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第弐章:ムロトー/ナイトフィーバー/レリGO
#079:終結な(あるいは、戦慄の桂馬)
しおりを挟む「先手着手ッ!! 後手ナンバー29、残り25秒で着手してくださいっ!」
すべてを出し切った感……もう体も満足には動かないし、頭も回らない。後手の着手を待って、そこでおそらく勝敗は決する。
「……達磨、レーゼ、まだ脚は動くか?」
そう呟くようにチームメイトに問う桂馬。頭はすでにクールダウンしているようだが、その頬はこけ落ちて憔悴しきっているように見える。
「……行けと言われれば行くぜ。脚が攣ろうがケツが攣ろうがよお」
忠村寺も絞り出す声でそれに応じるが、その顎の先からは汗の雫が絶え間なく垂れ落ちていっている。疲労は、僕ら6人全員にもったりと、確実にもたれかかって来ていた。
「……さっき言ったことは忘れてくれ」
そして桂馬が吹き消すようにさらりと言う。先ほどの唐突告白のことだろう。桂馬の疲弊しきった顔は、でも余計なこわばりが抜けて、何というか微笑んでいるようにすら見えた。この人も出し切ったんだろう。僕が今感じている不思議な爽快感に、桂馬も包まれているに違いない。
忠村寺はと言うと、こちらはやや強ばった、でも真剣な表情でこう言い放った。
「忘れられねえし、咀嚼も今は出来そうに無いから、そのまま飲み込んでおくことにするぜ。俺の胸の内に」
忠村寺……敵ながら見事。桂馬はついにくくっと小さく笑った。そして。
<先手:47,669pt × 後手:着手なし>
立場は先ほどと逆。そして先ほどを上回る評点。良かった……僕はまだ飽きられているわけではないんだ……
「……俺が全て請け負う。お前らは何とかしのいで次を着手してくれ」
何かが吹っ切れたかのような先ほどからの桂馬。その右手はハンドルの「請負ボタン」を強く押していた。しかし、
「いや、もう切る札がねえよ。潔く全員で食らおうぜ」
忠村寺も、
「……」
レーゼさんも、そのハンドルに取り付けられた「請負ボタン」を押し込んでいた。
<忠村寺:15,889pt―桂馬:15,889pt―レーゼ:15,889pt>
ショックレベルは綺麗に揃った。そしてそのまま動かない。終わる。長かった戦いが。
「ブースト5秒前!! 4……3……」
心無しか神妙な顔つきで、リアちゃんが無情のカウントを始めた。球場内もいつの間にか静まり返っている。と、その時だった。
「……棄権する」
そう言うやいなや、桂馬がペダルから足を離した。電気ショック炸裂1秒前で、「ナンバー29:棄権」の文字にディスプレイが切り替わる。
「!! ……勝者:ナンバー19!! 決着です!!」
リアちゃんが告げた声に、観客たちの歓声がどわんといった感じで再び戻ってきた。勝った……終わった……
「桂馬……」
そして忠村寺が何かを言おうとしたのを制して、桂馬がその臀部辺りをねめ回すように見ながらこう言って、この長きに渡る死闘は幕を閉じたのであった。
「俺のケツをこれ以上キズものにされてもたまらんしな」
こわいよ……!! 一見知的そうな大人がマジでこわいことを言うよ……!!
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