであるが。
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