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第壱章:室戸/ミサキの事情*
#045:決然な(あるいは、カチューシャから想いを)
しおりを挟む救急車はそれから十分ほどして到着した。丸男のどでかい体は救急隊員二人がかりの手により、座る担架のような器具で後部ドアから担ぎ乗せられる。その後から僕とジョリーさんも付き添いで乗り込むのだけれど。
「こっちの後始末諸々はやっておく。少年、くれぐれも頼んだぜ」
その際にアオナギから改めてそんな言葉をかけられる。わかりました、と振り返りながら頷く僕。ドアが閉められると、クルマはゆっくりと動き始めた。
アオナギが軽く手を振るその姿が、窓から小さくなっていく。重苦しい沈黙が車内に充満してきた。くそっ、何てことしてくれたんだ。いや、もしかしたら僕の……僕のせいかも知れない。僕が為井戸の奴を追い詰めたから?
「室戸ちゃんよぉ。自分のせいとかそんなこと思ってんだったら違うぜぇ……」
横目で僕の方を見つつ、丸男がそう言ってくる。
「こんな事は日常茶飯事よ。ダメ人間の中には……ほんとのクズも大勢いる」
ふーふーと鼻から苦しげな息を吐きながらも、丸男はやけに落ち着いた物言いだ。
「でもよぉ、そういう輩もダメで黙らせるのが、真のダメ人間よ。俺は何一つまともには出来てこなかったしょうもない奴だけどよぉ、これだけには真剣に取り組んでいきたいんでぇ。何せ俺を生かしてくれた恩人みたいなもんなんだからよぉ」
今までも、アオナギや、カワミナミさんからもそういった事は聞いてきた。ダメ人間コンテストは、ダメ人間たちを救うものなんだろうか……僕はもう、何も言葉には出来そうになかった。ただ早く治療を受けてもらいたい。それだけだ。
「頼むぜ。エントリーして待っててくれ。必ず行くからよぉ」
丸男はそう言うと、気を失ったかのように目を閉じた。僕も目をつぶりたかったけど、こぼれ落ちそうだったから見開いて波が過ぎ去るのを待った。車は福島市内に入ったようだ。
「ムロっちゃん、マルちゃんのことは任せてぇん。あなたは東京に戻ってエントリー。それだけを今は考えてねぇん」
病院に着くと、ジョリーさんはそう言って僕の肩に手を置いた。わかってます。ひと足先に行って、待ってます。ジョリーさんから交通費諸々を受け取ると、僕はメイド服に赤いダウンジャケットを羽織って福島駅に向けて早足で歩き始めた。人の目は……もう気にならない。エントリー。僕の頭にはそれだけしか無くなっていた。
やってやる。絶対に三人で戦ってやるんだ!! 決然とそう思いつつも、やっぱり頭のカチューシャは目立つよねーとそそくさと懐にしまう僕であった。
金曜午後2時。決戦まで、あと16時間!!
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